30話 越冬祭が始まる
――明日、俺たちはこの村を出る。
俺は長年使い続けた木剣を取り出すとメンテナンスを始めた。
メンテナンスとは言っても、村を出る時には荷物になるので持っていくつもりはない。
どちらかというと供養に近いのかもしれない。
入門した頃はずっしりとした重さを感じたが、今となってはこんなにも軽いものだったのかと感じる。
慣れとは不思議なものだ。
手入れを始めると、刃の部分は凹んでボロボロだし、所々亀裂も入っていることに気がついた。
稽古を続けていれば、あと数ヶ月も持たずに壊れていただろう。
それも踏まえて、ちょうどいい時期の卒業だったのかもしれない。
湿った布で拭き上げると、木剣を仏壇脇の定位置に立てかける。
そして、仏壇にいる祖母の写真に手を合わせると、玄関をノックする音が聞こえた。
戸を開けるとカインが立っていた。
「今日の祭り一緒に回らないか?」
突然の誘い。行きたい気持ちはあるが、俺が参加しても良いことはない。
また余計なトラブルにこいつを巻き込んでしまうだけだ。
「俺が言っても加護無しだって言われるだけだぞ。どうせ良いこと無いんだから村を出た後、違う地の祭りで一緒に行こうぜ」
「……そうか」
カインは視線を逸らしながら呟くと、大人しく引き下がった。
その夜――。
祭りの喧騒が少しずつ鎮まっていくのを窓越しに眺めていた。
欠落者だとわかる前に祖母と周った祭りの記憶が蘇る。
出店はどれもキラキラとしていて、祖母に買ってもらった焼きそばやたこ焼きはどれも新鮮で美味しかった。
数少ない屋外での思い出を振り返っていると、玄関をノックする音が聞こえてきた。
こんな時間に誰だろう。
戸を開けるとカインが立っていた。
「どうした。こんな時間に?」
「祭り、今から行こう!」
「……は?」
「いいから、行くよ!」
カインに無理やり連れ出された俺は、祭りの喧騒が静まり返った夜の村を歩く。
片付けは明日行われるのだろう。
人々が祭りを楽しんだであろうゴミや溢した食べ物が散らかったままになっている。
明日掃除をする人たちは大変だろうな。
それにしても、こいつはどこにいくのだろうか。
もう祭りは終わっているはずなのに……。
連れて行かれた先は1つの出店。
まだ灯りがついたその店は、カインの父親の店だった。
店の壁には10名ほどの名札が架けられている。一番右上の名札には、320点という得点と、紙で作られた赤い花が付けられていた。
何かはわからないが、過去の最高得点の記録らしいことは理解できた。
「お!ローゼン君きたね〜。今日はなんと延長営業!今なら無料で好きなだけ遊べるよ。どうだい?やってくよね?」
「はいこれ。ルールは知ってる?」
と、親子揃って強制参加を促してくる。
ナイフを4本、離れたところから的へ投げ、合計得点に応じた景品がもらえるゲームらしい。
ふと、壁にかけられている年期の入った短剣が目につく。
その短剣には紫色の大きな宝石が埋め込まれていた。
「あの短剣も景品なんですか?」
「ローゼン君はお目が高い!でも残念。この短剣は景品じゃないんだ」
カインの父はその短剣を壁から外し、鞘から引き出しながら話し始めた。
「この短剣は、旅の道中で今の嫁と出会うきっかけになったものでね。僕の中で大切な……、本当に大切なお守りみたいなものなんだ。
だからいつも肌身離さず持っているし、手放すことはできないんだよ」
とても懐かしそうに遠くを見つめながら語る。
その口調と仕草に、本当に大切な思い出が詰まっている事が伝わってきた。
そういうの、なんか良いな……。
そして――。
タンッ――!
音がした方を振り向くと、的の中央を短剣が貫いていた。
「ほら、的の中央の今刺さったところが1番高い点数でね――」
唐突にナイフ投げのルール説明が始まる。
ちょっと待って。この人、今大切な短剣を投げたぞ……!
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