第76 話「ピースブリタニカ解放戦線」
ーールーティア基地・通信室。
ミハエルはシェザールに戦闘報告をしている。
「ーー結果、敵隊長機の撃破を確認。以上です。」
シェザールは戦果に満足する。
「うむ。初戦では十分の戦果と言えよう。」
そこへダミアーノ・カルドーネ少将が割って入る。
「シェザール少将、シュヴァルツアドラー隊は対ホワイトファング部隊だ。
隊長機を落としただけで撤退とは如何なものか?」
シェザールは落ち着いて答える。
「追い詰められた兵ほど危険だ。
隊長機を失った後の彼らの戦闘力は、爆発した。
事実、貴官の掃討部隊は相当な被害を受けたではないか。」
カルドーネは反論する。
「だからこそ、シュヴァルツアドラー隊は掃討戦に参加すべきだったではないか!
ホワイトファング殲滅のまたとないチャンスだったのだぞ!」
「逆だよ、少将。
彼らは個でもスペシャルだ。殲滅するには戦力が不足していた。
だからこそミハエルは隊長機を討って、敵の士気を喪失させるだけで良かった。
予定通り侵攻部隊を掃討していた方が損害も少なく、敵に大ダメージを与えていただろう。」
シェザールの的確な分析に、カルドーネは反論できず話題を変える。
「であれば、次の作戦にもホワイトファングの残りは出てくるはずだ。
その時、シュヴァルツアドラー隊は活躍いただけるのだな。」
ミハエルは首を振る。
「閣下のご期待には沿えません。
次回作戦は侵攻作戦でしょう。
我が隊は特務権限を以って、作戦不参加とさせて頂きます。」
シェザールはミハエルの見事な対応に笑う。
「すまんな、少将。
ミハエルにはそれだけ権限が認可されている。」
二人の舐めた態度にカルドーネは怒りを爆発させる。
「もういい!結構だ。貴官の好きにしたらいい!」
怒りを放って、カルドーネは一人愚痴をこぼしながら去る。
「…全く、なぜあの方は奴らにあんな自由を与えたんだ……」
シェザールは笑いが止まらない。
「ふふ。カルドーネめ。
これで侵攻作戦は慎重にならざるを得なくなったろう。」
ミハエルも頷く。
「多大な損害を出しましたが、これで両者の侵攻に楔を打つ事は出来たでしょう。
それにしても……先ほどカルドーネ少将が去り際に”あの方”なる事を口にしていましたが。」
シェザールは俯き考え込む。
「”あの方”……主戦派のバックに何者かが居るとは思っていたが。
君の隊にも関わっているのであれば、君も慎重に行動せねばなるまいな。」
ミハエルは頷く。
「先ずは少将のお望み通り、ヴァルター閣下の元に戻ります。」
頷くシェザールに、ミハエルは敬礼しながら通信を切った。
(後は、キース・ウォレンの行方か……)
ーーケアン基地・司令部。
ジェイソン・モリス少将は本国の陸軍参謀総長セオドア・H・ブリングストン大将と通信していた。
「君の采配をもってして侵攻に失敗したか……」
モリスは一言だけ添える。
「ホワイトファングの戦力に頼り過ぎた事が最大敗因です。」
ブリングストンは背を持たれかける。
「今回は対ホワイトファング部隊の存在だったろう。
君はノースブリッジ解放・復旧に十分成果をあげている。
引き続き、指揮を任せたい。」
ブリングストンの恩赦に対して、モリスは敬礼をする。
が、彼は自身の進退より気にかかる事がある。
「それで、キース・ウォレン大尉ですが……
PLFからアプローチはありませんか?」
ブリングストンは首を振る。
「一切無い。
いつもなら身代金要求が即座に来るはずなのにな…」
モリスは表情を暗くさせる。
モリスを伺いながら、ブリングストンは次の事を考えている。
「失った戦力の増強は直ぐに送る。
今は国境線防衛に全力を注いでくれ。」
モリスは瞳を熱くさせる。
「閣下、キース・ウォレン大尉の事、何卒宜しくお願い致します。
ホワイトファングは確かに強い…しかし、その真価はウォレン大尉の指揮下にあってこそ発揮されます。」
ブリングストンはモリスの熱意に少し驚く。
「随分熱いな。君らしくもない。
だが、確かにこれまでの戦績からもウォレン大尉の重要性は分かる。
私からも参謀本部、政府方面へも働きかけよう。」
モリスは強く敬礼をし、通信を切った。
(PLFは一度として殺しはしていない。
…しかし、いつもと違うのは気がかりだ。
無事でてくれよ。キース・ウォレン…)
ーー渦中のPLFアジト。
そこはピースブリタニカ島のどこか。
しかし、両軍ともその所在の片鱗も見えていない。
構成員、規模、資金源、拠点……あらゆる情報が不明である。
PLF(Peace Britannika Liberation Front)ーーピースブリタニカ解放戦線と名乗っている。
ただ分かっている事は、行動原理だけ。
両軍問わずの将校を拉致ーー身代金を要求。
要求に応じれば、即座に解放される。
応じない場合は別将校を拉致し、更に身代金額をつり上げる。
戦後半年頃より彼らの活動は活発化。
コロンゴ、エウロパは、共に苦しめられている。
解放された将校は、退役か配置転換を望むからだ。
また、PLFについて情報を一切口にしないのだ。
キースは今、そんな彼らに拘束されている。
椅子に縛られてはいるが、拘束はそれだけだ。
手首の拘束も、血が止まらぬよう布が挟まれている。
部屋は薄暗く、空気も薄い。ーー地下室だろうか?
