第82話「想いの強さ」
ーーケアン基地・通信室。
キースのオセリスへの報告は続く。
「”大丈夫”です…か。
准将のその言葉で救われました。」
暗かったキースの顔から、みるみる生気が満ちる。
オセリスはキースの顔を見て、少し冗談で更に和ませる。
『それなら、もっと早く報告するべきだったな。』
アイリーン・フォスター博士が繋げる。
『ダメダメ。キースはヘレンの事になると、もう視界がこうだから。』
そう言いながら、左右の手のひらを顔の横に立てて、ニヤニヤしていた。
フォスター博士のジェスチャーを見て、オセリスも少し笑っていた。
キースは恥ずかしがりながら、話題を戻す。
「俺の事は良いですから、ヘレンの話お願いしますよ…」
オセリスは「分かった分かった」と手を軽く上げた。
『そうだな。それには順序立てて話をしよう。
先ず、フォスター博士についてだが、実はな…
ホワイトファングの活動データは逐一博士に送っていた。』
キースは一瞬驚いたが、すぐ納得した。
「初めから、俺らは実験部隊みたいなもんでしたからね。」
オセリスは頷く。
『しかし、お前たちは初めから想像以上の成果を見せてくれたな。』
『そうそう。貴方達とレッドホーン隊のデータでNuGearの改善も進んだし。』
フォスター博士はノリノリで話す。
キースは”レッドホーン”の名で思い出す。
ーーダグラス大尉の最期の死闘。
「ダグラス中佐の最期は、一人で十何体ものACEを倒したって聞きました。」
『お、そこを突くなんて、流石ね!』
フォスター博士はサムズアップでキースを褒める。
『あのデータはねー、ほんとビックリものだったわ。
同調率が計測出来なかったの。』
キースは納得して頷く。
フォスター博士が続ける。
『研究者として理屈で説明出来ないのが歯がゆいんだけど…
感情の爆発ーーって言うのかな。
NuGearには感情を力にする能力があるのは分かってるでしょ。』
キースも頷く。
「はい。恐怖は同調率を落とし、勇気ってか…士気が同調率を上げるのは良く理解してます。」
オセリスは頷く。
『お前たちの強さの根幹だな。』
フォスター博士は頷きながら、続ける。
『で、その感情が最高潮に達するより先まで行くと、計測不可能な程の力を発揮する。
私は同調率の測定限界から、それを”限界突破”って名付けたわ。』
「限界突破…」
キースは息を飲んだ。
フォスター博士は続ける。
『で、ヘレンの話に戻すけど、彼女が研究所に来たのは、あの感情暴走を止める為だったでしょ。』
キースは頷く。
「ヘレンのおかげで、今ACEが戦えてる。」
フォスター博士も頷く。
『それでね、その過程で彼女の能力を発見したのよ。』
「Nジャマーですか。」
キースは即答するーーが、フォスター博士は首を振る。
『それだけじゃないの。
彼女は特殊なの。Nジャマーは副産物的なモノで、本質はNuGearとの相性なの。』
キースは黙って耳を傾ける。
フォスター博士は続ける。
『彼女のNuGearとの相性…同調率は初めから異常だった。
研究者としては、是非詳しく調査したかった。」
キースはそれで合点がいく。
「それが、あの時言ってた”例の件”ってのですか。」
フォスター博士は頷く。
『キース、貴方には改めて謝らなければいけないわね。
研究欲求に負けて彼女の自由を奪ってしまった。』
モニター越しのフォスター博士の姿は、いつもテンションとは正反対にしおらしく肩を落としていた。
「博士…」
今のキースはフォスター博士を怒る感情など無かった。
もう気付いている。
「でも、それはヘレンが望んだ事ですよね?」
フォスター博士も上目づかいに返事をする。
『そうね。あの後、彼女は数日で事務所と話を纏めて戻ってきたの。
私も驚いたわ。』
そして、フォスター博士は真剣な面持ちになる。
『彼女の最初の一言は効いたわ。
「私もキースと一緒に戦いたい。」
だから、私は彼女の想いに応えるために、彼女の力を研究した。』
キースはヘレンの一言に言葉が詰まった。
(それじゃ…あの時別れてからもあ気持ちは固まってたのか……)
