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第十一話 『式典の日』



 翌日。

 早朝から城内では、使用人達が慌ただしく駆け回る足音が響いていた。俺は、その騒がしさと何度となく響く、開門の笛の音で目を覚ました。


 今日は終戦八百年の記念日と言うめでたい日だ。八百年前の大戦の話はリーナから何度も聞かせて貰った。

 魔神率いる六人の魔王と戦王率いる連合軍の大陸中を巻き込んだ大きな戦。


 戦王、未だ謎の残る例の手記と金庫と何らかの関わりがあろう人物。


 大鬼の事件以来、新しい文字は書かれていない。だが、あの手記には未来の出来事を知る力がある。

 金庫の白い魔石といい、誰かに何かを伝えようとしているのは明白だ。


 だが何を伝えようとしているのは分からん。


 「戦王レグルス・・・」

 「流石!! よくご存じですね! 」


 無意識にポツリと呟いた言葉に反応したのはこの城の使用人の娘だった。娘は、少年に式典での正装の着替えを手伝っている。


 自分で出来るとは言ってのだが、ダリルやメリアも使用人達に着替えさせて貰うらしく何処かに連れて行かれた。

 前の世界でも高貴な身分の者は自分で着替えが出来ないと聞いた事が有る。この世界の貴族もそうなのだろうか。

 「今年は魔神大戦から800年。それと戦王レグルスがシベリオン王国を建国して800年の年でもあるんですよ!」

 「戦王レグルス、一度ゆっくり話してみたいものですね、ハハッ」

 「ん? 」


 いかん、いかん。

 つい考えが口に出てしまった。

 だが、やはり気になる。家に帰ったらまた金庫を調べてみる事にしよう。


 「これで良し! 首元苦しく無いですか?」

 「大丈夫です。ありがとうございます」


 そんな事を考えているうちに着替えを終えた。

 「それではダリル様とメリア様の元へお連れします」

 それから準備を終えたダリルとメリアの元へと案内された。


 二人も既に準備を終えており、ダリルもメリアも普段着ている物よりも更に上質な服で着飾っている。

 この世界に来たばかりの時は、何とも奇妙な格好する者達だと思ったものだ。


 まぁ最近では割と見慣れた貴族の礼服である。こう見るとこれはこれで締まって見えていい感じだ

 それから三人揃い、式典の会場へ向かった。


----


 式典会場の外には大勢の兵士や武装した者達が待機していた。


 一瞬、戦でもおっ始まるのかと警戒したが、この式典に招待されている者達の殆どが貴族や国の要人といった高貴な民分の者達ばかりらしい。

 どうやらその者達が抱える兵士や雇われの用心棒達の様だ。


 式典が終わるまで外で待たされるのは、少し気の毒な気もするな。


 俺達は、彼らをよそ目に会場の入り口へ向かう。

 要所に立つ使用人の案内に従いながら、少し歩くと会場の入り口である青い扉が見えた。

 会場の入り口は全部で三つあり、俺達や他の参加者が通るのは正面のこの扉だ。


 扉の前に行くと見るからに手練れの猛者と言った風貌の兵士に呼び止められた。


 「招待状の確認と所持品の検査にご協力を」


 声を掛けて来たのは、扉を守る様に立つ四人の内の一人、浅黒い肌をした片目の大柄な男。


 纏う空気で分かる。

 この男、かなりの使い手であるのは間違い無い。

 見た所あの背中の大剣が武器か、一度手合わせ願いたいものだな。

 

