第84話「ミリィとゾーイ」
ーーケアン基地・ブリーフィングルーム。
「本日より、ヘレン・スチュアート軍曹の欠員補充として着任します、ゾーイ・ベネット中尉であります。」
司令官ボンドと隊長キースに対して、ゾーイは敬礼する。
インパクトのある登場に、フレンドリーな挨拶から始まった彼女。
しかし、将校らしく締める所はしっかり締めるのもまた、彼女の魅力であった。
ホワイトファングの新しいメンバー、ゾーイ・ベネットとは、そう言う人間である。
上官への礼を済ませると、即座に顔を緩める。
「っと、堅苦しいのはこれで終わり。
改めて、自己紹介するわ。
ゾーイ・ベネット、二十五歳。
趣味は、ライブかなー。あとオシャレも。
で、どうだった?私の登場?」
「スゲーカッコよかったっス!」
「ストライダーをあんなに扱えるなんて、見た事ないです!」
若いケビンとマリアはもう彼女にぞっこんだった。
「確かに、俺でもあれだけの動きが出来るか自信はないな。」
「えぇ。アレだけで実力は伺えますね。」
ビルとサイラスも頷く。
ユアンが不思議に思う。
「それにしても、単独で来られたって事はどこからですか?」
その解答にゾーイは軽々しく答える。
「リブパールからよ。」
「リブパールから!!」
一同が驚くのも無理はない。リブパール港はピースブリタニカ島最西端である。
ゾーイはさらにサラりと言う。
「んー。私一人だったし、走るのも好きだからね。
バイク感覚で、飛ばしてきたわ。」
「へぇ。走り屋か。
あとライブ趣味ってさ、どんなの行くの?」
レイもまたバイク好きなので、気が合う気がして少し突っ込んでみた。
「んー。ライブのグルーブ感が好きだから特にって事はないけど…
今はやっぱりオリビア・ハレンよねー。次元が違うわ。」
「おー、ハレン様詳しいの?いいねー。」
一緒の趣味に意気投合して楽しそうに話す二人。
ミリィだけ、不満気に見ている。
そして、ゾーイはそんなミリィをチラリを見る。
ーー視線からニヤリと勝ち誇った表情を感じたミリィは、思わず身構えた。
(…何、その目?)
キースはミリィ見て、確認する。
「どうだ?ゾーイとは上手くできそうか?」
ミリィはプイっと顔を横に向ける。
「あれだけでは、まだ中尉の実力は測れません。
是非とも模擬戦で実感したいですね。」
口調は少し喧嘩腰だった。
ゾーイはそんなミリィに対してもフレンドリーな態度は崩さない。
「そうね。あれだけじゃ、ただの派手好きで終わっちゃうわね。
うん、模擬戦やろ。キース良いよね?
あと中尉とか堅苦しいの無しでね。ゾーイって呼んで。」
キースはゾーイ上手な対応に、素直に「あぁ。」と頷くだけだった。
――ケアン基地郊外・平原地帯。
ホイワトファングの新メンバーゾーイと古参のミリィの一騎打ちと聞いて、基地内も注目する。
ジェイソン・モリス少将もまたその一人であった。
「カーティス中尉はいつもと違ってショートソード二刀流か。」
脇に居るボンドは何故かゾーイ贔屓だ。
「ベネット中尉の能力はオセリス准将の折り紙付き…直ぐにカタが付くでしょうよ。」
キースは横目でボンドの態度に少し不満示す。
気を改めて、キースが合図する。
「ミリィ、ゾーイ準備はいいな。
では、模擬戦開始!」
やはり先に仕掛けたのは高機動のゾーイだった。
サブマシン二丁と言う高機動を活かした仕様で、揺さぶりをかける。
しかし、ミリィは当然、その程度の揺さぶりは悠然と躱す。
「ゾーイさん、その程度?」
ミリィが挑発し、接近戦のチャンスを伺う。
「さすがね。この距離じゃ当てられないか。」
ゾーイは落ち着いた様子で少しずつ距離を縮める。
(あの性格なら直情的に攻めて来ると思ったけど……意外に冷静ね。)
ミリィは思惑とは違う展開に少し焦る。
しかし、ここからが本番だった。
ゾーイはローラーダッシュにジャンプを加え三次元の戦法を取る。
本来、ダッシュからのジャンプなど着地のバランス崩れリスクでやれない。
それを可能にし、尚且つ射撃を織り交ぜるのだから、彼女の力に皆魅了されてしまう。
「すげー!!」
「アクロバティック射撃って言うのか?」
「いや、俺には一生無理だ…」
キースも息を吞む。
「大佐が”逸材”って言う訳だ…」
四方八方に上からも来る攻撃にミリィは少しずつ被弾が増える。
「速い!……でも、負けられない!」
ミリィが強引にゾーイに近づいて二刀の連撃をかける。
が、ゾーイはスレスレの所で見事に躱す。
「ヒュー!さっすが。鋭い太刀筋ね!
