12話 違和感2
僕たちが広場に着くと、出店で食事をする人や、市場で買い物をする人など、多くの村人たちで賑わっていた。
ふと、中央にある女神像を見ると、もう"おめかし"はしていなかった。
僕は心の中で平穏な日々を過ごせたことに感謝をすると、広場を見渡す。
この時間帯の広場に来るのは何ヶ月ぶりだろうか。
以前は母とよく来ていたが、ここ数ヶ月は道場に通っていたから久しぶりの人の多さに圧倒された。
だけど、何か記憶の中の広場とは雰囲気が違う気がする。
その違和感を探していると、見つけた。女神像の前で人だかりができている。
"昼の祈り"?それにしては奇妙だった。人々は女神像に向かって集まっているのではなく、女神像の前の一点に集まっていたからだ。
まるでそこにある何かを見に来たかのように。
「あれ、なんだろう……?」
僕は疑問を呟くと、ローゼンと共に人だかりに近づく。
人が多くて良く見えなかったが、どうやらその中心には母親に抱かれた小さな子がいるようだった。
村人たちは皆「女神様の生まれ変わりだ」というような発言をしている。
そんなにも似ているのだろうか?
興味が湧いて一目見てみたいと思ったが、人の多さになかなか近づけない。
ふと、ローゼンの方を振り向くと、駆け寄ってきた男性にぶつかり尻もちをついていた。
ぶつかった男は足を止め、ローゼンに近づくと、
「ごめんよ。大丈――」
そこまで言って、顔を上げたローゼンを見るや「ちっ、気をつけろよ」と吐き捨てて集団の後ろについた。
なんだ、今の……?
道場でもそうだ。ローゼンは皆から避けられている。
それは道場だけじゃなかったのかと感じて、この村に対する怒りのような感情が沸き起こり、集団への興味が一気に失せてしまった。
「大丈夫?」
「うん……。大丈夫だ」
僕はその集団のことは無視して、目的の魚屋さんを探すことにした。
建物の日陰にその店はあった。
石畳の上に木の板で作られた斜めの台があり、その上に頭を上向きにした魚が数匹陳列されている。
大きなものはカインが抱えるほどあるが、小さいものは丸焼きにして食卓に並べられそうなサイズだ。
店に近づくと、ひんやりとした冷気が漂っていた。
近くに氷などは無いため、おそらく魔術によるものだろう。
「へい、らっしゃい!ボウズお使いか?」
魚を汚さないためか、よく手入れのされた分厚いエプロンとゴム手袋をはめたガタイのいい店主が声をかけてきた。
どことなく、オルスタッドの"売れない民芸品を売るおじさん"と似た雰囲気を感じる。おじさんは元気にしているだろうか……。
「あ、そうじゃないんだけど。どんなお魚があるのかなと思って見にきました」
「いろいろあるぜ〜。つっても、あとは売れ残りだけどな!」
ガハハと声をあげて笑う店主。きっと繁盛しているのだろう。
つられて笑っていると、店主が何かに気がつく。
「そういやボウズは西辺圏から越してきたとこの子か?」
「そうですけど」
「そりゃ大変だったなぁ。もうこの村には慣れたか?」
そんなやりとりに、店主の心の温かさを感じた。
その間、ローゼンはずっと僕の後ろに隠れ、存在感を消していた。
意外と人見知りなのかもしれない。
剣が無いと性格変わりすぎじゃないかな……?
僕はあまり魚には詳しくなかったので、他の店に行こうと店主に別れを告げると、
「ボウズ、せっかくの縁だ。これ持ってけ」
店主は、葉っぱを編み込んだカゴに魚を3匹入れて渡してきた。
え?と、戸惑う僕に店主は告げる。
「売れ残りだから気にするな。今度はお前の母ちゃん連れてきてくれたら良い」
したたかな店主は豪快にガハハと笑う。
「ありがとうございます!」
母さんはこのお魚で何を作ってくれるだろうか。
そんなことを考えながら僕は魚の入ったカゴを受け取る。それにも魔術が込められているようで、持つとひんやりと冷たかった。
「後ろのボウズも――」
店主は笑顔でもう1つカゴを持ちローゼンに目を向けると――、
急に険しい表情に変わった。
「チッ……。ほら、もってけ」
途端にぶっきらぼうに、魚の入ったカゴをローゼンに押し付けるように寄越す。
ローゼンは反論もせず、ただ目を伏せてカゴを受け取った。
「……ありがとう、ござい――」
「さっさと帰りな」
ローゼンがお礼を言い切る前に、店主は手で払うような仕草をして僕たち2人を追い返す。
何が起きたのかわからず立ちすくんでいると、「さっさと離れるぞ」とローゼンが耳打ちして僕の腕を引く。
それはまるで“慣れている”かのようだった――。
彼の手は力強くカインの腕を掴み、2人は広場を後にした。
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