 「あぁ、勿論だ。メリア招待状を出して」

 「はいっ! 」


 ダリルが言葉を言い終えるより先に招待状を取り出したのは、にこやかな笑顔のメリアだ。


 兵士は、それを受け取ると俺達三人の顔と招待状に交互に目をやり、柔らかな口調で言う。


 「おっと、これは失礼、主人のご友人のダリル様とそのご家族でしたか。どうぞお入り下さい」

 「あぁ、感謝する」


 開けと言う男の言葉で扉は開かれ、目を輝かせたメリアを先頭に扉を潜る。

 軽快に進むメリアの後を追い、扉を抜けると広い会場の中には既に数十人の参加者達が見えた。


 参加者達は、等間隔に並べられた円形テーブルを囲み談笑したり、酒を酌み交わしている。


 「凄いわ! とっても広い会場ね! 私達の席は何処かしら? もしかしてもう埋まっちゃったなんて事無いわよね。ねぇ貴方?」


 目を輝かせながらキョロキョロと会場を見渡すメリアを見てダリルが溜息混じりに返す。


 「メリア少し落ち着け、ちゃんと用意してくれている」

 「そう! ならいいわ! あ、ルイスほら、あれ見て! 」

 「うっ、うげ、え?」


 そう言うとメリアは突然両手で俺の頭を掴み、会場の奥に顔を向かせた。


 たくっ何だ急に、メリアの奴ちょっとはしゃぎ過ぎでは無いか?

 せっかく使用人の娘にして貰った髪型のセットとやらが崩れてしまったでは無いか。


 「もう、暴れないの。あれよ、何だか知ってる?」


 メリアと俺の視線の先には壁の高所から下げられた三枚の旗。

 左側は水色の布に花の様な模様。

 中央は赤色の布に三羽の鳥の模様。

 右側は白い布に狼の様な生き物の模様。


 「紋章旗、でしたっけ? 貴族や王族だけが持つ印の様な物」


 昔リーナに教わり、前の世界での家紋の様な物だったと記憶している。


 「そう! 流石私の息子ね。左の雪の紋章がスリフィノール家。真ん中の三羽の燕の紋章がこの国のトレスニア王家。そして右の狼の紋章がシベリオン王家の紋章よ」


 ふむ。

 何やら見覚えがあると思ったが、あれは戦王レグルスが羽織っていた布に描かれていた物と同じ柄だな。

 リーナに、この国の紋章旗は鳥と聞いていたがまさかツバメだったとわな。

 この国にも中々粋な奴がおるではないか。


 「ふむふむ」


 そんな事を思い旗を眺めていると背後からダリルの名を呼ぶ声が聞こえてくる。

 声が聞こえた方を振り返るとその声の主は俺達の直ぐ後ろに立っていた。


 この式典の主催者レイドと、その背後には彼の娘リシアだ。


 「ダリル、もう来ていたか。他もだいぶ集まっっている様だな」

 「あぁ、今来た所だ。領主様は寝坊か?」

 「昨夜少し飲み過ぎてね」


 そう軽く会話を交わすとレイドは、中央の道を通り奥の主催者席へと歩き出した。

 その後を白色の綺麗なドレスを着たリシアが無表情で追う。後ろで束ねた天色の髪を靡かせながら歩く少女は会場の視線を集めていた。


 「アレが氷のリシア姫。話に聞くより更にお美しい」

 「あの幼さで剣術、魔術共に上級を取得した才女と言う話ですぞ」

 「流石がレイド殿の御息女。是非我が息子ハリウスの嫁に欲しい物だ」


 周囲は思い思いに、本人達にも聞こえる程の声量で彼女を褒め称えた。

 

 あからさまだな。

 皆、レイドへの媚び売りが目的か。

 

 そして、その声を聞きふんふんと頷きながら歩く黒髪の女はリシアの護衛の確か、モンカとか言ったな。

 彼女は真っ赤なドレスに身を包み、リシアの隣を堂々と歩く。まるで自分が主役だとでも言わんばかりの態度である。


 レイドは主催者席の前に立つとくるりとこちらを向いた。

 そして、コホンと咳払いをしつつ言葉を述べる。


 「お集まりの皆々様。私はリットベル領、領主レイド・スカジ・スリフィノール。この様な歴史的な式典の主催者となれた事を光栄に思う。今日は800年前この地を守る為に戦い犠牲になった英霊達に敬意を示し、そしてこれからの我々の更なる発展と繁栄を願って・・・

