第73話「”Ace of ACEs”激突」
ーーピースブリタニカ島・北海沿岸。
マルティンがミハエルに話しかける。
「ベルントの勘…大当たりでしたね。」
ミハエルも静かに頷く。
「あぁ…座標も完璧だ。
あと一歩遅れていたら手遅れだったな。」
「「これがホワイトファング…」」
いつもは余裕を崩さないワーグナーツインズの声が、わずかに強張る。
ロメロが二人の機体を横目に見て言った。
「我々の標的だ。」
ギデオンが敵の九機を見渡す。
「三小隊とも個性が立ってる。だがバランスもいい……厄介だ。」
レティシアが腕を鳴らす。
「さぁて、あの時の借り…返させてもらうよ!」
エミールの声は静かに燃えている。
「今日という日のために鍛えてきたんだ。仕留める!」
一方、ホワイトファングは予期せぬ会敵に動揺する。
「今の声……ミハエル・ファフナーだよな?」
レイが身を固めて確認する。
「……うん。間違いない。」
ミリィが真顔で返す。
「でも、九機もいますよ!」
冷静なサイラスが珍しく声を荒げる。
「いよいよ、本気で俺らを潰す気って事か。」
ビルは拳同士をぶつけながら戦闘態勢を取る。
「ミハエル・ファフナー…敵のAce of ACEs…」
ユアンは唾を飲みこむ。
「こ、怖いんですか?」
「わ、私らは怖くなんかありませんよ。」
ケビンとマリアは、声を震わせながらも強気に見せる。
ホワイトファングが動揺する中、キースだけは冷静だった。
「モリス将軍、こちらホワイトファング。
上陸直後に会敵しました。
敵はーーミハエル・ファフナーの中隊です。」
通信を聞きジェイソン・モリス少将はひどく動揺する。
『ミハエル・ファフナーの……中隊?!』
キースは続ける。
「シュヴァルツアドラー隊…だそうです。
出撃タイミングが良すぎる。
おそらく俺たちのカウンター部隊でしょう。」
しばらく沈黙の後、モリスは一声言う。
『……勝てるか?』
キースは一決意と覚悟を込めて答える。
「勝ちます。
ここまで繋いでくれたバトンーー俺たちが最後まで繋ぎます!」
その声に、モリスの迷いは消えた。
『分かった!
シュヴァルツアドラー隊を撃退まで、下山を中止する。
ミハエル・ファフナーを討って、この作戦を成功させるんだ。
検討を祈る!!』
キースはホワイトファング隊に通信を切り替える。
「みんな。時間がない。
確かに相手はミハエル・ファフナーだ。
だが、恐れるな!勝つことをイメージするんだ!
俺たちならやれる!」
キースの檄に、動揺していた一同は気合を入れなおす。
「「了解!!」」
白い牙が、黒い猛禽へ突撃する。
対するミハエルは冷静に語る。
「みな、焦る必要はない。
敵の解析は万全だ。
隊長機の小隊は私で相手する。
マルティンは右を。ロメロに左を任せる。
勢いづいた狼の牙を折ってやれ!!」
海岸線が緩く波打つ中、壮烈なACE戦の幕が上がる。
ーールーティア基地・司令部。
ダミアーノ・カルドーネ少将は、腰を抜かしていた。
「本当にホワイトファングが上陸して来た…
しかも、ファフナーの奴。完璧に対応して…
何で?…何が?…」
心配になった参謀が駆け寄る。
「閣下、大丈夫ですか?」
ダミアーノ・カルドーネーー彼は緻密な計算により戦場を操るタイプの軍人である。
この状況は彼の想像を脱していた為、思考が停止してしまったのだ
だが、知将はしばらく後、冷静さを取り戻す。
「ともかくだ。
敵本命のホワイトファングは現れた。
そして、ファフナー少佐が防いでくれている。
我々の成すべきは、前方の戦場から敵を排除する事にある。
仕上げだ。プランCに移行。こちらから攻めるぞ。」
プランCは砲兵による援護の元、地上部隊で逆に攻めに転じる計略である。
再び制空権が宙に浮いた今――
数で劣るコロンゴ軍は防戦一方へ追い込まれる。
ーーコロンゴ軍・臨時司令部。
(最悪だ……)
モリスの顔が白くなる。
(敵が攻めに転じるとは。
だが、ホワイトファングの援護があれば、逆に敵は挟撃で総崩れ。
しかし…ホワイトファングに万一の事があれば…
……いや、信じるんだホワイトファングを!)