でも無理に突っ込んだら、後が危ないわよ。」
そう言いながら、至近距離でサブマシンガンを鳴らす。
しかし、流石のミリィはショートソードで防ぐ。
「そんなの分かってるわ!言われなくても!」
ミリィに、焦りの他の感情が出てくる。
レイはミリィの動きに違和感を感じ、モニターを見る。
「あいつ、どうした?」
同調率も乱れている。
「ミリィ!落ち着け!」
レイの呼びかけにミリィは少し怒って返す。
「分かってる!黙ってて!」
ゾーイは再び距離を取り、また説教する。
「ダメダメ。そんなに怒ってたら、動きが乱れるばかりよ。」
ゾーイの教官の様な態度に、更にミリィは怒る。
「貴方に指図される謂れはないわ!」
「不味いな…」
キースがぽつりと呟く。
戦いは完全にゾーイのペース。
近戦型にとって高機動型は不得手の相手ではあるが、本来のミリィなら落ち着いて対応できる。
それが今のミリィはまるで出来ていない。
「……技量差じゃない。心が乱れてる。」
ミリィの被弾率はついに撃破値に達する。
「っく!……そんな…」
ミリィは愕然とする。
そんなミリィにゾーイのアスカロンが近づき、手を差し伸べる。
「ナイスファイト!」
機体越しでも伺えるゾーイの相手を称える笑顔が、ミリィに完全敗北を悟らせる。
「……完敗です。」
「だーかーらー。敬語要らないって!」
基地の皆からゾーイは持てはやされる。
一方、ミリィにはホワイトファングのメンバーが寄ってくる。
ゾーイはそんなミリィを複雑な目で見ていた。
ーー格納庫。
基地全体は闇夜の中、すっかり静まり返っている。
そんな中、一機のアスカロンだけが稼働している。
ミリィは日中のデータを元に、ひたすら戦闘シミュレーションが繰り返していた。
「…ダメ。もっとやれるはず。」
シミュレーションでは何度もゾーイを撃破しているが、ミリィは納得しない。
そんな彼女を予感した一人が、格納庫に入ってくる。
レイだ。
(やっぱりな…)
ミリィの機体だけ、小刻みに揺れている様をからも彼女の必死さが伝わってくる。
レイはミリィの機体をコツコツとノックする。
ミリィは驚きながらもゆっくりとコックピットを開ける。
レイが笑顔で、両手に持ったコーヒーの“右手を”上げて声を掛ける。
「お疲れ。ちょっと休憩しよーや。」
レイの笑顔を見て、ミリィは険しい表情を和らげおもむろに機体から降りる。
「なんだよ。シミュレーションが十分勝ってんじゃん。」
レイがシミュレーションログを見ながら励ましても、ミリィは拘る。
「まだダメ。あの人には負けたくない。」
ミリィはコーヒーを飲みならも、顔がまた強張ってくる。
レイはため息をつく。
「なんでそんなにゾーイに拘るんだよ。」
ミリィは解答に困って質問返しをする。
「レイは……ゾーイの事どう思う?」
レイは困った顔になりながらはぐらかす。
「まぁ大したもんだよな。俺じゃあのスピードは捉えられねーや。」
ミリィは、少し顔を赤らめて言う。
「それもだけど……その…女性として…さ。
ほら、レイと趣味とか性格合いそうだし……」
レイもミリィの顔が見れない。
「んまぁ、良いと思うよ。まぁうん。
でもな、俺はミリィの方が心配だぞ。」
「どうせ、妹みたいなもんだからでしょ…」
ミリィは拗ねて言う。
「いや、違うって。」
レイの言葉に、ミリィは思わずレイに顔を寄せる。
「じゃあ、どう思ってるの?」
(ち、近いって…)
レイの心臓が急激に速度を上げる。
「そ、そりゃあな……俺は――」
と、心臓の鼓動が限界に達して、レイはたまらず逃げ出す。
「ま、まぁ、もう夜遅いしな。お前も早く寝ろよー。」
「もぅ。またはぐらかす……」
ただ、ミリィもレイの気持ちを感じられた気がして、今夜のシミュレーションは切り上げた。
ーー廊下。
ふぅ、とレイは軽くかいた汗を拭いながら歩いていると、小声が聞こえてくる。
「……はい。予定通りです。」
ゾーイの声だ。
「いえ、問題ありません。」
「はい、彼女は想定通り。」
レイが不意に声を掛ける。
「ゾーイ、こんな夜中にどうした?」
ゾーイは驚き、通信端末を隠しながら少し慌てて返す。
「あ、レイ。アナタこそ。」
「まぁ、俺はミリィの事が気になってなー。
ゾーイもミリィとは上手くやってくれな。」
「え、ええ。もちろん!」
そう言ってゾーイは、鼻歌で焦りを誤魔化しながら去って行った。
「アイツ……いや、俺の考えすぎか?
ミリィの事も含めて……キースに相談しとくか。」
レイは目を細めてゾーイの後ろ姿を見送る。
ゾーイ・ベネット。
レイは、彼女に一抹の不可解を感じながら明日を迎える。