とっ、長くなりそうだからこの辺にしておこう。それではここに式典の開催を宣言する。今日は、存分に楽しんでくれ! 」


 レイドが乾杯の音頭とると会場は拍手に包まれ、式典は開催された。


----


 参加者達は、次々と運ばれて来る豪華な酒や食事を楽しみつつ、時より気を伺い領主との顔合わせを行なっている。


 ダリルは、酔っ払った昔の顔馴染みとやらに絡まれていた。その間メリアは他の奥様方と料理の隠し味がどうとかを語り合っている。

 

 一方、俺も時より挨拶に来る他の参加者達の相手をしつつ、食事を楽しむ。

 

 意外にも雷児の集いのルイスを知る者は多く、俺を見る度に、こんなに幼い子がなどと言って驚かれる。

 悪い気はしない。

 だが、そろそろ鬱陶しくなって来た所だ。


 酒が飲めない分、この豪華な食事達に集中したい。

 次は、あの何だかよく分からない生き物の丸焼きを食してみるとするか。


 俺は皿とフォークを手に持ち、料理が置かれた机へと向かう。


 目的の謎生物の丸焼きの置かれたテーブルの前に立ち、肉を切り分けていると突然背中をツンツンと突かれた。


 「ん? 」

 「それ、私も気になってた! 」


 そう言い横に並んで立つのはリシアの護衛のモンカだった。

 彼女は俺の皿に乗った肉を見ながら言葉を繰り返す。


 「それ、私も気になってた」

 「・・・・食べ、ますか? 」

 「え、いいの〜? ありがとう!」


 彼女は、皿を受け取ると嬉しそうに辺りをキョロキョロと見回し始める。


 「どうかしましたか?」

 「もう席は空いて無さそうだね。流石に立って食べるのは行儀悪いでしょ? 」


 確かに、辺りの席には既に他が着いている。

 と言うか何故ここに居る? 護衛してなくていいのか?


 「でも、こんな所に居ていんですか?」

 「リシアちゃんもあれだもん」


 そう彼女が指差す先には無表情のまま何と無く、ぐったりした雰囲気のリシアがいた。

 少女は、人から隠れる様にして机の下に潜り込んでいる。


 「普段あまり人と関わらないから疲れたちゃったみたい。そんな所もメロいよね」

 「メ、メロ・・・・? 」


 ふと主催者席の方を見るとレイド一人が人混みに囲まれて対応に追われていた。

 どうやら領主の娘として彼らの相手をするのに疲れて逃げて来たらしい。


 「そう言う事ならうちの席に来ますか? 」

 「えっ、最高。是非お願いします!」


 何故か最初から席が二つ空きがあったし、丁度良かろう。


 そんなこんなで我がロックフロー家の席へと向かう事となった。

 

 護衛が少女を机の下から引きずり出している間に二人の分の料理も装ってやる事にした。

 新しく皿を出し、あの謎生物の肉や香ばしい匂いの香る木の枝の様な見た目の食材、それから野菜と卵を挟んだサンドイッチ。


 これを見るとあいつを思い出す、シャルルは元気にして居るだろうか。

 また他人に生意気を言って怒らせて無いといいが。

 そんな親心にも似た思いを馳せていると突然会場の全ての明かりが消え、辺りは暗闇に包まれた。

 「これは何事だ!? 」

 「何が起こっていますの?」

「何も見えんぞ!」

 

