第十二話 『己の使命』
私の名前は、百華。
碓氷百華。
12月3日生まれの21歳、好きな食べ物は蟹とつぶ貝。趣味はカラオケと漫画鑑賞。
そんな何処にでも居る少女・・・・と言う年でも無いので、乙女と言っておきます。
でも心はずっと17歳。
そんな私は、気がつくと異世界にいた。
そう、漫画やアニメでよく題材になる、あの異世界である。
私自身もアニメや漫画を見て何度も憧れを抱き、想像を膨らませた剣と魔法の世界。
私は、鈍感系の主人公達とは違う。
ここに来て直ぐに気付いた。異世界に召喚されたのだと。
だって目の前にドラゴン居たんだもん。
どうやら勇者を召喚する為の魔道具を輸送中、馬車がドラゴンに襲われて誤作動を起こし、私を召喚してまったらしい。
そうして異世界にやって来た私だが、当然アニメの様に最初から全て順調に行く訳も無く。
召喚されて10秒でドラゴンに襲われて死にかけた。勿論、ここが異世界だと分かって居たから、適当に呪文を叫んでみたり、木の枝で叩いてみたけどドラゴンは無傷。
まぁ、流石ドラゴンって感じですわ。
それでドラゴンに追い詰められ、ああ私死ぬのか。何の為に来たんだろう何て考えて諦めかけた時、その人は現れた。
その人とは、一人の女性。
ノーフェイスと名乗る彼女は、3階建てのアパート程の高さに有るドラゴンの首を一太刀で落とし、こう言った。
「まだ死なぬ」と、その時はまだこの世界の言葉は分からなかったけれど、何故かその言葉だけは理解出来た。
そして、今でも鮮明に覚えている。
そんなこんなで彼女、先生と行動を共にしてこの世界の事、魔術や戦い方を学びながら旅をして暮らす毎日を過ごしていた。
言葉も少しずつ覚え、剣の使い方にも慣れたある日。
先生は私に「使命を果たせ」と書き置きを残し、忽然と姿を消した。置き去りにされた事に絶望しながらも、1人で旅を続ける事にした私は、時に冒険者として迷宮に潜り、単独で攻略し時にドラゴンと戦い、順調に異世界ライフ謳歌していた。
そんな中、突然冒険者ギルドから呼び出されレヴァロス大陸、七つの王国の一つ。トレスニア王国のリットベル領にやって来た私は、ある少女に出会った。
天色の美しい髪に、人形の様に整った顔立ちをした澄んだ瞳の少女。
マジ、可愛過ぎて惚れるレベルの美少女。
王都に向かうと言う少女とその子の父親の警護がギルドからの依頼だった。普段では考えられない程の高額な依頼に私は、二つ返事で快諾した。
それがお嬢様、リシアちゃんとの出会い。
当時6歳だった彼女は既に読み書きや算術、中級魔術を取得しているまさに才女。
けれど彼女はいつも無表情で退屈そうな顔をしていた。そんな少女に興味が湧き、王都までの旅の道中、私は永遠に話しかけ続けた。
最初は、あからさまに私を無視して本を読んでばかりの少女だったが、ある話題に変えるとそれは一変する。
それは、アニメや漫画で見た物語。
特に、バトルや冒険物の物語に強い関心を示した。それから私は、沢山の物語を少女に話した。すると少女は新しい物語を聴くのを楽しみしてくれる様になった。
それは旅の間ずっと続き、王都に到着した。
本来そこで別れる予定だったのだが、リシアが私に懐いている事を知ったレイドからの提案によりリシア専属の護衛となる事になったのだ。
まぁ、そんなこんなで今に至る。
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ふと意識が戻ると広い屋内の割れた壁にめり込み、すっぽりとはまっていた。
背中に激しい痛みを感じながらもどうにか抜け出し、立ち上がる。
「いっ」
背中痛過ぎ。息がしずらい。
ああ、投げ飛ばされたんだあいつに。
視線の先には黒の仮面を付けた紳士服の男。
魔王。
さっきあの黒仮面は、自分の事をそう言っていた。それが本当なら皆殺される。
ここに居る全員がだ。
先生との旅の中で口を酸っぱくして言われていた事がある。それは魔王と十二神階とは揉め事を起こすなだった。
私では、絶対に勝てないからと。
その時はあまりピンと来なかった。
私は、先生との旅で強くなった。
魔装を身につけ、剣の振り方を覚え、魔術も苦手ながらに少しは習得出来た。