しかし、よくある監禁部屋のような不衛生さもなく、部屋は清潔だ。
見渡す景色に思想的なオブジェクトは無い。
普通の生活に必要な設備が一式揃っていてる。
机を挟んで迎えに椅子。それすら粗末な物ではなく、手入れが行き届いている。
卓上には水差しと温かいスープが置かれていた。
——まるで来客を迎える部屋のように。
(ここは監禁部屋って言うより……まるで客間だな。)
目の前の扉が開く。
一人の男が入ってくる。
「お目覚めの様ですね。」
男の声は威圧感は全くなく、客人に対してかける声質だった。
「ここは…どこだ?」
キースは当然のように質問する。
しかし、男はゆっくり首を振る。
「少しお待ちください。」
そう言うと男は再び、扉を開き去って行く。
階段をかける音が僅かに聞こえた。
(…地下だな。
それにしても、この対応…なんだ?)
キースは拉致の瞬間を思い出す。
(確か……俺は脱出して…
目の前にトラックが来たと思ったら…
麻袋を被されて………
………ダメだ。そっから思い出せない。
気づいたら、この状況。
拉致なんだろうけど……拘束さえ無かったら、お客さんだな。)
その時だった。
再び扉が開いた。
そして、三人の男が入ってきた。
「拘束を解いてやれ。彼は大丈夫だ。」
中央の男の指示で、キースの拘束は解かれた。
腕をさすりながらキースは問う。
「アンタら、PLFだな。」
中央の男が頷き、椅子に腰を下ろす。
「あぁ、我々はPLF--ピースブリタニカ解放戦線だ。」
キースは怪訝な顔で悪態をつく。
「戦争のどさくさに紛れて誘拐。
まるで、火事場泥棒みたいな汚い事やってんだろ。
ピースブリタニカ解放戦線なんて、御大層な名前だな。」
中央の男は苦笑する。
「軍ではそう教えられてるようだな。」
キースは続けて罵る。
「解放されたみんなは、何も言わずに居なくる。
どれだけトラウマ与えてやがんだ。
それで、こっから拷問の始まりか?」
キースの余りの罵倒に脇の男が怒る。
「言わせておけば!」
中央の男が制する。
「まぁ、我々の存在と活動から、彼らがそう考えるのは仕方ない。」
ーーひと時、キースが落ち着くのを待つ。
中央の男が話し始める。
「先ず、我々は君に危害を加えるつもりはない。」
キースはまだ彼らを信用していない。
「どうだか。」
中央の男はいつも通りの様に笑顔で対応する。
「まぁ信じてもらわなくてもいい。
信じさせるつもりもない。」
そして、中央の男はキースに真剣な眼差しで見つめ始める。
「だが、君には是非、我々の話を聞いて欲しいんだ。
そして、君自身で答えを導き出して欲しい。」
(真剣だ。)
キースは男の表情を見て確信した。
そして偏見の態度を改めて、正面を向き男の言葉に耳を傾ける。
PLF--ピースブリタニカ解放戦線。
彼らの存在、目的…真実が明らかにされようとしている。