 突然の事態に、会場の至る所で参加者の戸惑いの声を上げている。その声が余計に他の参加者達の不安を煽っていた。


 続いて四方からバリンッと硝子が飛び散る様な大きな音が響き渡った。


「今の音は何だ!?」

 「早く誰か明かりを灯さぬか!」

 「皿でも割れたか」


 何だ!? 皿が割れたにしては音が大き過ぎる。        音はほぼ同時に四方から、それにもっと高い位置から聞こえた様な・・・・


 突然の事態に困惑しながらも、冷静に会場内の様子を伺っていると他とは違う毛色の声が聞こえて来る。


 「暗きを払いし方羽の天使よ、闇に迷いしかの者に再び道を照らせ」


 その聞き慣れた声は、後方の少し離れた位置から聞こえてきた。


 これはメリアの声だ、彼女の魔術詠唱。


 「フィリス・ライト」


 詠唱を終えると会場の端に小さな光が灯った。

 光はキラキラと輝きを発しながら彼女手から会場内に放たれる。放たれたら光は複数に別れ会場内の参加者達を照らした。


 「ルイス、怪我は無い? 」

 「大丈夫です! 母さんこそ大丈夫・・・?」


 メリアの心配の言葉に対して返答しているとその時、視界の端に黒い何かが写つる。

 ふと気になり目で追うと、その黒い何かは全身黒い装いの人の様に見えた。

 黒装束は六角形の会場の壁に一人ずつ全部で6人立っている。


 何だ? あ奴らは忍びか? いや、この世界に忍が居るとは聞いた事は無い。

何かの余興か? いや、隠しているが若干の殺気を感じる。

 だとすれば・・・・


 「刺客か」


 そう直感し、料理を取り分ける用のナイフを握る。その瞬間、黒装束の一人が動いた。

 その一人は手に持っていた短刀で側に立つ貴族の男の首を後ろから切り裂いた。

 そして、即座にその場から離れる。


 男は何が起こったのか分かららないままゴボゴボと口から血を吐き膝から崩れ落ちた。


 その様子を見ていたのは少年含め、男の側に居た数名。血を吐き、悶える苦しむ男を見て、数秒間、今目の前で起こった事態に思考が追いつかないでいた。


 「いや、いやぁぁぁあ!!!!」


 初めに声を上げたのは、男の側に立っていた女性。彼女は、血を吐き倒れる男を見て悲鳴を上げた。

 悲鳴は会場中に響き辺り、他の参加者達の視線を集めた。


 「人が、人が殺されたぞ!」


 その場は数秒の静寂の後、ワインの入ったグラスがパリンと割れる音を皮切りに恐怖の悲鳴や叫びに会場は包まれた。


 参加者達は錯乱し、会場の出口へ向かう。

 前の人を押しのけ転んだ人を踏み付けながら我先にと進む。

 まさにパニック状態である。


 ところが先程まで開かれていたはずの出入り口の扉は閉じられ中からは開けらるない状態であった。


 「ええい退け! 退かぬか! さっさと扉を開け! 」


 人混みを割って扉の前に立ったのは樽のように太った中年の男。

 男は、大声で怒鳴りながら扉を強く何度も叩いていた。


 そんな混乱の中、ナイフを握る少年の視線は出口の扉とは真逆の主催者席の方を向いていた。

 まずいな、こやつら完全に正気を失っておる。それに何故か扉が開かないときた、後もう一つ厄介な事に・・・・


 「今すぐそれをを下ろしなさい」


 そんな中、声を上げたのは剣を構える黒髪の女。

 先程まで側に居たはずの彼女はいつの間にか主催者席の前に立っていた。


 「動くな、動けばこいつの喉を切り裂く」


 彼女の視線の先には黒装束に短刀を突き付けられた領主レイドの姿。


 「私の事はいい! リシアを守れ!! 」

 「黙れ、次に喋れば殺す」


 むむ、厄介な。

 レイドが人質に取られ他の護衛達も手出し出来ないでいる。それに他の黒装束達も動き出せば更に。

