第72話「繋がれたバトン」
ーー北海。決戦の刻。
ジャスティン・ネルソン中将は、艦隊戦へ誘導する目的で空戦に持ちかける。
「アルテミス、全機発進!」
対するマルセル・ルニエ中将は、待ってましたとばかりに声高らかに号令を飛ばす。
「よーし、決戦だ!
こちらもグリフォン全機出撃!
空戦も制して、第七艦隊を完膚なきまでに叩いてやるぞ!」
空戦が始まり、艦砲とミサイルが飛び交う。
海上は、完全な艦隊戦となった。
ここに来て、天はネルソンに味方する。
アルテミス対グリフォンの空戦では、アルテミスが圧倒したのだ。
トライデント大敗を聞いたアルテミスパイロット達は、巻き返しに気合が入っていた。
一方、グリフォンパイロット達は、海中が優勢なのに甘えて意欲的では無かった。
更に彼らには先のミドガルズオルム戦で、アルテミスに敗退した記憶もある。
この気迫差は、そのまま性能差となって現れていた。
ーーコロンゴ軍旗艦サーエヴァンス・艦橋。
ネルソンは空戦優位の状況に、地上の戦況へ目を向ける余裕が出来た。
「地上では、敵爆撃機に苦戦しているとの報があったな。
アルテミスは敵機をいなせるだけ残して、地上部隊の援護に迎え。」
ーー一方、エウロパ軍旗艦ガロア・艦橋。
空戦不利の状況はルニエを苛立たせる。
「サハギンはどうなってる?
何で一隻も落ちんのだ?」
ファビアン・レド大佐は気まずい顔をしている。
「敵の水雷と散弾魚雷で、思う様に動けない模様です…」
ルニエは持っていたパイプを正面に投げ飛ばす。
「くそがぁーーーーー!」
レドは今にも暴れ出しそうなルニエを抑え、上申する。
「艦隊戦は空戦だけではありません。
それより、敵艦隊の動きを見て下さい。」
レドはデジタル海図でリアルタイムの戦況を映す。
そして、ピースブリタニカ島へ近づいているコロンゴ軍巡洋艦〈ハニンガム〉を指す。
「敵艦隊は半包囲で艦隊戦を演じながら、じわじわ島へ接近しています。
特にハニンガム。
島との距離およそ八百。
このままだと揚陸艇射出距離に達します。」
ルニエはまだ落ち着いていない。が、レドは続ける。
「この海戦は、艦隊戦を装った揚陸作戦だったのです。
まだ、間に合います。ハニンガムの揚陸阻止に集中しましょう。
揚陸を許してしまっては、カルドーネ少将に面目が立ちません。」
ルニエは”カルドーネ”のワードに反応した。
「カルドーネ!!
奴に借りを作るような事は我慢ならん。
よかろう、ライプニッツ、チューリングにハニンガムだけを狙わせろ。
駆逐艦〈オイラー〉〈ノイマン〉はハニンガムに肉薄し、牽制をかけよ。
サハギン隊もハニンガムを目指せ。」
ようやく艦隊司令らしくなったルニエに、レドも一息つく。
ーー地上では、戦況は一変していた。
静かだったカリビア山脈に、爆撃音が各所で響く。
爆撃仕様ヒポグリフによる精密爆撃が繰り広げられていた。
コロンゴ軍越境部隊は成す術なく、爆撃の餌食となる。
既存のアルテミスは山脈上空でのヒポグリフとのドッグファイトで救援に向かえない。
麓からアスカロン・ヘヴィ砲撃隊による、地対空ミサイルで対抗する。
しかし、高機動機のヒポグリフを捉える事は困難であった。
ジェイソン・モリス少将は噛みしめる。
「アスカロン・クライマーに対空防御策はない…
このままでは……越境部隊が全滅する…」
ーーモリスが作戦中止の決断を迫った瞬間。
北からアルテミスの編隊が現れた。
第七艦隊所属の識別だった。
「あれだ!
