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灰と灯火のグリモワール  作者: みむらす
1章 雪の降る日 前編【日常】
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10話 一剣無声

 ローゼンとの早朝練習の勝敗がついた後、僕たちは足音がした方を振り向いた。

 そこに立っていたのは、額に傷跡を残す師範だった。


 僕たち2人の打ち込み稽古を見ていた師範は、低くも優しい声を発した。

「おはよう。2人とも、見違えるほど上達したね」


 それに対してカインは

「ありがとうございます!」

 と、褒められた喜びをそのまま言葉にし、一方でローゼンは、

「まだまだ学ぶことはたくさんあります」

 と、謙虚に答える。

 2人は同じ剣を振りながらも、どこか違う空気をまとっていた。


 師範は道場の鍵を開ける。

 誰もいない道場は物悲しさと同時に、体を鍛える場にふさわしい厳かな雰囲気も持ち合わせていた。


 「2人ともちょっと手伝ってもらえるかい?」

 師範はそう言って道場の奥にある倉庫を開ける。

 木剣を数本ずつ渡された僕たちは倉庫を出ると、道場の壁に立てかけていく。

 ふと、床間の掛け軸が目についた。


 掛け軸には"一剣無声"という文字が書かれている。

 前々から思っていたけど、どういう意味なんだろう?


 するとローゼンが、

「師範、これってどういう意味なんですか?」と訊ねた。


 師範は2人の横に立つと、じっと掛け軸を見つめながら語り始める。

「“一剣無声”――言葉ではなく剣で語る。語るのは剣を振るう人間の生き方だ。

 力の大きさや勝ち負けではない。“なぜ剣を振るうのか”を忘れた者はやがてただの刃となる」


 師範は続ける。

「きっと2人は立派な剣士になっていくのだろう。でもその時に、"自分は何のために剣を振るうのか"それを忘れてはいけない。

 そんな、人としての誇りを大切にできる人間に育ってほしいと先生は願っているよ」


「僕、"オータスみたいな英雄"になりたいんです!」

「ったく、カインは。そういうことじゃねえだろ」

「はっはっは。それもまた1つの在り方だろうね」


「ほらなー?」と、僕はドヤり顔でローゼンに勝ち誇る。

「そ、それなら俺だって!」

「お前も"オータスの英雄譚"好きだったのか?なんだよ。仲間じゃねえかよー」

 まさか、同じく"オータスみたいな英雄"を志す同士がこんな近くにいたとは。

 僕は同じ目標を持つ仲間に出会えたことへの喜びのまま、ローゼンの肩に腕を回す。

「うっせぇ!離れろ!俺は"オータスみたい"じゃなくて、"オータスを超える英雄"になるんだ!」


「「おはようございまーす!」」

 気づけば稽古の始まる時間が近づいていたようで、門弟が揃い始める。


「2人とも、準備を続けるぞ」


 "一剣無声"。

 その掛け軸を柔らかな朝の光が照らす。

 言葉ではなく剣を振る姿で語る。その掛け軸の下で、少年たちの夢は静かに動き始めていた。


 だが、カインはまだ知らない。

 英雄という言葉の輝きの裏に潜む現実を――。


 いつものように稽古が進んでいく中、その築き上げられた日常を壊すように1人の門兵をしている青年が道場に駆け込んできた。

 そして師範といくつかのやり取りをした後、師範は今まで見たことのない緊迫した表情で道場を飛び出して行った。

短期集中連載:2026年1月3日〜1月18日は毎日20時更新。

以降は、毎週水曜・日曜の20時に更新していきます。

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