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第十六話 『次の目的地』

 

 リシア誘拐事件から三日が過ぎた。

 俺達は、勇者の行方を調べながら次の旅支度を進めている。


 時は正午前。

 俺とリシアは、フィリアにお使いを頼まれ、商店街を歩いていた。頼まれた物は全部で五つ、まず俺とリシアの旅用の洋服だ。

 この旅の間、俺もリシアも式典用の礼服をずっと着続けていた。道中、袖を切ったり、川で洗ったりはしたが流石にくたびれてきた。

 リシアの服に関しては、破れて殆ど下着が見えかけている。


 後は、大陸地図、縄、短刀、剣が欲しいとせがんでみたが子供には早いと断られた。なので妥協の末の短刀、ナイフだ。

 それから薬草、これに関してはフィリアが治療魔術を扱える為、使う場面は少なそうだが、念の為だと言っていた。

 他に必要な物やギルドでの書類の発行は全てフィリアが受け持ってくれている。流石は元勇者パーティ旅に必要の物や心得は全て熟知している様だ。

 そう言う所は素直に尊敬している。

 そんな訳で既に地図と縄、薬草を購入した俺達は、旅用の服を買いに、街の洋服屋へとやって来た。


 「これにするわ」

 

 少女が選んで持って来たのは、大人用の冒険者服。丈夫な生地と生き物の皮で仕立てた耐久性の高そうな服だ。胸の部分には盛り上がった亀の甲羅の様な素材が使われており、急所を守る為に効果的な構造をしている。


 「ダメだ。それじゃあ重いしお前には大き過ぎるだろ? もっと軽くて、動きやすいのにしなさい」

 「頑張って大きくなる」

 「いつかはな。でも、そのぺったんこの胸じゃあ隙間にネズミが住み着くぞ」

 「・・・・仲良く出来るわ」


 あの日以来、リシアは少しずつ会話をしてくれる様になった。何かが吹っ切れたのか、何か本人の中で思う所があったのか、それは分からない。 

 だが、共に旅をする以上、お互いの考えを話し合えた方が上手く行く事も多いだろう。


 「ダメだ」



----



 軽装かつ機能重視で三日分の洋服を購入した俺とリシアは続いて、短剣を探すべく武具屋へと向かっている。


 聞いたと所に寄ると、この街には武具屋が四つ有るそうだ。その中の一つは勇者の話を聞きに行ったあの武具屋だ。

 だがあの店は、剣や短剣は少なく、主に鎧や兜、大剣や槍などの武具を主に扱っている様に思えた。

 その為今回は、別の店に向かう。

 残る三つの内の一つは、貴族や騎士の称号を持っていて、かつ会員とやらにならなければ店に入れないらしい。

 面倒な制度だが、決まりなら仕方ない。


 そう言う訳で残り二つの内の一つ、街の鍛治師の男が営む、武具屋に向かう事にした。

 フィリア曰く、その武具屋は目立つ緑色の建物の隣にあるらしい。その為、緑色の建物を目印に武具屋を探す事になる。

 

 時刻は昼下がり、早朝から依頼に出た冒険者達が昼食を取りに帰って来る時間だ。それに応じて街の飲食店の多くが暖簾を上げ始める。


 「ルイス、アレは何?」


 隣を歩く少女が指刺したのは、串焼き屋の屋台。

 ジュウジュウと肉が焼ける音と共に煙に乗ってタレと肉の焼ける香りが漂ってくる。

 その香りに釣られて冒険者や観光客が集まり、次々と列に加わっていく。

 

 その香ばしい匂いに少年と少女も腹の虫が鳴るのを感じた。


 む、そういえば昼飯がまだだった。  

 屋台で何か買い食いする分にはフィリアも何も言うまい。


 「あれは串焼きだ。肉を炭火で焼いた肉にタレを塗って、串に刺した食べ物だ。食べてみるか? 」

 「食べる」

 

 2人で屋台の列に並び、串焼きを買って渡してやると少女は、ふぅふぅと息をかけて焼きたての肉を冷ましていた。


 「熱いから火傷しないようにな」

 

