2、再会
二年前の惨劇のことを魔女のせいだ、と吹聴しているのはおそらく隣国の手のものだろう。
魔女狩りをさせて、この国の戦力を削りたいのだ。
今は魔女の保護や魔女狩り犯の拘束、そしてこの噂を流している人物の特定に勤しんでいる。
デイジーは俺と別れた後から表舞台に立たなくなった。〝他の好きな人〟と駆け落ちしたのだろう。
副所長の地位まで捨てて。
もういいのだ、彼女のことは。光の速さで立ち直ったのだ。
彼女は魔女の中でも特殊な力を複数持っている。最強なのだ。
あいつなら魔女狩りにやられることもないから、騎士団の任務でも会うことはないだろう。
次は第三王子に頼み込んで見合いでもしてみようか、と思案していると、執務室の扉が乱暴に開かれた。
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
「追っていた魔女狩りの主犯格が〝妖精の森〟に入って消息不明になった!」
そう叫んだのは俺と同じく〝惨劇〟の生き残りであるロータスだ。
「森の番人に捕えられたか…三年経つまであと一年だ。それまで〝妖精の森〟の周りに見張りをつけさせよう。」
「ああ、それしかないな。俺たちが森の番人に厳罰を下されたら元も子もない。」
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こうして俺が〝妖精の森〟の近くに下っ端騎士を配置してから一年が経った。
魔女狩りの黒幕はいまだ掴むことができず、黒幕にとってはトカゲのしっぽ程であろう人物を捕まえては何も情報が得られず落胆する。それの繰り返しだった。
〝妖精の森〟の立ち入り禁止が解かれる年ということもあって皆がそわそわしていたが、具体的にいつ解かれるのか誰も知らず、その日がいつか賭けている騎士たちもいた。
俺はそんなくだらない賭け事には参加せず、あれからも恋人が出来ては振られを繰り返し、最速記録は半日まで縮んだ。
「〝妖精の森〟から人が複数現れたと報告が!消息不明の若者たちや魔女狩り犯も含まれています!」
ロータスが執務室の扉を蹴破って、驚愕の報告を告げた時、ちょうど今年20歳になったこともあって、結婚に急いでいた俺はちょうど新しい恋人候補を探しに酒場に行くところだった。
「今すぐ向かいますよ!副団長!」
俺はロータスの乗ってきた馬車に駆け込んだ。
ロータスによると、森の番人は子連れの魔女で妖精と会話が可能らしい。三年間ずっと妖精界と人間界の狭間で番人をしていたらしい。俺はふとデイジーが妖精と会話ができると言っていたことを思い出した。しかし、父親は一緒にいないと聞いて、じゃあデイジーじゃないだろうと結論づけた。
馬車から降りると、〝妖精の森〟は〝惨劇〟の時とは比べ物にならないほど賑やかだった。木々や川の音、鳥の歌全てが森を祝福していた。おそらくずっと森で生きてきたであろう魔女の子が初めて見る世界に可愛らしくはしゃいでいる。緑の髪とアイボリーの瞳が太陽の光で煌めいている。消息不明であった若者たちや下っ端騎士に捕らえられた魔女狩り犯がそんなに走ると危ないよ、とその子を落ち着かせている。
そして、眼の前には痛いほど目に焼き尽くした女がいた。相変わらず綺麗な金の瞳だ。
「貴方が騎士団副団長ですか。3年間の森の番人としての私の行動を国王陛下に報告したいのですが、謁見は可能でしょうか。」
聞き覚えのある美しい声が俺の鼓膜を揺らす。
「デイジー…」
「…あ、アスター?久しぶりね。貴方が副団長をしているとは思わなかったわ。さすがね。」
デイジーは微笑む。
ふと、デイジーの後ろで若者たちと遊んでいる幼子を見る。
「他の男と駆け落ちしたんじゃなかったのか…?」
「ああ。したよ。その後、すぐに森の番人になったの。」
嘘だ。ちょうど三年と一日前が俺がデイジーに振られた日だ。
「あの子の名前は?」
「……アイビーよ。」
デイジーが小さな声で答える。何かやましいところがある時の声だ。君と一緒にいた2年間で嫌と言うほど聞いた。
…おかしいと思った。俺は子供が苦手なのに、あの娘を一目見たときから愛しいと感じた。
「俺の子か…?」
「…違う!貴方は何も関係ない。」
デイジーの、初めて聞く声だった。
「じゃあ、浮気してたってことか?」
違う、と確信していた。だから、デイジーの答えに俺は耐えられなかった。
「…そうだよ。」
デイジーのあの微笑みが俺の心を無慈悲に引き裂いた。




