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灰と灯火のグリモワール  作者: みむらす
1章話 雪の降る日 前編【現実】
32/42

20話 成長した子供達

 ――この地に来てから6回目の冬が終わろうとしている。カインとローゼンは16歳になっていた。

 最近、グラティアの村周辺では魔獣の目撃例が急激に増えており、その討伐が行われている。

 今日は村の衛兵2名を引率者として、道場の門弟7名が実践稽古を兼ねた魔獣討伐を行なっていた。


 カインとローゼンもそのメンバーに加わっており、既に狼型の魔獣の群れを相手にしている。

 村の前の草原には数体の魔獣の死体が転がっており、残り10体ほどの魔獣と睨み合いをしていた。


 そのうち、2体の魔獣が僕をめがけて飛び出してくる。

 その動きを見切ると、1体目の攻撃を避け、すぐに2体目の攻撃も避ける。

 回避と同時。すれ違いざまに斬りつけた斬撃で2体の魔獣に致命傷を与えた。

 何度も見てきた師範の技だ。最近ようやく扱えるようになってきた。


 残った魔獣たちが一斉に飛びかかる。

「ちょっと多いな……」


 僕はあの日のゼロスと同じように、ギリギリの間合いで魔獣たちの猛攻を凌ぐ。

 攻撃を避けられた魔獣は地面の上を滑るように方向転換し、すぐに飛びかかってくる。

 狼型魔獣の典型的な攻撃パターンだ。


 魔獣が次の攻撃を仕掛けてくる瞬間。

 一瞬だけ動きが止まる隙を狙って、ローゼンが斬撃を浴びせていく。

 瞬く間に魔獣が数を減らし、残り2体となった時ようやく魔獣達は攻撃を止めた。

 そして、僕たちとの睨み合いの末、魔獣は森へと逃げていった。


 30はいた魔獣の群れの約8割を僕とローゼンの2人で討伐した。

 僕たちが剣を鞘に収めると、他のメンバーからカインに対しての歓声が上がる。

 ローゼンも戦ったんだけどな……。


 この村の欠落者に対する扱いは相変わらずのようだ。


「もう、これくらいは余裕だな」

 と、ローゼンが拳を突き出してくる。

 僕はそれに拳を突き合わせて返した。

 

 この5年間で僕たち2人は道場で1位を争い合うほどの腕前になっていた。

 そろそろ師範の実力に追いついてきた気がする。

 流石にそれは驕りだろうか――。


 だが、もうすぐ魔術学院の卒業式だ。

 剣を携え、卒業証書を握ったアリスを迎えに行く瞬間がいよいよ現実味を帯びてきた。

 今の僕なら、きっと村を出ても大丈夫だ。

 村に戻ったら両親に伝えよう。母さんは怒るかもしれないな。


 そんなことを考えながら、魔獣の死体処理を進めていると、不意に首筋と右目に違和感を感じた。

 違和感の正体は分からないままだが、右目の違和感は良くないことの前触れ。そんな気がしている。

 周囲を警戒していると、衛兵の1人が「あれ?」と、森の方を見て指を刺した。


 その方を向くと、30メートルほど離れたところで、先ほど森へ逃げたはずの魔獣が1体、何かから逃げる様に全速力で森から離れていく。


 その魔獣を傍観していると、その直ぐ後ろから巨大なクマ型の魔獣が飛び出してきた。

 狼型の魔獣は全力で走ると時速50キロメートルで走れるらしい。

 それに悠々と追いついた魔獣は、右腕から繰り出す一撃で難なく狼型魔獣を仕留める。


「なんだあれ!?」

 ローゼンが叫ぶ。

 その魔獣は僕も見たことがなかった。

 いや、それ以上にあれほど凶暴な魔獣がこの森にいたことに驚く。


 狼型の魔獣を仕留め、口元を真っ赤にしたグリズリーベアーは、立ち上がり辺りを見回している。

 匂いを……、探っている……?

 そして、こちらに視線を向け――。

 "グオォォォォォォォォ!"

 魔獣との距離は30メートル以上離れているにも関わらず、その咆哮は空気の振動と共に全身をビリビリと振るわせた。

 道場のメンバーには、その恐怖で腰を抜かす者やパニックを起こす者もいた。


 衛兵の1人が呟く。

「グリズリーベアー。別名"魔術師狩り"。だがなぜこの森に……!」


「みんな、ここは急いで引こう!」

 僕たちはその言葉に頷く。


 しかし――。


「あ、あれ……?体が……動かない……」

 あの魔獣の咆哮には畏怖の魔術が込められているらしい。

 この距離だというのに、門弟の半数が体を硬直させ動けなくなっていた。


 村まで戻れば"女神様の結界"に守られている。だがここは村から500メートルほど離れている。今すぐにでも逃げるべきだ。


 だが、動けなくなった人間を連れて、あの魔獣の速力から逃げ切れるわけがない。

 グリズリーベアーはこちらへ向かって全速力で走り出す。


 衛兵の1人が僕たちを守るように立ち剣を構える。


「き、君たちは早く村へ!」

 その衛兵も本当は恐怖で逃げたいのだろう。裏返った声、震える足で勇敢にも魔獣に立ち向かおうとしていた。


 僕とローゼンは互いの顔を見て頷き合うと、剣を抜きその衛兵の前に立つ。

「な、何をしているんだ!君たちも早く――」

「ここは俺たちがやります。お兄さんたちはこいつらの避難をお願いします」

 ローゼンは動けなくなった門弟たちの安全を衛兵に託す。


「だが、あの魔獣は危険すぎる!毎年、何百もの行商人が犠牲になっているんだ!君たちはあれに……、勝てるのか?」

 僕はローゼンと共にグリズリーベアーの方に向き直る。

 危険な魔獣。そんなことは先ほどの光景を見ただけで十分わかっている。


 怖い。

 だけど――、

 逃げない。


 それに、この数年で僕たちは強くなった。

 今の力を試すには良い機会だ。


 だから僕たちは衛兵のお兄さんに答える。

「「やってみないと分からない」」


「皆さんは、動けなくなっている人を連れて早く逃げてください。

 僕たちは足が速いんで、きっと追いつきます」

 

 そう言い残し、僕たちは向かってくるグリズリーベアーへと駆け出した。


 ――その瞬間。

 地面が爆ぜるような音と共に、グリズリーベアーの巨体がこちらへ跳んだ。

毎週水曜・日曜の20時に更新しています。

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