13話 加護の無い子
ローゼンに腕を引かれたまま、僕たちは広場を後にした。
優しい店主の突然の変貌。
それはゼロスの勉強会で村人たちが見せた雰囲気と同じだった。
"今のは何だったのか"その一言を僕は聞けずにいた。
「もう、大丈夫だよ……」
そう言って腕を掴むローゼンの手を下ろさせる。
気まずい雰囲気でいると、目の前から女の子を引き連れたハルトがやってきた。
「おう、カインじゃん。なんだぁ?こんなやつと遊んでたのかよ」
ハルトの取り巻き2人もわざとローゼンに見えるような仕草でクスクスと笑っている。
「なんか悪いのかよ」
僕は敵意を隠す事なく言い返す。
「おいおい、そんな顔すんなって」
と、ハルトはニヤニヤしながら肩を組んできた。
「お前はまだ知らないんだろうけどさ、あいつは"欠落者"なんだぜ?」
"欠落者?"
知らない言葉に一瞬思考が止まる。
だが、そんなことよりも――。
そいつの直接的な物言いに、今まで少しずつ積もっていた不満が一気に膨れ上がり臨界点を超える。
次の瞬間、無意識に繰り出した僕の拳がハルトの顔面を直撃していた。
初めて人を殴った感触――。
その衝撃が手首にきて自分でも少し驚いた。
驚いた表情で尻もちをつくハルトと、自分達も殴られると思ったのか、ハルトから距離を取る取り巻き2人。
少し遅れてから「ひっ!」と、小さい悲鳴が聞こえた。
一度やってしまうともう止まらない。
「なんなんだよお前は!この村は!!」
僕は怒鳴りながらハルトに馬乗りになり、防戦一方のハルトの顔を何度も殴った。
「カイン!やめろ!」
ローゼンがその仲裁に入り、ハルトから僕を引き剥がす。
「ミカとカレンも、ハルトを連れて今日は帰れ!」
「何だよ!お前はこれでいいのかよ!悔しくないのかよ!」
取り巻きも含めて穏便に帰そうとするローゼンに、理解できない怒りが込み上げてくる。
顔中に痣を作ったハルトはフラフラと立ち上がる。
「なんだよ……。"加護が無い"のが悪いんだろ!?」
「あ!?」
「カイン!もういいから!ハルトも今日は帰ってくれ!」
必死のローゼンの剣幕に負けたのか、舌打ちをしたハルトは取り巻き2人を連れて去っていく。
魚屋の店主からもらった魚は、いつの間にか地面に落ちていた。
ローゼンに後ろから羽交い締めにされた状態でいると、遠くから聞き慣れた声がこちらに近づいてくる。
「ちょっと!カイン何してるの!?」
母の声だ……。
まずいところを見られてしまった。
僕は砂まみれになった魚を見ながら、面倒な事になりそうだと感じていた。
短期集中連載:2026年1月3日〜1月18日は毎日20時更新。
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