25話 剣でしかできないこと
翌朝。
朝食を終えた僕たちは、母の弁当を受け取ると道場へ向かった。
「昼飯の時間が楽しみだ」
そう呟いたローゼンはどことなく嬉しそうだった。
「家を出る時間は同じくらいだったのな」
道中、ローゼンはぽつりとつぶやいた。
どうやら僕たちは家を出る時間は同じだったが、家が近い僕の方が15分ほど早く道場についていたらしい。
道場の門をくぐると、早朝だというのに仁王立ちの師範が腕を組んで僕たちを待っていた。
額に傷があり、ただでさえ厳つい印象なのに、今は畏怖を感じるほどの威圧感を放っている。
今までで一番険しい雰囲気を醸し出していた。
「「おはようございます!」」
少し緊張感を含んだ僕たちの挨拶に、師範は何も言わず近づいてくる。
そして、鞘に入った真剣を僕たちに1本ずつ手渡してきた。
受け取った真剣は、いつも以上にズシリと重く感じられた。
師範は、「2人とも来なさい」とだけ言うと、道場の敷地を出て村の門の方へと向かっていった。
霜で地面が真っ白になっている村の外。
昨日魔獣討伐をした場所までやってきた。
「寒稽古かな?」
ローゼンに耳打ちするが何も答えない。
師範の普通じゃない雰囲気に、ただの稽古じゃないことは僕にもわかっている。
風に揺られた森の木々がザワザワと音を立てていた。
「ここでいいだろう」
そう言うと師範は僕たちに向き直り、腰の剣を2本引き抜き両手に1本ずつ構える。
「2人とも、剣を抜きなさい」
「「え……?」」
僕たちは訳もわからず立ちすくむ。そんな僕たちに、師範はやれやれとばかりに口を開いた。
「お前たち2人はダメだ。俺の道場の人間でありながら無策で敵に立ち向かうその根性。何年も見てきたがいまだに改善する兆候すらない。
そしてその程度の腕で、いつかこの村を出ていくのだろう?世間に対して恥を晒すのであれば、その前にここでその道を閉ざすのが師範としての俺の役目だ」
「ちょっと……、意味が……」
突然過ぎて意味がわからない。
そんな僕とは裏腹に、ローゼンは師範を睨みつけるように見つめる。
困惑する僕に対し、師範が斬り込んできた。
咄嗟に剣を構える。
ガンッ!と、金属がぶつかり合う音が響いた。
手にビリビリと衝撃が伝わる。
受け止めなければ、確実に胴体が真っ二つに斬られてしまうほどの強力な一撃だった。
剣には困惑する自分の顔が映っていた。
それとは裏腹に、僕に対する本気の殺意を剥き出しにする師範の形相。
これは――、脅しじゃない。
「俺はお前たちを殺そうとしている悪党だ。そんな人間から身を守るために剣を抜き戦う。そこに"死にたくないから"という理由以外に何が必要か!」
ローゼンは師範に斬りかかるが、もう片方の剣で弾かれ蹴り飛ばされる。
「う……っ!ぐぅ……」
ローゼンが膝をつき、苦しそうに呻き声を上げる。
僕を睨みつける師範の目。僕の目に映る今の師範は本物の悪党だった。
「ローゼン!よくわからないけど、本気でやろう!じゃないと本当に、ころ……殺される!」
「あぁもう!やっぱり師範は悪党だったってことかよ!」
師範は目の前にいた僕に再び斬り掛かる。
まずは右手の斬撃を避けた。
――と思ったらすぐさま左手の斬撃に襲われる。
ギリギリで受け止めるも、次は右手からの突きが放たれる。
「ぐぅ……っ!」
喉から声を漏らしながら寸前で身を逸らしてその攻撃を避ける。
バランスを崩した僕はすぐさま師範から距離を取った。
師範が攻撃を終えた隙をついて、ローゼンが連撃を叩き込む。
しかし、両手の剣で軽くいなされるとすぐに攻守が逆転する。
ローゼンも同様、師範から距離を取る。
「カイン!一気に畳み掛けるぞ!」
「わかった!」
僕たちは同時に駆け出し、師範に連撃を打ち込む。
だがそのすべての斬撃は、左右の剣で器用にいなされる。
「うおぉぉっ!」
ローゼンの突然の掛け声に、師範の意識が一瞬だけ僕から外れたのを感じた。
僕は姿勢を低くして師範の太ももを狙って斬りかかる。
無防備な足に斬撃が入る――。
ガキン!と、金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
僕の剣はあっけなく弾かれていた。
「この程度か……」
不意をついたはずの斬撃を容易く受け止めた師範は、体を回転させると反撃に転じる。
僕たちは再び距離を取るしかなかった。
「くそっ!」
攻め手に回ったかと思えばすぐに形勢が逆転し、守りに入れば一方的に攻められる。
二刀流……。
思った以上に厄介だ。
「強えぇ。打つ手無しかよ」
そのローゼンに僕は言葉を返す。
「いや……、作戦ならある」
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