第78話「アルファを取り戻すために」
ーー暗転。
クリリアの影たちに、今までの嘲笑は見られない。
?A「戦況は二大エース対決の様相か……」
?B「だが報告がある。部下がディパンの諜報員と接触した。」
?A「……ほう。」
?Aの声は低く笑った。
「脇が甘いな。だが、ディパンに何が出来る?」
?B「ディパンには確かに国際的影響力はない。」
?C「しかし、我々の調査網から抜け出す程の連中がいるのは確かだ。」
?B「その通りだ。我々の知りえない所でこの戦争に関与している…これは由々しき事態だ。」
?A「総統はなんと?」
?C「現在、計画に支障は無いと判断された。」
?Aは総統の判断に違和感を感じる。
?B「静観するのか?PLFのような脆弱組織ではあるまいに。」
?C「忘れるな。全ては総統の為に動いているのだ。」
?A「ヨルムンガンドの件もそうか……」
影たちは総統の元に行動している…
しかし、彼らは総統の真理を知らない。
共産主義と言う名の洗脳により、独裁者は国を思うがままにする。
クリリアもまたそういう国なのだ。
影たちは”総統”を心酔し、自らの意思を持たず行動している……
ーーエウロパ領・ルーティア基地・司令官室。
ダミアーノ・カルドーネ少将は、強硬派筆頭のシュヴァイツァー大将と通信を繋いでいた。
「…失策だったな。カルドーネ。」
シュヴァイツァーの声は冷たかった。
「いえ、それも全てはルニエやファフナーが連携を怠った結果でして…」
カルドーネが珍しく女々しく言い訳を並べる。
「結果が全てだ。」
シュヴァイツァーの一言にカルドーネは凍り付く。
通信越しだというのに、室温が下がった気がした。
しかし、シュヴァイツァー口角を上げる。
「とは言え、防衛成功の功は認める。
お前には計画通り侵攻作戦の先駆けを担ってもらう。
増援の用意もある。」
シュヴァイツァーの一言に、カルドーネは汗を拭う。
「は、はは!」
シュヴァイツァーは続ける。
「だが、焦る事は無い。確実に進めていく。
その為に先ず、第八艦隊を再編する。」
カルドーネは察知する。
「ヨルムンガンド……ついに竣工しましたが!」
シュバイツァーは頷く。
「それと、シュヴァルツアドラー隊についてな。
特務を解き、国防司令部直属となった。」
カルドーネに嫌味な笑みが蘇る。
「では、ファフナーも自由に扱える、と?」
シュヴァイツァーは頷き呟く。
「あの方の考えは分からん。
が、これで計画は万全だ。」
カルドーネは敬礼はし、通信を切る。
「そう、これで私の絵図通りに完璧な侵攻が出来る。」
室内にカルドーネの不敵な笑い声が響いた。
ーーケアン基地・食堂。
レイとミリィが、キースとヘレンについて話している。
レイが呟く。
「PLFの連中…まだ何の要求も寄こさないそうだ…」
ミリィは俯いている。
「キース…どこで何をしてるの?」
レイが話題を変える。
「それより、ヘレン………どうだ?」
ミリィは首を振る。
「ダメね…規定訓練はこなしてるけど…食事も少ないし…心ここに在らずって感じ。」
レイがため息をつく。
「キースも相当盲目だったが、ヘレンにとってキースの存在ってデカかったんだな。」
ミリィも頷く。
「お互いがお互いを想い合ってるから…絆が強ければ強いほど…離れると苦しいんだね。」
レイも頷く。
思い込むレイを見て、ミリィがふいに呟く。
「…ねぇ、私に何かあったらレイは…どうする?」
唐突な質問に、レイが驚く。
「なぬ?……そりゃあお前、気が気でなくなるよ。」
ミリィは少し頬を赤らめる。
しかし、レイは次の言葉で失敗する。
「その為に後ろで見守ってるんだからな。
迷子になったら気が気でなくなるのは当たり前だろ。」
「私を子供と思ってるの!バカ―ー!」
ミリィはレイに思いっきり平手打ちをかまして、ヘレンの元に行く。
その一撃は痛みよりも、図星だった。
レイは打たれた頬をさすりながら、反省する。
(…はぁ。俺も素直になれないなぁ……)