ーーコロンゴ軍第七艦隊・旗艦サーエヴァンス・艦橋。
ジャスティン・ネルソン中将もまた苦悩していた。
「対ホワイトファング部隊……
作戦では彼らを送り届けるまでだったが…
彼らに万一の事があっては……」
思案を巡らすネルソンに、通信士が悲鳴をあげる。
「敵艦隊、艦砲射撃によりハニンガムを集中攻撃しています!
加えて、グリフォン編隊も接近中!」
ネルソンはミドガルズオルム戦を思い出す。
(あの戦果は彼らだからこそだ……
彼らが負ける?…
ジャスティン・ネルソン!何を弱気に考える!)
奮い立ったネルソンはハッキリと伝える。
「第七艦隊は作戦を終了とする。
ただし戦闘態勢維持。
ハニンガムを防衛を最優先とせよ!」
二人の指揮官にできることは――信じることだけだった。
ーーピースブリタニカ島・北海沿岸。
白と黒の戦いは激しさを増す。
ユアンが叫ぶ。
「あの二機の連携は異常です。
二機の誘いに乗らずに、内一機だけに集中して挑みましょう!」
ビルは戦いながらぐちる。
「とは言え、こいつら…二機で一機みたな動きしやがるんだよ!」
サイラスも頷きながら視線はミサイルに向かっている。
「おまけに…このミサイル!オートじゃない!
マニュアルエイムしてる!しかもこの数を!」
一方、ワーグナーツインズもまた、苦い表情を続けている。
「…私たちのツインアタックが全く通用しないなんて!」
「エレナ!少しタイミングをずらしましょう!」
「けれど、セレナ!それではロメロ様に接近を許してしまいますわ!」
ロメロも額に汗をかいている。
「コレだけのマニュアルエイムとツインズの攻撃を全ていなすのか。
さすがだよ、ホワイトファング!」
ベルントは動いていない。と言うより動けない。
「ドローンで動きを止めてもなぁ……コイツ硬すぎんだよ!」
レイが何発も同じ場所を撃ち込んでいるはずなのに、全くキズを追わないベルント。
「ていっ!せやぁ!」
一方ミリィはマルティンと対峙していた。
「相変わらず良い太刀筋だな。いや進化してるか。
だが、俺の機体はそれに合わせてチューンしてるんだ。
当たらなければどーって事ないんだよ!」
マルティン機は中隊中最軽量である。彼は避け専門とも言えるガルムだ。
だが、そんな素早い剣撃をミリィは確実に受け流す。
「っち、しかし動きが読まれてるのか?当てれねー。」
ギデオンが援護に駆け付ける。
「先輩、熱くなりすぎるとやられますよ!…っと!」
そんなギデオンをガトリングの弾幕が阻む。
「Nジャマーの相手を変えないと……でも他のは速すぎる!」
ヘレンは歯を食いしばる。
キースはミハエルをターゲットに挑む。
「勝負だ!ミハエル・ファフナー!」
「…っく、やる!だが、私とて伊達に数々のテストパイロットを努めてきた訳では無い!」
激しい銃撃戦ーーしかしこれはお互い誘いである。
レティシアが的確に横やりを突く。
「ミハエル!下がって。」
「ケビン頼む!」
ミハエルの誘いにキースが乗ってしまう。
それをレティシアが突こうとする。
しかし、更にそれをケビンが対応する。
「この槍ぃーーー!エミール!」
レティシアの呼びかけに即座にエミールがケビンを狙う。
が、煙幕を巻かれケビンは命拾いする。
「ナイス!マリア!」
「ったり前でしょ。私には見えてるんだから!」
ミハエルは戦況を冷静に評価する。
「連携は互角か。決め手がないな。」
膠着する戦闘ーー
キースの額に汗がにじむ。
「くそ!このままじゃ……」
通信が乱れる。
『こちら、第一陣越境部隊。敵が目前まで迫っています!』
『アルテミスより本部へ。弾薬が尽きる。帰投許可を!』
『落ち着け!ホワイトファングさえ抜けてくれれば勝利だ。
それまで何としても耐えるんだ。
第二陣も越境を急がせ!』
『潜水艦〈フリント〉圧壊!』
『くそー、敵が勢い付き始めやがった』
『トライデントは潜水艦の護衛に回れ!
ハニンガム、カニンガムはミサイルのシャワーで敵艦隊を追いやれ!』
聞こえてくるの無線は味方の悲鳴。
自分たちが急がなければ被害は拡大する…
(何が味方も敵も被害を最小限にだ……
これじゃ味方は全滅じゃないないか!)
大活躍を続けてきた英雄部隊。
求められるは期待は大きく……
ホワイトファング最大の危機が迫る。