そこら辺の冒険者なんかよりは強い自身は有るし、それだけの事をして来た自負も有る。
でも今なら分かる。アレ別、格が違う。
相手は魔王。
この世界の物語や英雄譚に何度も登場する悪の象徴。本来魔王と戦うのは勇者や英雄達だ。
私は、そのどちらでも無い。魔道具の誤作動で来ただけのか弱い乙女。
元居た世界のアニメや漫画ではヒロインと魔王が恋に落ちる、なんてストーリーもあったけれど、それは無さそう。
顔見えないし、一人称もなんか変だ。
そんな事を考えている間に魔王は少年を蹴り飛ばし、リシアを庇う様に立つ少年の父ダリルと交戦状態にあった。
魔王は、手から黒の矢の様な物を出すとそれをダリルとリシアの方に放った。
私は、咄嗟に自身が腰に刺すレイピアの様に細い剣を投げて黒い矢に当てる。
投げた剣は見事黒の矢に命中し、なんとか軌道を逸らす事が出来た。
無事を確認する為視線を送ると少女と目が合う。
「モンカ! 」
良かった、怪我は無さそう。
あのおじさんが負ければリシアが捕まってしまう、それはどうにかして避けないと。
「無事ですか、私のお嬢様」
見た感じ、あのダリルと言う人は魔術師か。
けど攻撃が全く当たってない。この状況で杖も無いんじゃ仕方ない事ではある。
しかも相手は魔王だ。
男が放った魔術を魔王は、容易く回避している。
「あ、」
視界には先程投げた剣を広い、魔王に向けて立つ幼い少年の姿があった。
あれ? これどっかで・・・・
少年は、剣を構えると勇敢に魔王へと向かう。10歳にも満たないその少年は、会場の誰もが動けないで居る状況でただ1人魔王と言う絶望と戦っていた。
やっぱり。私は、この状況を知っている。
あぁ、そうだ。
あれは先生と旅をしている最中、偶々立ち寄った街で出会った不思議な女の子に言われたんだ。その女の子は、綺麗で真っ白い髪をしていた。側に立つ美人巨乳メイドを見て高貴な身分の子なんだと分かった。
その女の子に言われた。
「貴女は将来、大きな絶望を前に新たな物語を命を懸けて守る存在だ」と、その時は、理解出来なかったし先生も頭のおかしい子供だとか言っていたけど何故かずっと頭の片隅にあった。
「メリアァァァ!!!!!!」
男の悲痛な叫びが会場に響く。
私の目には少年を庇い、魔王の矢を受けて倒れる女性の姿が映っていた。
男は、錯乱した様子で倒れた女の元へ駆け寄ると女と何かを話すと、覚悟を決めた様子で声を上げる。
「ルイス、その子を連れて逃げろ」
少年は、未だ動揺して動けないで居た。
その間も魔王は、ゆっくりの少女の方へ向かっている。
やばい、このままだとリシアもやられる。
「クッ」
痛む体に鞭を打ち、少女の元へと向かう。
息を整え、地面を強く蹴り魔王との距離を一気に縮める。
そして、魔王の背後に周り奴の背中を思い切り蹴り飛ばした。ガハッと息を漏らし、魔王は壁に激突した。
これでおあいこね。
それから1人立ち尽くす少女の元へ向かう。
少女は、魔王と言う存在を前にして、以前無表情のままである。
けど私には分かる、彼女は、怯えている。
突然目まぐるしく変わる事態に感情が追いついていないだけなのだ。
いつもそう。
そんな少女に近づき話しかける。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・・ルイスが、助けてくれたから」
少女は少し悲しそうな目で少年を見ていた。
「それではルイスくんと一緒に逃げて下さい」
「モンカは? 貴女はどうするの」
「後で行きます」
素直な気持ちを言えば、リシアと2人でここから逃げたい。私が色々教えてあげながら2人で冒険者をするのだ。戦いや冒険に飽きたら無駄にある私の貯金でお邸でも建てて2人でのんびり気ままに暮らすの、今までの様に。
まぁ、それは厳しそうだけど。
今2人で逃げても直ぐに追い付かれてしまう。 魔王の狙いは何故かこの子だ。なら直ぐに諦めてはくれないだろう。
「全く酷いな、俺、僕、私は手加減して蹴ったのに本気で蹴るなんて」
魔王は、スルリと立ち上がると服の埃を払いながら言葉を続ける。
「何故なんだい? その子を渡せば全て解決するのにどうして拒むのか理解出来ない」
「黙れ!!」
そう叫んだのは少年の父ダリル。
