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第十三話 『旅路』


 スローン城から逃げ出して五日。

 俺達三人は、リットベル領を抜けてセルムハット領へと向かっていた。

 この五日間リシアは、まともに口を聞こうとせず、ひたすら黙り込んでいる。相槌や最低限の返事は返すものの、それ以外の反応は無い。


 あの惨状を目の当たりにして、かなり気が滅入っているらしい。

 だが、それも無理は無い。

 俺自身、少し目を閉じれば魔王の矢によって倒れるメリアの姿が目に浮かぶ。その時の無力感も絶望感も未だ鮮明に残っている。何も出来なかった。俺は弱すぎる。


 俺がこうして正気を保てているのは魔王を殺せる存在である勇者を見つけ出すと言う、明確な目的が出来たからだろう。今はそれに縋る他無い。


 「あんた、さっきから何作ってんのよ?」

 「え? あ、あぁこれは鍛錬用の木刀です。いつどんな時も剣の修行が出来る様に、それにいつ野盗や魔物に襲われるか分からないので護身用として作っておこうかと」


 少年は、何処かから拾ってきた木の棒を細く尖った剣で削りながら答える。


 この金髪の娘は、フィリア・ハート。

 初めて見た時から思っていたが、やはりエルフ族の生まれらしい。少女の様な見た目をしているが実際には百年近く生きている。

 れっきとした老人である。


 「そんな棒切れで戦える訳無いでしょ。まったくお子ちゃまね」

 「貴女からすればそうなりますね。アハハッ」

 「ん? 何か言った? 」

 「いや、何も」


 そんな会話をしながら馬車を走らせる。

 周りに建物は無い。何処までも続く一本道だ。

 この畦道を見ていると前世を思い出す。

 よくこんな感じの田畑を見ながら歩いた。

 以前であればそろそろ米の収穫の時期だろうか。

 久々に米が食いたい。


 そう思いながら外を眺めていると腹の虫が鳴るのが聞こえた。

 「グウゥ」


 腹が減った。

 思えば、この五日間野草や木の実以外まともな飯にあり付けていない。この二人も我慢して居るのだと耐えては居たが、そろそろ限界だ。


 「お腹空いて来たわね」


 すると丁度手綱を握るエルフの女もそう声を漏らした。


 「はい、俺もそう思っていた所です」

 「あ、そう言えば、この辺はボアの生息地だから上手く行けば狩れるかも知れないわよ!」

 「良いですね。しましょう狩! 」

 「この先の上流で馬車を停める事にするわ」


 よし、久々の狩だ。

 冒険者見習いとしの経験が活かせる。それに害獣駆除は俺達の得意分野だった。俺一人で二人の分も狩って驚かせてやるか。


 しばらく馬車を走らせると上流の河原が見えてきた。 河原には綺麗な水が流れており、その周りには水流により運ばれてきた石が所狭しと散らばっている。


 綺麗な川だ。

 なる程、この場所に獲物が水を飲みに来るのを待ち伏せる作戦か。


 「よし、この辺でいいわね! 」


 河原の側の林に馬車を停める。

 エルフの女は、軽快に馬車から飛び降りると何を思ったか突然服を脱ぎ始めた。


 「えっ? 」

 「えっ、って何よ。あんた達もさっさと服脱ぎなさい」

 突然脱ぎ出して何だ急に、あまりの空腹で気でも違ったのか?