 そう言うと、少女はコクリと頷き、慎重に串に刺さる1番上の肉にかぶりついた。


 子を持った事は無いが子育てをしている気分になる。何故か放って置けない、子を持つ親とはこんな気分なのだろうか。


 串焼きを片手に屋台が立ち並ぶ露店市場を抜けて武具屋のある市街へと進む。

 人混みを通り抜け、しばらく歩いると目印の緑色の屋根の建物が見えて来た。


 どうやら目的の武具屋の近くまでやってきたようだ。いい短刀が有るといいが、俺はこれで居て刃物を見る目は、それなりに高いと自負している。

 刃とは、己の恐怖心や悪き心を断ち切り、真に己と向き合う為のいわば、心の道具。

 未熟な者が打った刀には妥協や甘えが色濃く現れ、切れ味にも影響する。

 逆にいい鍛冶師が打った刀は、握った瞬間周りの音が聞こえなくなる程研ぎ澄まされる瞬間がある。

 我が愛刀、備前長光の時がそうでだった。


 「そうだ、宿に帰ったらあの細剣をお前に渡そう。剣の稽古は明日から毎日行うぞ」


 二日程前、リシアから剣の稽古をつけて欲しいと頼まれた。何でもあの護衛のモンカの様に剣を扱える様になりたいらしい。


 あの細剣、モンカ殿に返しそびれて結局ずっと俺が持っていた。ならば、リシアに渡すのが一番モンカ殿も喜ぶだろう。俺に教えれる事は全て教えてやろう。

 

 そして、ふと隣を見ると少女がこちらをジッと見つめていた。

 少女は、既に串焼きを食べ終え、少年、正しくは少年の持つ串焼きに釘付けになっていた。


 「食べるか?」

 「いいの?」

 

 少女に串焼きを渡そうとしてある事を思い出す。それは一年程前、とある少女との思い出の一つ。

 そう言えば、この国では飯を分ける時はこうするのであったな。


 「はい、あーん」


 突然、顔の前に差し出さられた串焼きに困惑しながらも少女は、肉へとかぶり付く。


 「美味いか? 」

 「うまい」

 

 これは、アレだな。共に買い物をして飯を分け合う。何と言ったか、そうだ!


「これはデートと言うやつだな! 」

 「違う」


 違うのか・・・・難しいな。

 デートとは、こう言うものだと認識していたが、まだまだ勉強不足か。


 少女に否定され文化の違いと深さに付いて考えながら進んでいると、目的の武具屋が見えてきた。燻んだ旬色の屋根に、看板にはドイルの鍛治工房の文字。


 あれがそうか。鍛治工房と武具屋が一緒になった建物らしい。鍛治師自らが、販売していると言う事か、俺は悪い物に対しては悪いと言うぞ。例え、それが作った本人でも厳しく行く、それが剣なら尚更だ。


 肉の消えた串を受け取り、武具屋の建物へと歩いていると、突然背後から男の声で呼び止められた。


 「はい?僕達でしょうか?」


 振り返ると4人の大柄兵士の姿があった。

 そして兵士達は、俺とリシアの顔を確認すると武器を抜きこちらに歩いて来る。


 「抵抗も逃走もするな、すれば痛い目をみる」

 「ルイス、下がってて」


 少女は、兵士達に気つくと、素早く少年の前に出た。そして、手のひらを上に向けると白く鋭い、氷の矢の様な物を出現させた。


 「リシア、それって」

 「真似した。あいつの技」


 それは、式典に現れた魔王が出した黒い矢と酷似していた。

 一瞬、式典での出来事が頭をよぎる。


 盗んだのか魔王の術を、全く同じでは無いが、かなりの精度だ。才女、と呼ばれて居るだけはある。

 

 「そうか・・・・やるな」


 「うん」と嬉し気に頷くと少女は続いて、3本の氷の矢を出現させる。それから冷たい眼差しで兵士達に射線を合わせた。


 「待ちなさい!」


 少女が氷の矢を放とうとした、その瞬。

 聞き覚えのある声によって静止された。

 その声は、この街まで共に旅をしたエルフの女フィリアのものであった。


 彼女は、兵士達が来たであろう方向からこちらに走って来ていた。


 「フィリア殿? この人達は一体何者ですか」

 「そいつらは敵じゃ無いわ。今は、まだね」



----



 あの後、息を荒くして登場したフィリアにより、ざっくりとした説明を受けた。あの兵士達は、ここセルムハット領の領主に支える兵士だという事が分かった。領主の命により、フィリアと俺そして、リシアの三人を呼びに来たらしい。