 見た所メリアとダリルは無事。二人も不用意に動けないで居るみたいだが。


 「お前さんは大丈夫か? 」


 二人の無事を確認し、側に立つ少女リシアに声を掛ける。


 「・・・」


 少女は、未だ無表情のまま、ある一点を見つめていた。それはナイフを突き付けられている父レイド・・・・では無くその逆。

 未だ開かれぬ扉の方を見つめていた。


 あの扉からの脱出は俺含め皆が最初に思い付いた事だ、だが何故かあの扉は開かれぬ。

 刺客の奴らが何か小細工をしたか、或いは外でも何かが起こっているかだ。

 どちらにせよ奴らを討たねばここからの脱出は不可能。


 そんな事を考えている間、少女の顔は無表情ながら若干の不安を感じている様に思えた。


 「きっと、もう直ぐ外の兵士達が扉を開けて駆けつけてくれる」


 外にはあの数の兵や用心棒達が待機していた。あの数で取り囲めば刺客達も一網打尽。


 「・・・何か来る」


 その言葉と同時に突然扉は開いた。

 先程まで固く閉ざされていた扉は、何の前触れも無く開かれていた。


 開かれた扉に群がる参加者達は安堵し、外に出ようとていた。

 だが、扉の向こうの何かを見て、彼らは青冷めた表情をしている。


 何だ? 何故誰も出ようとしない。

 

 「どうした? 早く扉から逃げ」


 言葉を言い掛けた所でそれは現れた。

 コツコツと靴を鳴らし、ゆっくりと入り口から入ってくるそれに皆の意識が集まる。


 扉が開かれた一瞬、俺は外の兵士が助けに来たのかとも思った。だが、その考えはそれの姿を見るより先に否定される。


 化け物。

 それが奴を見て最初に思った事だった。

 その何かは一見、普通の人の男の様な見た目をしていた。純白な貴族衣に顔を覆う様な漆黒の仮面。一見するとただ仮面を被っただけの男。

 だが男を人として認識する事は出来なかった。 

 何故か、それは男から発せられる吐き気を催す様な殺気と、その身に纏うドス黒く禍々しい空気。


 それと幾つもの死地を潜った経験、数多くの強敵との立ち合い。それらの全ての経験と直感から男は結論付けた。

 強敵。それもここに居る全員を一瞬で殺せる程の化け物だと。


 それは、戦闘経験の有無に関わらず、その場の皆が少なからず本能で感じとっていた。

 その証拠に仮面の男を前に誰一人として動こうとする者は居なかった。


 仮面の男はその間もゆっくりと歩き、会場の中央で立ち止まるり悠々と言葉を発し始めた。


 「やぁ、皆様ご機嫌よう。これは素晴らしい式典だ。飾りも料理も、それに顔ぶれも本当に素晴らしいものばかり。今日は皆さまに頼み事があり訪れたのですが、レイド殿と言うお方はどこに居られますか?」


 仮面の男は両手を広げ、大袈裟な演技でもするかの様に話した。


 「私だ」


 その言葉を発したのは主催者席で刺客に捕まっている領主。

 では無く、会場の中央左側の席に座ってた男、ダリルだった。


 仮面の男はダリルの方を向き改めて言葉を続ける。

 「これはこれはレイド殿。思ったより凛々しいお顔をしてますねぇ」

 「御託はいい。国の用心達が集まるこの式典に招かれざる者が来るなど礼儀知らずもいい所だ。お前は何者だ」

 

 おいダリル、何の真似だ。

 この化け物ははったりが通用する様な相手では無いぞ。頼むから変な気は起こすなよ。


 「そ、そうだ! この私が居る会場に刺客を送込み何かあればただじゃ済まんぞ!」


 次に声を上げたのは先程まで扉の前で大声で怒鳴り声を上げていた樽の様な体型をした中年の男。

 「はて、刺客とは何の事でしょう?」

 「し、しらばくれても無駄だ! 刺客ならあそこに、あ、あれ? 」


 中年樽男が指差す先は主催者席。

 そこには領主レイド(本物)それとモンカ。


 ん? 刺客達はどこに行った?