 「何故服を?」

 「何故って水浴びをする為に決まってるでしょ? 」

 「え、いいんですか? 」

 「さっきから何言ってるのよ 」


 突然のご褒美。では無く突然の水浴びだ。

 後から聞いた話に寄れば、どうやらボアは嗅覚の優れている生き物らしい。その為水浴びをして少しでも人の匂いを消す事で接近しても気付かれにくくするそうだ。


 「ほら、あんたもドレス脱がせてあげるからこっち来なさい」

 エルフの女は、少女の水色のドレスに手を伸ばし紐をほどき始める。少女はされるがまま万歳をして、あっという間に素っ裸になっていた。

 そう言う事ならと、俺も躊躇無く服を脱ぎ捨て河原へ向かった。



 河原を流れる水は底が透ける程の透明度がある。

 緩やかな水流と冷んやりと心地の良い冷たさを感じながら水浴びを始めた。


 「深い場所もあるから気をつけなさいよ! 」


 水浴びを済ませ、浅瀬で泳いでいると遅れて二人もやって来た。二人共服を脱ぎ生まれたままの姿でこちらへ歩いて来る。

 リシアは、いつも通り無表情のままスタスタと俺の方へと歩く。その後をエルフの娘フィリアが、恥じらい無しと言う顔で追って歩いている。


 「リシア少し冷たいから気をつけて入れよ」

 「・・・・分かった」


 川の側に来ると少女は、言われた通りゆっくりとつま先を水に浸けた。そして、その場にしゃがみ込むと髪を濡らし洗い始める。


 美しい見た目とゆっくりとした動作のせいで年よりも大人びて見える。十年後には絶世の美女へと成長する事間違い無い。


 「冷たっ、よく入れるわねあんた達。私は無理だわ。うぅ寒っ」

 

 エルフの女は、少しつま先だけ浸けるとそそくさと馬車へと戻って行った。


 それに引き換え、こちらは百年生きたとは思えん程若々しくはある。

 だが何とも貧相な・・・・

 それに人の匂いを消す為の水浴びをするのでは無かったのか。などと思いつつ、少し水に浸かり岸へと上がった。



 川から上がり、洋服を着直していると一台の馬車がやって来るのが見えた。手を組み祈る女が描かれたその馬車は少年らの居る河原の側で停車した。

 そして、馬車から神父のような格好をした男達3人こちらへ向かって来る。


 「誰か来ますね」

 「面倒な奴らが来たわね」


 エルフの女が彼らを見てそう呟く。

 女の言葉に若干の緊張感を覚えた少年は馬車の荷台から自作の木刀を取り出した。


 「冒険者、いや商人か? 」


 男達の1人がこちらに歩きながら声をかけて来る。

 「ただの旅人よ。今着替えの途中なんだけど何か用かしら? 」

 「いや、神の供物となるはずだった娘が逃げ出して捜索している所だ。見なかったか?丁度その子達くらいの・・・・」


 男はこちらを見ながら何かを言い掛けて、突然言葉を止めた。

 彼らは目を見開きリシアに視線を向けている。


 「女神様・・・・いやその娘、その方の名前は何とおっしゃるのでしょうか? 」


 何だ? まさか魔王の追っ手か?

いや、あの黒装束達の様な殺気は無い。それに魔王と同じ魔族の様にも見えん。

 何者だこやつら。


 「・・・リシ」

 「エレナ! この子はエレナよ! 」


 少女が口を開き掛けた所でエルフの女が、その言葉を遮るように声を上げる。


 「ほう、エレナ殿ですか。大変お美しいお方だ。まるで我らが女神、氷神様のようですねぇ」


 男は、舐め回す様ないやらしい目つきで少女を見つめた。


 「良かったわねエレナ! さてそろそろ出発するわよ!」

 「あ、どうかお待ちを!! 」

 「何? 私達急いでいるんだけど」


 会話を切り上げて去ろうとするエルフの女を男は懐を弄りながら呼び止める。


 「是非、エレナ殿を私共に売っては貰えませんか? この中に金貨15枚有ります。地方で有れば立派な家が建つでしょう」

 

 そう言うと男は懐から何かが入った布袋を取り出し、さし出して来た。


 「悪いわね。この子は私の友人の娘なの。だから売れないわ。他を当たりなさい」

 「なら金貨20、いや30枚でもいい! 頼む! 」


 男は目を血走らせ、よだれを垂らしながら懇願し始めた。


 前世でも身寄りの無い子供や名家の娘の売り買いは行われていたが。こいつらは明らかに様子がおかしい。やはり魔王の手下か?


