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灰と灯火のグリモワール  作者: みむらす
1章話 雪の降る日 前編【現実】
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21話 戦いの中の好機

 グリズリーベアーの跳躍からの一撃。

 僕たちはそれを回避する。


 軌道がわかっているからその攻撃自体は簡単に避けられた。

 だが、叩きつけた右腕は轟音と共に地面を砕き、まるで爆発の跡のように地面を抉った。

 今まで見たどんな攻撃よりも強力な一撃。

 あれを受けたら間違いなく即死だ――。


 同時に、石や土の塊が周囲に散乱する。

 ガンッ!

 その散乱物がぶつかったのか、衛兵のお兄さんが残した盾を弾き飛ばす。

 再び地面に落ちた盾はぐにゃりと変形していた。


 その光景に僕たち2人は息を飲む。

 今の散乱物を避けられたのは奇跡だ。

 きっと次は避けられないだろう。


 村へ向かう仲間たちの方に視線を向けるが、まだまだ村までの道は遠かった。

 逃げるわけにはいかない。


 魔獣の巨大な腕が再び振り上げられる。

 直撃すれば終わりだ。

 僕は魔獣の背後に回り込み、背中をめがけて渾身の斬撃を放った。

 だが、ガツン!と、音を立てて僕の剣は弾かれた。

 手に伝わった衝撃がビリビリと両腕にまで伝わる。

 分厚い毛は鋼鉄でできた鎧のように硬い。


 致命傷を与えるつもりで放った攻撃だったが、この程度では全く歯が立たないらしい。

「マジかよ……!」


 魔獣は唸り声とともに身を翻し、振り向きざまに爪を振り抜く。

 僕はそれを避けると、跳ねるように後退した。

 距離をとった――。


 と思ったが、

 "グオォォォォォォォォ!"

 全身を鷲掴みにされたような重圧を感じた後、魔獣の咆哮が僕を襲う――。


「ぅぐ……っ!」

 身体がビリビリと痺れるように硬直し、声すら発することができない。

 先ほど、遠くで聞いた時とは比べ物にならない拘束力だ。


 魔獣が僕に意識を向けている隙を突き、ローゼンは魔獣の背中を蹴り跳躍した。

 高さを活かした全体重を乗せた斬撃――。

 ザンッ!と音を立てて魔獣に浅い傷を負わせる。

 これで致命傷にならないなんて、皮膚も相当硬いようだ。


 「カイン!横よりも縦の方が傷を入れやすい!」

 毛の流れを考えてもその方が剣が入りやすいのだろう。

 だが、目や口の中のような、皮膚の薄い部位でなければ致命傷を与えることは難しいだろう。

 しかし、そのためには距離を詰めなければならないが、繰り出される攻撃を防ぎきれる自信はない。


 魔獣がローゼンに気を取られている隙に、動けるようになった僕は再び魔獣の背中を追う。

 あれ……?

 ローゼンは何で今、咆哮の影響を受けなかったんだ……?


 おそらく、あの咆哮は魔力が込められたものだろう。

 詠唱のない魔術だと思った方が良いのかもしれない。

 だが、ローゼンには咆哮に対する耐性があるとは思えない。何か条件があるはずだ。


 僕は考えながらも、グリズリーベアーを後ろから狙う。

 毛を削げないか、弱い部位はないか、全身に斬撃を入れながら試すが、全て弾かれてしまう。


「くっそ!こいつ全身が硬すぎる!」

 ローゼンも同じく弱点を探っていたらしい。だが、僕と同じ結論に達したようだ。

 魔術があれば毛を無視した攻撃ができるのだろうか……。

 いや、こいつの別名は"魔術師殺し"だと衛兵の人が言っていた。

 ということはこの硬い毛はそもそも魔術を受け付けないのだろう。

 もしかしたら咆哮によって言葉が出なくなるから、魔術の詠唱ができなくなるのかもしれない。


 ローゼンは背後から魔獣の首元へ切り掛かる。

 それに気づいた魔獣が振り返り様に放った咆哮を、ローゼンが間近で受けてしまった。

 体を硬直させたローゼンは身動きが取れず、着地できずに地面に倒れ込む。

「くっそ……!」


 まずい――!

 僕の体にも咆哮の余波がビリビリと伝わる。

 このままじゃ2人のどちらかが魔獣の一撃を受けてしまう。

 即死の一撃だ。どちらかが脱落すれば1人で手に負える相手ではない。

 そうなれば全滅は免れない。


 僕は地面に着地すると次の手を考え――。

 着地……?あれ?体が動く……。


 僕はそれに気づくとすぐにローゼンを抱え、グリズリーベアーの攻撃圏外へと距離を取る。


「サンキュー。助かった!」


 僕は1つの発見をローゼンへ伝える。

「多分あいつの咆哮は正面にいる敵、もしくは目視で認識した相手にしか効かないのかもしれない」

「へぇ、なるほどね。それは良い発見だ。じゃあ固まって動くのは避けた方がいいな」

 僕は頷く。


「……にしても、硬い上に一方的に必殺の攻撃をしてくるなんてどうかしてるぜ。本当に何でこんなところにこんな凶暴な奴がいるんだよ」

「毛も皮膚も薄い場所なら剣が通るかも……」

「鼻とか?」

 そこは普通、目とかじゃないだろうか。

 ローゼンはこの状況でも案外余裕があるのかもしれない。

 他に、防御力の薄そうな部位は……。

 目、鼻、口内、あとは耳とか。だが、顔への攻撃は警戒されやすいだろう。

 もっと簡単に狙えるところは?

 

 ふと、1つの妙案が浮かんだ。

 いやでも、そんな攻撃は……。

 グリズリーベアーと目が合う――。


「ローゼン!こいつを森に誘導する!」

 迷っている場合じゃない。僕は森に向かって駆け出した。

「お!何か思いついたな?」

 ローゼンも森を目指して走り出す。

 案の定、グリズリーベアーも僕たちを追ってきた。


 森に入ると同時、僕は作戦とは言えないアイディアをローゼンに告げた。

「ははっ!それ本当にやるつもりかよ。だけど、良いアイディアだぜ」

「ほんの一瞬でいい。どちらかが作った隙にもう一方がこの作戦を実行する。どうだ?」

「それなら、突きの速さでお前だろ。俺が隙を作ってやる」

毎週水曜・日曜の20時に更新しています。

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