フォスター博士は続ける。
『で、研究をすればするほど彼女のポテンシャルに驚かされ続けたわ。
正直、彼女の限界が見えなかった。
だから……正直、彼女を戦場に送るのは…』
『そこで俺が現れたんだ。』
オセリスが割って入ってきた。
キースはオセリスに少し突っかかる。
「それじゃあ、やっぱり大佐がヘレンを戦場に連れてきたんですね。」
オセリスは首を振った。
『俺はフォスター博士に、能力者のデータを頼んだだけだ。
声を掛けたのは俺からではない。ーーヘレンからだ。』
キースは言葉を失った。
フォスター博士が続きを語る。
『ヘレンにオセリス准将の事を紹介するとね…
彼女、直ぐに准将に繫いで貰ってね。
言ったのよ。
「私をホワイトファング隊に加えて下さい。」って。』
キースは徐々に瞳から涙が溢れてくる。
オセリスが続ける。
『俺もヘレンのデータは受け取っていた。
「お前の力は未知数過ぎて戦力として不確定だ。」
と、突っぱねてもな…
「力は私自身でコントロールします。絶対にご迷惑はかけません。」
と言うんだからな。』
フォスター博士も思い出し語る。
『あの時の彼女ったら…もう貴方そっくりだったわよ。
いわゆる梃子でも動かないっての言うのかしら。
准将と私がどんなに説得しても、彼女は意思を曲げなかった。』
「そんなに…俺のために」
キースの胸の奥が、静かに崩れた。
オセリスは続きける。
『そういう経緯があってな。俺は博士と連携して彼女の限界突破に対応する策を講じていた。』
フォスター博士が付け足す。
『いつかこうなると分かってたから、色々シミュレーションしてたからねー。
最悪の事態にならなかったのはラッキーね。
って事で、データを見る限り極度の脳疲労が原因だろうから、大丈夫って事。
後は研究所で詳しく調べて、対処すれば大丈夫よ。』
キースは博士の言葉の中で気になる事があった。
「その……最悪の事態って…?」
『死亡、もしくは脳に後遺症が残る事。』
博士の言葉に、キースは愕然とする。
「それじゃ…そんな危険を孕んでヘレンは戦ってたんですか?」
オセリスはゆっくり頷く。
『そうだ。
そんな爆弾を抱えても、”お前の力になる”ーーその決意と覚悟は誰にも止めらなかった。』
フォスター博士は少し茶化し気味にキースに語る。
『貴方達の絆の強さにはほんと参っちゃうわよー。
でも、大丈夫。今回の事で対策も打てるから、もうこんな事も無くなるからねー。
再会したら、いっぱい優しくしてあげなさいよー。』
「はい!博士、ヘレンを宜しくお願いします!」
キースは、博士に精いっぱいの感謝を込めて礼を送った。
オセリスはキースの姿を見て苦笑する。
『っふ。成長したな。
ヘレンを連れてきた当時にこんな話をしたら、お前が感情限界突破してただろ。』
フォスター博士もケタケタ笑う。
『そうよねー。
下手したら、ヘレンと大喧嘩とかにもなっちゃったかも。』
「二人とも厳しい事言いますねー。
まっ確かに当時はヘレンが戦場に来たことが理解出来なかったからなー。」
緊張が解けて、三人は笑い合う。
一笑いの後、オセリスが最後に言う。
『ヘレンがアウグスト研究所に行くことになれば、欠員が出るんだが…』
キースも即応する。
「はい、俺もそれをどうするか考えてました。」
オセリスはニヤリとしながら言う。
『ほぅ。ヘレンを心配しながら、その事も考えれるようになったか。
公私を分けて考える事も士官として必要な要素だ。
ちゃんとホワイトファング隊長として成長を怠っていないな。』
オセリスに褒めれて、キースも照れる。
「いや、俺もまだまだです。」
オセリスはキースの態度に感心しながら言う。
『うむ。その殊勝な心掛けはいつまでも忘れるなよ。
それで、欠員補充は俺に任せてくれ。
CoA一期生に一人ずば抜けた逸材がいる。
彼女を送る。
一連のデータを送るが、詳細は彼女から聞いてくれ。
そう言う性格だ。』
キースは胸を高鳴らせながら言う。
「大佐に”逸材”と言わせる程の実力者かぁ…」
ヘレンの”想いの強さ”を――改めて胸に刻んだキース。
そして――新たな仲間が来る。