 そう思う程に男達は常軌を逸していた。


 「しつこいわね! いくら積まれても無理な物は無理よ! 」

 「そうですか・・・・では残念ですが貴方達には神の天罰を受けて貰う他有りません」


 彼らはそう言うと、腰から忍ばせていた短剣や小斧の様な武器を取り出すとこちらに向けて歩き出した。


 はぁ。

 やはり魔王の手の者か。ただの変質者だとも思ったが、ここまで執拗にリシアを求めるならそうに違い無い。あの魔王の仲間となれば殺さねばならん。ただの人の様に見えるが、もはやどちらでも構わん。腹も減ってむしゃくしゃしていた所だ。向かって来るなら相手をするまで。

 それを見て少年も木刀を手に男達の方へ歩き始めた。


 「ちょっとあんた待ちなさいよ! ルイス! 」

 

 エルフの女が静止するも少年に声は届いて居ない。少年は一切顔色を変えず、木刀を構えるとスッと息を吐く。

 それを見て神父服の1人のが不気味な笑顔でこちらに手を向けて来る。


 「勇気ある少年よ神の祝福を受け、供物となりなさい。 我が神の前にゴゲッ!!」


 男が指に嵌めてある指輪をこちらに向け、何かを唱えようとした瞬間。少年の残像を残した高速の突きを受けて木刀が喉に貫通していた。

 木刀を引き抜くと男はゴボッと血を吐いてその場に倒れる。


 それから遅れて向かって来た二人も手足を叩き折り、頭をかち割ってやった。その様子を見て馬車の荷台から逃げ出そうとした若い男も拾った短刀で刺し殺した。


 こう言う輩は一人でも残して置くと後々面倒な事になる。ここで全員始末して置くに限る。

 魔王の手下なら尚更。


 その日、二度目の人生で初めて人を殺した。

 意外にも罪悪感や後悔は無く、少しの安心感と虚無感だけが残る。

 そんな感覚を覚えた。



----



 その後俺達は、フィリアに言われるまま、急いでその場から立ち去った。


 そして、しばらく馬車を走らせた適当な場所で野宿する事になった。

 結局その日の狩は出来ずじまい。

 道中拾った木の実や果実で飢えを凌ぐ事にした。旅とは思って居たより大変で過酷なものなのだと思い知らせれるな。


 既に日は落ち、2つの月が空に上がっていた。


 「全くとんでもない事しでかしてくれたわね! 」

 「申し訳ない・・・・」


 どうやら先程襲って来たのは魔王の手下などでは無かったらしい。奴らは"氷神教"と言われる宗教の信者だそうだ。

 魔王の件で少し過敏になり過ぎて居た様だ。 

 もっと冷静で居らねば、次に死ぬのは俺達かも知れん。


 「まぁ、あの様子だと面倒は避けられ無かったでしょうけど。 それにしてもあんた普通の子供じゃ無いわね。 奴ら割はとちゃんとした訓練受けて来ているはずよ? 」

 「いや、運が良かっただけですよ。 奴らの中に魔王くらいの手練れが居れば死んでいたのは俺の方でしょう」


 そう答えるとエルフの女は、「何当たり前の事を言っているんだ」と言う顔で笑い、何か思い耽る様に月を見上げていた。

 月明かりに照らされた横顔と夜風に靡かれる金髪が、母メリアの姿と重なって見えた。


 「何よ、じっと見て」 

 「いや、フィリア殿は美人だなと」

 「な、何よ急に。 褒めても食べ物は出ないわよ? 」

 「それは残念です」


 それから会話は途切れ、誰が言い出す訳でも無く俺達はとこに着く。雑に引かれた干し草の上に寝転ぶとあっという間に意識を失った。


 更に夜は更けり、草木も寝静まった頃。

 尿意をもようし目を覚ました。二人を起こさない様に立ち上がり、用をたせる場所を探す。 

 辺りを見回すと側に木を見つけた。

 俺は、そこまでそっと歩いて行きズボンを下ろす。


 「ふぅ」


 この辺りには民家や建物が無いせいか一切物音がしない。偶に風に靡かれる草木の音が聞こえる程度だ。光も空に浮かぶ二つの月明かりだけ。

 暗闇と静寂が不気味さを醸し出している。

 さっさと済ませて眠り直そう。

 そう思い最大質量で用を足して居ると前方で物音がした。


 何だ? 今その辺で音がしたような。魔物、もしくは昼間の奴らの仲間か? 暗闇の中目を凝らし、音のした方を見つめる。

 雲が途切れ、月明かりで照らされるその場所に視線を凝らす。するとそこには小さなネズミの様な生き物が1匹。


 「何だ ネズミか」


 少し安堵しズボンを上げて寝床の方へ向き直る。

 「ルイス」

 「ギャアアア!! 」


 振り返ると目の前に突然現れたのは少女の姿をした幽霊だった。


 幽霊、幼い娘の幽霊が居る。

 黒く長い髪に白い肌、古びた着物それにあの生気の無い瞳。まさしくあれは!! ん?