 理由は、まだフィリア自身も知らされてないらしいが俺達三人は、領主に呼び出しを食らった。そんな訳で俺達三人は、訳も分からずこの街にある領主の別荘へと連れて来られていた。


 嫌な予感がする。

 ここの領主と言えば、この間街で見かけた凶暴で偏屈そうな中年のおやじだ。あの手の輩は些細な事で機嫌を損ねて打首だ、などと言いだしかねん。

 いざとなれば俺が大暴れして、どうにかリシアだけでも逃すか。

 

 そこはセルムハット領、領主カルダン・エルムフォードが所有する別荘の一室。


 部屋の正面には派手な赤色の椅子が置かれており、その椅子の前にある階段の下で手を施錠された3人が地べたに座らされている。


 その状態で待つ事、かれこれ1時間。

 この場所からどう抜け出すか、もしくはどう切り抜けるかなどを考えていると、後ろの入り口の扉が開かれた。


 「トレスニア王国、3柱が1つ。セルムハット領、領主。カルダン・エルムフォード公爵閣下の御成である」


 その声は、ラッパや太鼓の演奏と共に室内へと鳴り響く。それから兵士達が左右に立ち並だその真ん中をゆっくりと歩いてその男は、現れた。


 口髭を蓄えた鋭い目付きの中年の男。

 男は地面に座る3人の脇を通り、赤い椅子へと腰を下ろす。


 「断罪の時間だ。罪人共め」

 「早くこれ外してくれない?」

 

 椅子にふんぞり返って横柄な態度で話す男に対して、エルフの女は臆する事無く立ち上がり、言葉を返した。


 「おい、女!閣下に対して無礼であろう、今すぐ跪け!」

 「チッ」


 入り口付近から飛んできた兵士の声にエルフの女は、渋々と跪く。


 「ガッハッハ、今のワシは公爵だぞ。エルム族でも長生きすればボケてくるのか?」

 「御託はいいわ。何で私達を捕らえたのかさっさと言いなさい」


 エルフの女言葉に、男はつまらなそうな顔で座り直し、頬杖を付いて話し始める。


 「フンッ、相変わらずつまらん女だ。お前達が数日前、教会を破壊した件だ。その件で氷神教団と冒険者ギルドからお前達の引き渡しを要求されておる」

 「その件ならどう考えたって向こう側に非があるでしょ。子供を攫っておいて自業自得よ!」


 なる程、そう言う事か。あの教会をリシアがぶち壊した件で俺達をしょっ引くつもりだったか。


 「そんな事は分かっておる。それでも奴らは神の代弁者を名乗っておるのだ、教会が破壊されて3人の神父が殺されれば神への冒涜と捉えられても仕方のない事だ」


 どうする、逃げ出すか?

  でもどうやって、来る前に木刀は取り上げられた。それに施錠されたこの腕ではまともに戦えはしない。そうだ、魔術なら、いや詠唱している間にやられる。どう切り抜けるべきか。


 「もし引き渡された場合、我々はどうなるのでしょうか?」

 「ふん、このエルフと小娘は知らんが、間違い無くお前は処刑されるであろうな」


 少年から投げかけられた質問に男は、意地の悪い笑顔で答える。


 「お前達の事は少し調べさせた。エルフは調べるまでも無い。勇者の元恋人だ、この街の者なら皆んな知っておる。

 だが小娘、お前はスリフィノールの血族らしいな。リットベルの領主の娘となれば、奴らも利用出来ると考えるのが自然だろう。

 そして小僧、お前に関しても調べさせたが、何1つ見つからなかった。どうせ、そこらの農民、もしくは孤児か何かだろう。そんな小僧に利用価値などは無い。男色の神父に食われるか、処刑されるのが関の山だ」



 それを言い終えると、男は「ガッハッハ」と笑い、椅子から立ち上がる。そして、歩いて3人の側に向かうと地面に座る少年を鋭い目付きで見下ろした。


 「どうする小僧、いっそ決闘裁判でも挑んでみるか?この間挑んで来た若僧はワシの優秀な護衛に首をへし折られて死んだがな」


 決闘裁判? 若僧とは、あの時の銀髪の騎士の事か、あの男前が殺された?