ダリルは、魔王に向けて魔術を放つ。
その魔術は、土魔術のロックウォール、岩で出来た壁を作り出す魔術である。
男は、その魔術で何層もの壁を作り、魔王を閉じ込めていた。
そして男は、こちらを見て頷く。
覚悟を決め、少女の手を引き少年の元へと歩いた。魔王を睨みつけながら、剣を握る少年は、少し恐ろしく感じだ。
その少年の手を握り、語りかける。
「ルイスくん、頼みがあるんだけどいい?」
「・・・」
何も言わない少年に構わず言葉を続ける。
「君は強い。だからお嬢様を守って欲しい」
「嫌、貴女が来ないなら私も残るわ。私1人じゃ何も出来ない」
そこで少女に言葉を遮られた。少女は、そうすがる様な声で話した。
そんな少女に跪き、目線を合わす。
「お嬢様、物語の主人公達は皆、様々な困難や絶望を前に悩み、葛藤し時に立ち止まります。
それでも彼ら、或いは彼女らはまた歩きだし、進み続けて物語を彩ります」
「・・・」
「だから、お嬢様も歩み続けて下さい。自分の物語を彩っていくんです。そしてもし絶望を前に足が竦む時は、言ってやるんです_____ 」
既に魔王は、土の壁を叩き壊してつつあった。大きな音を立てて崩れる壁から魔王は出てこようとしている。
「行こう、リシア」
そこでやっと少年の瞳に光が戻る。
少年は少女の腕をしっかりと掴み、こちらに目配せをすると出口へと向かい走り出した。
走り去る2人の後ろ姿を眺めながら女は、思う。
先生の言っていた使命が何かは分からない。けどきっとこれが、私がこの世界に来た理由なのだろう。
勇者でもチート能力も無いけど、これが私の物語。
「さぁてと」
少女が無事扉から出たのを確認して、腰に刺すもう一振りの剣を抜き構える。
「あー、逃げちゃった。まぁ直ぐに追いかけるけどね」
「追わせるものか!」
そう返すのはダリル。
ダリルは、地面に自らの血で書いた魔法陣に手を当てて魔力を込める。すると魔法陣は光を放ち、体が土で出来た石像の様な魔物が出て来た。
「仕方ないなぁ、そんなに可愛いモンカと遊びたいなら遊んであげる」
「ハハハッ、死ぬよ? 君達皆んな」
魔王は、更に殺気を強めると辺り一面に無数の黒い矢を実現させた。
ああ怖。本当に化け物だこいつ。
本気で私達皆んな殺す気なのだろう。
なら、だからこそ私は、言おう。
「まだ死なぬ」
お嬢様、リシアちゃん。
もし次に会えたら今度は、リシアちゃんの話を聞かせてね。
貴女だけの物語を。
----ルイス視点----
気がつくと俺は馬車の荷台に座っていた。
直ぐ側にはリシアも居て、お山座りに顔を埋めている。
馬車は、カタカタと音を立てながら暗い夜道を進んでいた。
何故、俺はここに居る。
何が起こったのだったか、そうだ式典に来て居たのだった。
終戦八百年の式典に俺、ダリルとメリアの三人で街から領主の城まで来た。丁度今みたいに馬車に乗ってそれで無事城に到着した。一晩城に泊まり、式典の日当日になった。
それから、それ、から・・・・
そこからの記憶は、断片的で曖昧なものだった。広い式典会場、豪華な料理と着飾った参加者達、それと・・・・魔王。
その単語と共に会場での記憶が頭を駆け巡る。
あぁ、思い出した。
俺は、魔王に負けた。それも完敗だった。
だが、今はそんな事より。
押し寄せるのは、負けた事への敗北感よりも会場に置いて来た二人への思い。
「メリア・・・・」
メリア、ダリル、俺はこれからどうすればいいのだ。
両親の事、そしてこれからの事について漠然と考える。
すると前方の方から声が聞こえて来た。
「ようやく喋ったわね。あの中でよっぽど酷い事が起こったのね」
そう声を掛けて来たのは、馬車の手綱を握っている一人の女性。
女性は、金髪の長い髪に尖った特徴的な耳をしている。
「さっきは助かりました」
「別にそれはいんだけど、あんた達これからどうするのよ」
この人とは式典会場を出て直ぐに出会った。
俺がリシアを連れて会場から逃げ出すと、外で待機していた城の兵士や傭兵は皆、ボロ雑巾の様にそこら中に転がっており、まるで地獄絵図の様な景色が広がっていた。その中で唯一無傷で立っていた彼女がこうして、俺とリシアを馬車に乗せてくれたのだ。
「私は戻るわ」
「それはダメよ」