 あれ? 違う。この子は幽霊では無い。


 「リシ、ア・・・? 」

 「そう、リシア」

 「何だお前か、急に驚かせるなよ」


 まったく、出したばかりで無ければ漏らす所だったぞ。


 「ごめんなさい」

 「リシア、お前も小便か? 」

 「・・・・違う」

 「なら戻るぞ。明日も一日中移動になる。早く寝よう」

 「うん」


 何だ?  変な奴だな。

 まぁリシアが変なのは始めからか。

 それからリシアと寝床に戻り、再び眠りについた。



----



 翌朝。

 俺達は日の出より前に起床し、まだ薄暗い畦道を進んでいた。式典の日以来まともな寝床と食事に有り付けて居無いせいか皆疲労が溜まり、会話はめっきり減った。


 そろそろ腹と背中がくっ付きそうだ。

 だが、耐えろ。目的を果たすまでは決して、泣き言をゆうまい。勇者を見つけるまでは心を無にするのだ。無心になれば空腹など屁も同然。


 「あー、もうっ!いつまで進めば着くよの!疲れた。お風呂入りたい。お腹空いた! 」


 突然エルフの女が叫び出す。女は馬車を路肩に止めると手綱を手放し少年に向かって声を投げかけた。


 「ねぇルイス、御者してみたいわよね? 」

 「え? 別にそんな事無いですけど」

 「良いからちょっとやってみなさいよ。

楽しいわよお馬さん」

 「ちょ、えっ」


 そう言うとエルフの女は少年を荷台から引きずり、馬車の手綱を握らせた。


 「ちょっとフィリア殿、俺御者なんかした事無いですよ。せめてやり方を」

 「そんなの前見て紐握ってりゃいいのよ。ほらほら早く! 」


 エルフの女は、ポンッと少年の背中を叩くと馬車の荷台に入って行く。


 おいおい、本当にそんな適当でいいのか?

馬に乗った事ならあるが馬車を走らせた事は無いぞ。

 

 少年は言われるがまま手綱を持ち、馬車を出発させる。初めは、少し緊張気味で手綱を握る少年だったが、しばらく走らせるとコツを掴んだのか、余裕のある表情で馬車を走らせた。


 「あんた中々やるじゃ無い! その調子よ真っ直ぐ進みなさい! 」

 

 そう声たからかに言うとエルフの女は、荷台に寝転んだ。そして、しばらくするとスピスピと彼女の寝息が聞こえてくた。


 呑気なものだ。ただ疲れて俺にやらせたかっただけではないか。まぁ何もせず乗って居るのにも飽きてきた所だ。それにしても一体何処へ向かっている。果たしてセルムハット領に行けば勇者に会えるのだろうか。


 「昔、こんなふうに仲間と旅をしたわ」


 その声は、後方の馬車の荷台の中から聞こえてきた。


 「フィリア殿、昔は冒険者をして居たんですか?」

 「少し違うわね。 迷宮にも潜ったし竜とも戦ったわ。楽しかったし今思い出しても掛け替えの無い時間だった。でも目的は冒険じゃ無い」

 「ほう、それじゃあ何の為に旅を?」


 そんな会話をしているうちに目線の先に高い塀の様なものが見えてきた。それは道の真っ直ぐ先、何かを取り囲む為に建てられている。


 ん? 何か見えて来たぞ。あれは・・・・


 「パーティ名は『銀雷の槍』、メンバーは魔術師の私に騎士1人と弓使い1人。それとあのクソ男」

 「それって 」


 そう突然、口を開いたのは天色の髪の少女。

 少女は、エルフの女の言葉に驚く様に顔を上げた。


 何だ? 話が全く見えてこん。随分大層な名前のパーティ名だって事は分かったが。リシアは何に反応したんだ?

 

 話しているうちに高い塀とその中に立ち並ぶ建物が見えて来た。それは遠目に見ても街だとはっきり分かる。


 「アイツと初めて出会ったのはここ。始まりの街ブロン 勇者誕生の場所よ 」


 旅を始めて六日。

 俺達は初めての街に到着した。トレスニア王国三大領地の一つセルムハット領。その領内で最も有名な名所。

 勇者誕生の街ブロンに。


 

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