今、さっきまでクナイを持った忍びが会場中に居たはず。

 そう思い会場を見渡してみるといつの間にか黒装束の刺客達は居なくなおり、レイドも解放されていた。


 「何か誤解があるみたいですが、それはさて置き、自己紹介髪まだでしたね。お初のお目に掛かりますレイド殿。俺、私、僕はハディアント。それと呪いの魔王と呼ばれています」


 仮面の男は胸に手を当て、主催者席の方を向き頭を下げる。

 そして、仮面の男が発した魔王と言う単語に会場は恐怖に静まり返っていた。


 「ハハッ、どうやらはったりは通用しないらしい」

 そう呟くとレイドは一瞬俺に目配せをし何かを訴えかけて来た気がした。

 レイドは、服の襟を正すと魔王と名乗る男の正面に立ち言葉を返す。


 「して、その魔王様が私などに何の頼み事でしょう」

 その言葉に魔王と名乗るは不適な笑みを浮かべる。仮面で顔を隠している上に背中しか見えていない、だが何故か笑っているのだと分かった。


 「では単刀直入に、リシア姫を頂きに参りま・・・おっと」


 魔王のその言葉に誰よりも早く反応したのはリシアの護衛モンカ。

 彼女は、魔王が言葉を言い終わるより先に凄まじい速度で距離を詰め、奴目掛けて強烈な蹴りを放つ。爆発音にも似た音がその場に響き、会場は少し揺れた。

 だが魔王は、その場から一歩として動くこと無く彼女蹴りを片手で受け止めていた。


 奴の狙いは、この子か。

 ならやる事は一つ、この子を連れて逃げる。


 「一緒に来い! 逃げるぞ」

 

 少女の腕を掴み、出口の方へ向かう。

 

 奴と俺達の間にはまだ距離がある。

 ここから扉までを考えれば、何とか逃げ切れるはずだ。それに今は、モンカに気を取られている。

 今なら・・・


 「姫様みっけ」


 俺は、その言葉と共に勢いよく吹き飛ばされ会場の壁に激突していた。

 脇腹と背中に激痛が走る。


 「ゲホッ、クソ、ぬかった」


 それは一瞬、瞬き程の出来事。

リシアを連れて出口を目指して走り出して数歩進んだ所で、モンカは足を掴まれ魔王に投げ飛ばされていた。

 

 そして、気が付けば魔王は俺の目の前にいた。無防備に立ち尽くす奴の首目掛けて、テーブルから盗んだナイフを素早く突き立てる。


 確かなタイミングと急所を狙った一撃。

 本来であれば、致命傷になり得るその攻撃は、魔王には通用していなかった。

 確実に捉えた筈の魔王の首は何故か無傷のままだった。

 それから奴は、呆気に取られる俺に右拳を放ち、何とか避けた所に強烈な蹴りを脇腹にくらい壁まで吹き飛んだ。

 「ルイスっ!!! 」


 朦朧とする意識の中、メリアの声で視界が少し戻る。

 「ああ、想像以上だ・・・魔王、化け物め」


 通りで逸話や物語に頻繁に出てくる訳だ。

 これは達人や武人と言った物とは訳が違う、純粋な生き物としての強さ。


 あの子は、リシアはどうなった・・・・?