ポツリと呟くリシアの言葉は馬車の手綱を握る女によって即座に拒否される。
「何でよ・・・・」
「魔王が居るからよ」
そんな短く、それでいて正確な理由に少女は再び口を閉ざした。
「・・・」
その言葉に俺もリシアと同じく黙り込んだ。
正直メリアとダリルの事を思えば直ぐにも戻りたい。戻ってあいつを斬り殺してやりたい。
だが、返り討ちに合うのが関の山だろう。
周りに人の居ない魔術の使える場所、かつ刀を持っていれば或いはもう少しやれる気もするが。
いや、今の俺ではどっちにしろ殺られるか。
「ふぅ、夜も更けたし、ひとまず今日はこの辺で野宿するわよ」
金髪の女性はそう言うと道の路肩に馬車を停める。そして馬車から降りて言葉を続けた。
「薪を拾って来るからここで待ってなさい。何かあれば声をあげて」
「分かりました」
そう言って女は、薪を探しに夜の暗がりへと消えていった。
それからしばらくして戻って来たこの金髪女性と薪に火を起こし、干し草を敷いて簡易的な寝床を拵えた。
寝床が完成するとぱちぱちと燃える焚き火を見ながら城へ向かう道中を思い出す。
行きもメリアとダリルの三人で同じ様な事をした。あの時はメリアがスープを作ってくれたり、干し肉を焼いて食べたのだ。
有り合わせにしては中々美味かったな。
メリアの奴、やけに張り切って、はしゃいでいた。城に着いてからもそうだ、城を見るなり子供の様にずっと辺りを見回して、二十もとうに過ぎた良い大人のくせして馬鹿みたいにはしゃいぎよって。
会場の中でも一人馬鹿みたいに・・・・
馬鹿が・・・・
突然視界に写る焚き火が滲んで見える。
そして、頬を生暖かい何かが流れ落ちるのを感じた。
本当に馬鹿な女だ。
俺など、俺なんぞ見捨てれば良かったものをまだ何一つ出来ていない。何も見せられていない、親孝行も立派に成長する姿も、これでは何もしてやれないでは無いか・・・・母よ。
そんな事を思っていると地面に落ちる程涙が溢れ出てきた。
「えっ、何? どっか痛いの? 治癒魔術が必要なら言いなさいよ」
「だ、大丈夫」
「本当? そうは見えないけど」
突然涙を溢す少年に、女は慌てふためきながら言葉をかける。
「まぁ、ひとまずあんた達2人は私が責任を持って、安全な場所まで送り届けてあげるわ! 」
「・・・・安全な場所なんて無いわ」
「どう言う意味よ」
「・・・」
少女の言葉に疑問を浮かべる女。
その会話を聞いていた少年が、涙を拭きながら立ち上がる。
「魔王はリシア、この子を連れて行く為に来たと言っていた。必ずまたこの子を追って来るはずだ。俺達と居るとあんたも危険かも知れない」
少年がそう言うと女もまた立ち上がり、力強く言葉を返す。
「馬鹿にしないで、私は誉高きエルフ族の族長リンダン・ハートの娘、フィリア・ハートよ!
子供を見捨てる事など一族の名誉に懸けてありはしないわ! 」
女は、平たい胸をドンッと叩くと勇ましく言い放った。
「だが、この身をもって分かった事だなアレは人では無い。本物の化け物だぞ」
「知ってるわ。そいつ魔王って名乗ったんでしょ? でも相手が誰だろうと私の信念は変わらない。それに、その話が本当なら私にはやる事があるわ」
「やる事? 」
女は、焚き火に薪を焚べながら、丸太座り直す。
「ええ、既に一度魔王を倒した者"勇者"を探し出す」
「勇者!?」
少女はその言葉に、目を輝かせた。
勇者。
あらゆる時代毎に、危機を救う為に別世界から呼び出される存在。確か今の時代にも魔王を倒した勇者が存在していると前にシャルルから聞いた。
悔しいが、正直言って今の俺では魔王には勝てん。
なら勇者なら、既に魔王を討ち取った事のある伝説の勇者なら。
「その勇者ならあの魔王を殺せる?」
「ええ、アイツなら必ず魔王を倒してくれるわ」
こうして、俺たちの旅は始まった。故郷を遠く離れる、初めての長い旅路。準備もない。行き先すら知らない。
それでも目的だけは、はっきりしていた。
魔王を殺せる存在、勇者を探し出す為の旅。
それが今の自分の使命なのだと、そう感じた。
彼女がモンカと呼ばれているのは幼いリシアがモモカを上手く発音出来ずモンカと呼んだ事で、本人が気に入り以後そう名乗る様になった。