 かなり実力者の様に思えたが、領主の護衛とはそれ程の猛者なのか。


 「そろそろ本題を話しなさいよ。すぐに引き渡さず、つまらない話をしてくるのは何か理由があるんでしょ?」

 「ふん、伊達に130年生きてきた訳では無いな」


 「118年よ!」と男の言葉を訂正するエルフの女を尻目に領主カルダルは椅子へと戻り、座り直した。

 「お前達を逃してやってもいい。それに旅の支援をしてやる事も出来る」

 「本当ですか!?」

 

 食い気味の少年の言葉に領主の男は、今日1番の不気味な笑顔で言葉を返す。


 「ただし、2つ条件がある」

 「条件?」

 「ああ、1つはワシの駒となり旅をする事」


 一つ目の条件は領主カルガルの駒となり幾つかの国でとある情報を集めて手紙で知らせると言うもの。 

 俺達三人が、その条件を承諾するとダンガルは、兵士に言って俺達の手縄を外させた。

 

 「何の為にそんな情報が必要なわけ?」

 「もう時期、ここトレスニア王国と隣国のランドルア帝国で戦争が起こる。その時に必要になるやも知れん」

 「ランドルアと?そんな山脈の向こう側の国とどうやって戦争するのよ」

 「ランドルアは世界最強の水軍を保有している。奴らは海を渡ってこの国に侵略戦争を仕掛ける気だ」

 「はぁ、呆れた。相変わらず愚かな種族ね」

 「ガッハッハ!まったく、その通りだ」


 どの国、どの時代でも必ず争いは起きる。

 人は戦で奪い奪われながら、発展して来た。

 それは、この世界でも同じなのであろう。


 「そして2つ目、それは勇者を抹殺する事だ」


 領主カルガルのその言葉で和みかけていた、その場の空気は再び、張り詰めたものへと変わる。勇者抹殺と聞いてエルフの女は、眉をピクリと動かし、鋭い目付きで男を睨んだ。


 「本気で私がその条件を飲むと思っている訳?」


 「そう言うだろうと思っておったわ。勇者は見つけ次第殺せ・・・・と言いたい所だが、我が愛しいの孫娘マージョリーの父親だ。マージョリーに免じて真意を話す場を設けてやる事にする。よって勇者ミヤギ・トウジを発見した際は何よりも優先してワシの前に連れて来い。それが条件だ。

 「・・・」


 勇者が領主の娘を孕ませて逃げだと言う話しは事実の様だな。やけに冷静なのが、逆に不気味だ、かなり怒って居るのだろう。

 愛娘にそんな仕打ちをした男だ、殺したいと思っても無理も無いか。


 「分かりました。その条件を飲みます」


 黙りこんで話さないエルフの女の代わりに少年が、その条件を承諾すると、領主の男は、満足気に笑い頷いた。


 その後俺達は、領主カルダルと幾つかの取り決めをした。


 一つ旅の間俺達は、本名を隠して偽名で行動する事。

 二つ新たな街や国に到着した際には伝書鳩を飛ばし、状況を詳しく記した手紙を送る事。

 三つ金銭的な援助はするが、トラブルやその他の問題が起きた際、決してこの取り決め及び、エルムフォードの名を口外しない事。


 そのどれかを破った場合には、俺達の全ての情報と居場所を氷神教と冒険者ギルドの両方に情報提供し、大罪人として手配すると言う半ば脅しに近い取り決めであった。


 そして俺達は、夜まで領主の邸に滞在し、街の皆が寝静まった深夜の内に、カルダルが手配した馬車で夜闇の中街を後にした。


 次の目的地は、邸を出る前に決めた。

 王都に行きたがっていたフィリアの意見を無視して、カルダンが提案した場所に決定した。


 大陸で最も魔術の研究が進み、世界中の魔道を歩む者達が訪れる魔術聖地。そして歴史上唯一、共和制で発展した国家。


 魔術の道を志す、少年の姉と親友が暮らす魔導国家だ。その2人に会える、それだで少年は即決で同意した。

 次の目的地は、シャイントル魔導共和国。



----



 シャルルとエルシャに久しぶりに会える。

 それだけで旅の感覚がガラリと変わった。

 勿論目的を忘れた訳では無い。

 勇者を探し出す、そこは決して変わらない。それに、前々から俺が勇者を探している事を知っているシャルルなら何か情報を掴んで居るかも知れない。

 そしてエルシャには、ちゃんと伝えなければならない事がある。俺の口から。

 

 


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