28話 不器用な男
俺は朝から得体の知れない焦燥感に駆られていた。
まるで森の方へと呼ばれている気がする。
だが、魔獣討伐には優秀な子どもたちが参加している。
何度も魔獣討伐をして手慣れた子どもたちだ。問題はない。
それなのに、一体何を焦っているのだろう。
これは、もしかすると魔王の――。
その瞬間、視界にノイズが走る。
頭の中に森の中で戦う子どもたちの光景がフラッシュバックした。
「師範!!」
顔を青ざめて、息を切らせた青年が道場へ転がり込むように駆け込んできた。
その姿に意識が現実へと引き戻される。
「子供達が!グリズリーベアーと戦っている!!」
俺は、用意していた真剣を手に取ると一目散に森へと向かった。
――俺はつくづく不器用な人間だと思う。
森は静かなものだった。
本当に子どもたちが戦っているのかと疑いたくなるほどの静寂に包まれている。
俺は魔術でグリズリーベアーの足跡をたどる。
魔術発動時のマナ確保が得意ではない俺は、魔術の継続時間が短い。
現場にたどり着くまで5回も魔術を行使する羽目になった。
だが、寸前のところで子どもたちの救出に成功する。
本当は「よくやった」と褒めてあげても良かったのだろう。
だが口をついた言葉は、少年たちの努力を否定する言葉だった。
つくづく、俺は不器用な人間なんだと思った。
気を失った2人の少年を抱え、俺はそれぞれの家へと送り届ける。
2人目の少年を送り届けた時、青ざめ取り乱す母親の姿があった。
俺は冷静に努めたつもりだったが、果たして上手くいったのだろうか……。
少年を布団まで運んで寝かせると、少しだけ母親と会話をした。
その母親は息子のことを心から案じていた。
息子は迷惑をかけていないか。
息子は皆と仲良くしているのか。
息子は外の世界で生きていけるか。
息子は無事に帰って来られるのだろうか。
息子想いの良い母親だと俺は思った。
だからこの母親の想いに、俺なりに応えよう。
不器用な俺は剣でしか相手との対話ができない。
だから――。
この村を出ていく少年たちが外の世界でも通用するのか。
俺自身の剣で、少年たちの決意を見定めることにした――。
突然浴びせられる俺の殺意に戸惑う少年たち。
初めて見せる戦術に、新しい戦略を考え、それをねじ伏せられ、さらなる思考へと繋げる。
彼らは立派に育っていた。
そして、本物の痛みを味わってもなお前に進もうとする気力。
圧倒的な力の差でも諦めない心。
彼らなら外の世界に行っても大丈夫だ。
その帰り道、楽しそうにする彼らを見て、若かりし頃の自分を思い出す。
夢を見て、その腕っぷしだけで村を飛び出した。
今は無き"十傑"と呼ばれる剣士の一人として名を馳せたが、剣でしか語ることのできない俺の周りには、振り向くと誰もいなかった。
つくづく、俺は不器用な人間だと思う。
それでも、彼らのような若者の人生を後押しする今の役目は、悪くないと思う――。
彼らが揃ってこの村へ帰り、再び笑顔を見せる日に想いを馳せるとしよう。
軽口を言い合いながら俺の前を歩く彼らが不意に振り返る。
「師範!次は負けないですよ!」
「いいだろう。いつでもかかってきなさい」
「じゃぁ次は寝込みを襲うか」
「いやいや、流石にそれはずるいよ」
彼らがこれからどんな大人に育っていくのか、不器用な俺なりに見届けよう。
いつでも、いつまでも、君たちの挑戦を待っているよ。
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