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灰と灯火のグリモワール  作者: みむらす
1章話 雪の降る日 前編【親子】
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24話 勧誘

 両親の楽しそうな話し声がかすかに聞こえる――。

 カインは静かに目を覚す。時計を見ると8時を過ぎていた。

 部屋の中を微かなパンの香りが満たしている。


 いつから寝ていたのだろうか……?


 そうだ……、グリズリーベアーと戦って、それから……。

 気を失う直前に見た師範の鋭い眼光を思い出し、僕は身震いする。

 だけど経験は積んだ。次上手くやれれば問題はない。

 僕は気を取りなおして起き上がる。全身が痛むが、それを両親に悟られないようにリビングへと向かった。


「カイン起きたか?腹減ってないか?」

 天井や壁など、至る所に紙で作られた花が飾られている。

 いつぞやの女神様がおめかしをさせられていた光景が甦り、思わず苦笑した。

 テーブルの上には肉、魚、野菜それぞれを主体とした料理と、それから美味しそうなパンが並び、まるでパーティのようだ。

 両親はすでに席に着き、僕の登場を歓迎する。


「今日って誰かの誕生日だっけ?」

 両親はポカンとした後、笑いながら言う。

「何言ってるのよ。今日はカインが村を守るために魔獣を撃退してくれたんでしょ。お祝いしなきゃ!」

「あぁ……、そうか……。うん。ありがとう!」

 一瞬、自分は祝われるような資格はない。というネガティブな感情がよぎったが、それを頭の隅に追いやると席に着いた。

「どうした?どっか痛むのか?」

 僕が発した一瞬の違和感に反応した父が心配そうに尋ねる。

「ん?なんでもないよ」

 そう返した直後、ローゼンのことを思い出した。

 グリズリーベアーの一撃を受けたあいつは無事なのだろうか……?


 と、その時玄関を叩く音がした。こんな時間に誰だろう?

 3人は顔を見合わせると、父が立ち上がり玄関へと向かった。


「ローゼン君!こんな時間にどうしたんだい?」

 父の声が廊下越しに響いてくる。

「ローゼン!?」

 僕は勢いよく席を立ち上がると、痛む体に一瞬硬直しながらも、自然を装ったぎこちない動きで体を動かす。

 母はそんな僕を不思議そうに見て、

「痛むの?」

「イ、イタクナイ。ダイジョウブ……」

「……ふふっ。じゃあ大丈夫だね。でも安静にね」

 うん。


 そんなやりとりをしていると父がローゼンを連れて部屋に入ってきた。

 ローゼンは気まずそうに、でも少し嬉しそうにしている。


「ローゼン君いらっしゃい!」

「こんばんは。お邪魔します。カインの様子を見にきただけだったんですが……」

「何を言うんだい?2人はこの村を救ってくれた英雄だ!今日は2人まとめてお祝いだぞ!

 ……って、ローゼン君はもうご飯を食べた後だったりするかい?」

「いえ、まだですが……、良いんですか?」

「もちろんだとも!今日は2人をお祝いだ!2人ともありがとう!」

「2人ともありがと〜!」

 拍手でローゼンを迎える父に続き、母もそれに乗ってくる。

 僕は少し恥ずかしかったが、それ以上にローゼンが無事だったことと、両親が祝ってくれることがとても嬉しかった。


 僕たち4人は"食前の祈り"を捧げると食につく。

 戦闘の後で身体が栄養を求めていたのか、食べたものが全身に染み渡っていく感じがする。

 美味しく、そして楽しい時間はあっという間だった。


 食後の余興とばかりに、父が自慢の隠し芸を披露してくれた。

 地味なものが多かったが、紙の花をものの5秒で作れる特技には驚いた。

 それにはローゼンも腹を抱えて笑っていた。


 父は僕たちのことを"英雄"と呼んだ。

 なんとなく、いつか多くの人から2人でそう呼ばれる日が来るのかもしれない。そんな予感がした。

 それはちょっと楽しみかもしれない。

 その前にアリスを迎えに行かなきゃいけないけどね。


 時間も遅くなったため、今日はローゼンが泊まっていくことになった。

 風呂から上がり部屋に戻ると、布団の上でぼーっと座っているローゼンがいた。


「賑やかな家族だよな」

「そう?いつもはもう少し静かだよ」

「いい家族だ……」

 一体何と比べているのだろうか。ローゼンがそう呟く。


「なぁ、ローゼン――」

 僕はまだ誰にも言ったことのない話を打ち明けた。

「村を出るって言ったら、ついてくる?」

 ローゼンは不思議そうな顔をして、

「ついていかない理由ってなんかある?」


 まさかそんな簡単に即答するとは……。その早さには驚いた。

 むしろ「なんで今頃言うんだ」って、後から責められないように今言っておこうと思ったくらいだったのに。

「え?だって、村を出るんだよ?しばらくは帰ってこれないかもしれない。だから準備だって――」

「そもそも、俺この村に居場所ねぇし。それに、友達が"ついてきてほしいよ〜"って泣いてたらついていくだろ?」

「は!?泣いてないし!」

「なんでムキになるんだよ。ホントに泣いてんの?」


 言わなきゃよかった!

 だけど、ちょっと安心した自分がいるのを感じた。


「お前はさ、出会った頃からこの村と違う場所を見てただろ」

「違う場所……?」

 こいつは突然何を言い出すのだろう?

「そう。何か目標があって、村を出た後のことばかり考えてる」


 僕は思い返す。

 アリスを護れるくらい強くなって、魔術学院を卒業するアリスを迎えにいく。

 そして、大陸を旅して回りながら、いつかはオータスみたいな英雄になる。


 確かにいつも村を出た後のことを考えていたかもしれない。

「だからさ。あー、こいつは早く村を出たいんだな。その時はついていこうって考えてた。だから俺の答えはずっと前から決まってんだよ」


 なんて頼もしいやつなんだ。

 魔術学院の卒業式は2週間後だと聞く。

 そろそろ準備を始めないといけない頃だったが、ローゼンも準備ができているのなら安心だ。


「で、いつ出ていくの?」

「え?来週……かなぁ?」

「お前!それは先に言えよ!」


 あ、やっぱりそうだよね?

 言い出すの遅くなってごめんなさい!

毎週水曜・日曜の20時に更新しています。

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