4話 魔術に憧れた少年
夜、入浴後。
寝る前に魔術の練習をするのがカインの日課となっていた。
明日はゼロスの魔術教室が開催される特別な日だ。
いつもより入念に練習をしよう。
そう考えた僕はアリスに魔術の基礎を教えてもらった日のことを思い返す――。
――良く晴れた暖かな春の日。
カイン家の井戸の前に立ったアリスが、僕とロミオに魔術の講義をしていた日のこと。
「魔術はね、魔術構文を唱えれば発動できるものじゃないんだよ。なんて言うのかな――」
目を瞑り、額の中心を人差し指でポンポンと叩きながら言葉を探している。
これはアリスが考え事をする時の癖だ。
良い表現を思いついたのか、パッと目を開いてアリスが言う。
「――そう!形のないものに触れて、それを具現化するイメージかな。この辺にある魔力をちょっとだけ外に捻り出すの」
言いながら、"この辺"と自分のおへその下辺りをさすっている。
「先生、良くわかりません!」
ロミオが手を挙げて意見を述べる。
僕も良くわかりません。
「うーん……。そうだなぁ……。よし、とりあえずやってみよう!」
考えるより動く派のアリスらしい発言。
やってみたらできるはずと、楽しそうに実技が始まった。
「まずはこうやって手を開いて――」
――僕は、暖炉の暖かい熱気を背中に感じながら、正座になり姿勢を正す。
当時、アリスがやっていたように両手でボールを持つような姿勢で、胸の前に手をかざすと、静かに目を閉じ深呼吸をする。
心を落ち着かせ、指先に集中する。
頭の中で"そこに水の玉が在る状態"を思い浮かべると、それを具現化するためアリスから教わった魔術構文を唱えた――。
「小さき水の精霊よ、揺らぎの姿をなせ――。
《ミレア・ウォータ》」
僕はそっと目を開くと、両手の中に水の玉が浮いて――いなかった。
まだ一度も成功したことがない魔術の詠唱。
何が悪いのだろう。今日こそはいけると思ったのに……。
少し落胆しつつも、次こそはと気持ちを新たに挑戦する。
だが、何度やっても一滴の水も生成されることはなかった。とうとう、両親が明かりを消すと言うので僕は布団に潜り込む。
アリスのことを考えたせいか、早く迎えに行きたいという気持ちが強くなる。
でも、今の僕には何の力もない。これでは"アリスを護る"という約束を果たせない。そんな焦りに似た気持ちが日に日に大きくなっていく……。
そこに一抹の不安がよぎる。
アリスは本当に生きているのだろうか……?
僕は自分の頭に拳骨を入れ、それを考えないようにして眠りについた。
アリスは魔術学院で楽しい魔術を学んでいるはずだ。
だから明日こそは魔術を扱うための秘訣を掴むんだ。
短期集中連載:2026年1月3日〜1月18日は毎日20時更新。
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