 ぼやけた視界で少女を探す。すると薄い水色の何かと、その前に立つ赤髪の男が見えた。

 アレは・・・・


 「父さん! 」


 ダリルは、少女を庇う様に前に立ち、土魔術で十個以上の岩石弾を出現させていた。


 「無事かルイス、直ぐに治癒魔術をかけてやる」

 「はぁ、上手くやるつもりだったけどやっぱりこうなったか・・・仕方ない 」


 そう言う魔王からは、先程まで以上の殺気を感じた。

 そして、魔王が右手で空を掴む様に握ると、その手のひらの上に黒い矢の様な物が現れる。

 それをダリルに向けると一言。


 「射抜け」


 その言葉で黒の矢は放たれる。目視出来ぬ程の勢いで放たれたれた黒の矢は、ダリル目掛けて一直線に向かう。

 気がつくとその矢の射線を見て俺は、走り出していた。

  「あれ?」


 だが、黒の矢は何かに弾かれた様に進行方向を変えた。

 俺の他にもその矢に反応した者が一人、それはリシアの護衛モンカ。

 彼女は腰に刺してあった針の様に細い剣を投げ、黒の矢に当てる事によって軌道をずらしダリルへの直撃は避けていた。


 「モンカ! 」

 「無事ですか、私のお嬢様」


 地面に突き刺さる黒の矢を見て、ダリルも即座に岩石弾を魔王に向けて放つ。ヒュンと音を立てながら発射された岩石弾は、正確に魔王目掛けて飛んでいった。


 「よっと」


 だが魔王はその岩石弾の全てを交わすと今度は黒の矢を5つ実現させた。


 あれを全て交わすか、素早い奴だ。

 だが、ダリルの攻撃のおかげで少し距離が出来た。

 これなら俺も援護出来る。

 その隙に地面に落ちたモンカの剣を拾い、魔王へと向けて構える。


 「ルイス! お前はリシアを連れて逃げろ!!」

 「大丈夫です父さん、俺も戦えます! 」

 

 さっきは確実に奴の喉を捉えたはずだが、何故か無傷だった。やはり食用のナイフなどでは駄目か。

 これも魔王と戦うには細過ぎるが、まぁ悪く無い良い剣だ。

 「いざ、尋常に!! 」


 魔王は、黒の矢を飛ばしながらゆっくりと歩きながら距離を詰めて来る。少年もまたその矢を剣で弾きながら距離を詰めた。


 矢自体の速度は速いが、狙いが正確な分軌道を読みやすい。


 お互いの間合いに入った所で魔王が、今度は黒の槍の様な細長い武器を作り出した。


 そして、その槍で少年の胸目掛けて素早く突きを放つ。だが少年は、その槍を剣で受け流し体制を引く構えて魔王の胴体へと数発の斬撃を与えた。

 入った、今度は確実に・・・


 「もう、こんな強い子供が居るなんて聞いて無いんだけどな」

 「化け物め」


 魔王の殺気を感じ即座に体制を立て直し、後方へと距離を取った。


 「それは僕、私、俺のセリフだ。君何者?」


 今のは確実に奴を捉えたはずだが、また無傷だ。魔術、もしくは特殊な魔道具か、攻撃を無効にする魔道具の話を前にシャルルに聞いた事が有る。

 なら魔道具を壊せば奴にも傷を付けれるはずだ。見た感じ魔道具を持っている様子は無い。

 だとすればあの仮面が怪しい。次は、あの仮面に剣を叩き込む。


 体制を整え、剣を再度構える。相手との距離を考えて蹴り足を強く踏み込んで一気に相手の間合いに入る。


 そう思い強く地面を蹴った。


 「え? 」


 その瞬間、何かに足元を取られ地面に尻餅を付いていた。ピシャリと言う音と共に尻に冷たい何かが伝わる。


 それは、先程の混乱の中で誰かが落としたグラスに入っていたワイン。


 「チェックメイト」


 そう言うと魔王は黒の矢を一つ作り出し、こちらに向けた。そして、矢を少年へ放つ。


  ふと頭にある言葉が浮かぶ、それは前世、死に際に聞いた最後の言葉。

 

 クソ、こ奴に気を取られ過ぎた。

 またもやぬかったわ。終わりか・・・


 魔王の手から矢は放たれ、何故かゆっくりと時間が進んでいる様に矢は向かって来る。


 「ルイス!!! 」


 死を覚悟したその時、突然目の前に金色の何かが飛び込んで来る。その何かは少年と魔王の間に割って入る様に飛び込んで来ていた。


 「なっ、何して」


 は? 何故だ、何をやってだ・・・・


 「メリアァァァ!!!!!!」


 ダリルの悲痛な叫び声が会場に響く。

 メリアは、魔王の放った黒の矢で貫かれ、その場に倒れた。

 「かあ、さん・・・・?」


 ダリルは、叫びながら倒れたメリアに駆け寄る。メリアを抱き寄せるとこちらに何かを叫んで来ていた。


 何だ・・・何を言っているんだダリル。聞こえない、何も聞こえんぞ。


 そこからの記憶は曖昧でよく思い出せない。

 その後、モンカに言われるがままリシアを連れて城から脱出した。


 その日、たった一人の魔王の手によってスローン城は陥落した。

 

 

 

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