16話 一本と決意
父から"欠落者"について聞いた次の日。
決意を新たに、僕は早朝の道場へと向かった。
その道中、いつもすれ違う人たちと、いつも通りの挨拶を交わす。
だが、"この村の魔術が使えない人に対する扱い"を知ってしまった僕には、それが作られた偽善に見えて気持ちが悪いと感じてしまう。
道場に着くなり日課の素振りをこなしていると、元気のない様子のローゼンがやってきた。
「よう――」
僕は多少の気まずさはあったが、それ以上に彼と対等の関係で在りたいという想いの方が強かった。
だから――。
今日は僕の方から木剣を構えてローゼンを見据える。
ローゼンは口元に笑みを浮かべながら、木剣を構えた。
「やっぱり、お前は違うな――」
カン!カン!
と、木剣同士がぶつかり合う甲高い音が道場の敷地内に響き渡る。
いつにも増して激しい攻防。それを通じて自分自身の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。きっとローゼンも同じだ。
次第にぶつぶつと呟き始めるローゼン。
少しずつ攻撃の速度が増し始める。
これじゃいつもと同じだ……。
だから今日は――。
僕は距離をとった。スピードで敵わないなら合わせる必要はない。
いつもと違うペースを作ろうと考えた結果、無意識に距離を取る選択をしていた。
だが、ローゼンは迷いが無いかのように、間髪入れずにその間合いを詰めてくる。
その瞬間――。
僕の目には、彼の姿がゆっくり動いているように見えた。
ローゼンの姿だけではない。視界に映る全ての動きが緩やかに見え、自分の体もふわりと軽くなったような感覚。
あ。これならできる――。
僕は前に見たゼロスの剣技を再現する。
身を屈め、全身をバネのように体を跳ねさせ、敵を裂くイメージ――。
その一撃はローゼンの動きよりはるかに早かった。
一瞬で懐に入り込むと、彼の体に木剣を当てる。
「あ……」
なんか、今までで一番すごいのが出たぞ!
僕は、ローゼンから初めて一本を取ったことよりも、"いい技が出た"ことに感動していた。
一方で、ローゼンは「はっはっは!」と腹を抱えて笑い転げている。
あれ?僕が勝ったんだよね?
何がそんなにおかしいのだろう?
ひとしきり笑った後、目元の涙を拭いながらローゼンが呟く。
「カイン、ありがとう――」
負けて悔しがるのではなくお礼を言っている。
不思議なやつだ。
だが、きっと彼もまた僕とは違う人生を背負っている。
いったいどんな人生を送ってきたのだろうか――。
短期集中連載:2026年1月3日〜1月18日は毎日20時更新。
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