ーーヘレンの自室前。
ミリィは軽くノックをする。
「ヘレン居る?」
ヘレンのひ弱な声が返ってくる。
「ミリィ?どうぞ…」
ヘレンは眼差しが彼方へ向かっていた。
「ミリィ…どうかした?」
ミリィはヘレンを見ながら、思案して言葉を選ぶ。
「ヘレン…歌、歌ってよ。
ほら、今回の作戦失敗で皆意気消沈してるから、元気付けてくれないかな?」
しかし、ヘレンは気が重い。
「今は……ごめんなさい。そういう気分になれない。
命令って事なら…」
無理に立ち上がろうとするヘレンを、慌ててミリィが支える。
ーーと、その時。
一つの通信が基地内に走る。
「キース・ウォレン大尉の救援信号を受信!」
「キース!!」
ヘレンが声と同時に駆けだす。
ミリィも笑顔で続く。
(やった!キース、やっぱり無事だったんだね。)
ーーブリーフィングルーム。
ホワイトファング隊が集まると、皆が驚いた。
全速力のヘレンが息も絶え絶えで、ボンドに食って掛かてるいたのだ。
「キースは!キースはどこにいるんですか!!」
さすがのボンド大佐が、ヘレンの迫力に圧されている。
「落ち着け、スチュアート軍曹!ここは戦場だ。
ウォレン大尉は、現在ヴァレン峠を越境中だ。」
レイが呟く。
「…そんなトコに居たのかよ。」
サイラスが安堵する。
「でも無事で何よりです。」
ミリィも頷く。
「やっぱり、キースならきっと大丈夫だって。」
しかし、ユアンは険しい表情をする。
「ヴァレン峠か…中央地帯で大規模展開はしてないけど…」
ビルも頷く。
「敵の警戒網は当然ある。」
ボンドも大きく頷く。
「そうだ、救援信号のポイントはヴァレン峠でも敵勢力下だ。」
「それでも行かないと!」「それでも行かないと!」
責任を感じるケビンとマリアの声は大きい。
「行きましょう!今すぐ!!」
ヘレンの焦りは尋常ではなかった。
「待て!軍曹!」
ボンドが制する。
「現状を考えろ!
先の作戦で多数の犠牲が出ている。
今大部隊で捜索を出すには危険がある。
ましてヴァレン峠……距離的リスクもある。」
ボンドの言葉に、ヘレンが叫ぶ。
「では、キースを見放すんですか!?
私は一人でも行きます!!」
そう言うや、駆けだそうとするヘレンをジェイソン・モリス少将が止める。
「将軍!」
ボンドが思わず声を出す。
モリスはヘレンを見て話す。
「軍曹、君の気持ちは分かる。
だが、ボンド大佐の言う通り、今の我が軍に派遣する余力はない。」
「そんな……」
モリスの言葉にヘレンは肩を落とす。
が、モリスは付け加える。
「大部隊は、な。」
室内の空気が変わった。
「ホワイトファング隊内で一個小隊。
それが捜索に回せる最低限だ。」
モリスはそう言って、レイへ視線を向ける。
レイはハッとし、笑顔で挙手する。
「ではホワイトファング隊第二小隊で、ウォレン大尉捜索の任に当たりたいと思います!」
モリスは笑顔で頷く。
「よろしい。
ホワイトファング隊第二小隊に、キース・ウォレン大尉捜索の任を与える。
大佐、よろしいかな?」
ボンドはおいしい所を持って行かれて、気に食わない顔をしている。
「ん、まぁ将軍のご命令通りに…」
対称的にモリスは三人を見て、真剣に語る。
「命令だ。必ず連れ帰れ。英雄を失う余裕は我々に無い。」
「は!必ず!」
三人は誓いを込め敬礼した。
ーー格納庫内。
ホワイトファング隊第二小隊のメンバーが機体の調整を行っている。
「ヘレンはドローンを捜索型に切り替えとけ。
キースを探す事だけ考えろ。」
レイの言葉に、ヘレンは頷く。
「守りはこっちに任せて!」
ミリィの笑顔に、ヘレンは笑顔で返す。
「ありがとう。二人とも。」
ヘレンは心の中で呟く。
(キースは帰ってくる。だって、私が待ってるから。)
レイは二人を見て号令する。
「さーて、迷子の隊長さんを連れ戻しに行きますか!」
「了解!」
三機のアスカロンはヴァレン峠へ向け飛び出した。
——奪われた”アルファ”を、群れに取り戻すために。