爆撃機を全部落とすぞ!」
「了解!」
第七艦隊のアルテミスはヒポグリフ爆撃機を捉えると
次々撃墜していく。
「ヒポグリフ爆撃隊、04、06、07…被弾。
敵第七艦隊増援のアルテミスに攻撃されている模様!」
通信士の言葉にダミアーノ・カルドーネ少将が、机を叩く。
「ルニエめ!何をしているんだ!」
ひと呼吸して冷静を取り戻す。
「ヒポグリフ爆撃隊、帰投せよ。
荷重の爆撃機では良い的だ。」
爆撃機が退いてく様子を見てモリスが呟く。
「提督…助かりました。」
しかし、被害は確実に発生している。
越境部隊は、既に当初の半数以下まで数を減らしていた。
(越境を甘く見過ぎていたか…)
ここで、第七艦隊アルテミス編隊から提案が入る。
『このまま上空のグリフォンも追い払いましょう!』
数で劣った残存ヒポグリフ隊は撤退を余儀なくされる。
空の憂いが無くなった。
ここにきて、モリスの戦略柔軟性が光る。
「第一陣へ通達。
山頂より下山を一時中止。」
モリスの指示に、参謀が驚く。
「下りないのですか?」
モリスはニヤリとする。
「彼らには観測者になってもらおう。
第二アルテミス中隊は、一度帰投。
地上部隊に観測装備を届けてくれ。」
また、第七艦隊のアルテミス編隊に礼を交わす。
『ありがとう。貴軍のおかげで命がつながった。
作戦は佳境だ。揚陸するハニンガムの援護に戻ってくれ。』
一方でルニエの失態で計画が崩れ出したカルドーネ。
しかし、瞳にはまだ余裕が伺えた。
「ヒポグリフを再編。
再度出撃させよ。制空権を渡してはならん。」
視線は山頂へ移る。
「状況から察するに、間もなく敵が下山してくる。
地上部隊はいつでも迎撃出来る準備を怠るな。
我が軍は越境さえ許さなければ勝利なのだ。」
ーーコロンゴ軍越境部隊がついに山頂にたどり着く。
越境部隊第一陣が山頂から顔を覗かせる。
エウロパ軍迎撃部隊は、即座に対応しミサイル・狙撃など遠距離攻撃で迎撃する。
しかし、肝心の的は直ぐに頭を引っ込めた。
いずれの攻撃もむなしく山頂を削るだけだった。
逆に、その直後エウロパ軍地上部隊に的確にミサイル、ロケット弾が降り注いだ。
「ミサイル!!」
「どういう事だ!?攻撃側はこちらのはずだ!」
「地上迎撃部隊、精密砲撃を受けています!」
通信士の慌てた報告に、カルドーネは察知した。
「奴らめ!山頂からこちらの布陣を観測しているな。
迎撃部隊は適宜、移動をしつつ攻撃を行え。
これも想定済みだ。」
(確かに下山前に迎撃部隊を削るのは上策だ。
が、その程度で致命傷にはならんぞ。
制空権も再び取り合いになろう…
このまま膠着状態なら我が軍の勝利だ…)
カルドーネは勝利を予感しながらも、敵将モリスの行動に疑問を持つ。
ーー舞台は、再び北海に戻る。
第七艦隊はいよいよハニンガムが揚陸射程まで迫っていた。
「よし、艦隊最終体形を取る!」
ネルソンの指示で艦隊はハニンガム護衛するように、ハニンガムの周囲に展開した。
「おいおいおい!
これではハニンガムを止められんじゃないか!」
遅れを取ったルニエはレドの襟を掴んで揺さぶる。
「や、やむを得ません。
オイラー、ノイマンによる強行突入しかありません。」
しかし、それすら不可能だった。
カリビア山脈援護から戻ってきたアルテミス編隊が、両駆逐艦へ攻撃をかけたのだ。
「オイラー大破!、ノイマン航行不能!」
二隻の沈黙にルニエの慌て様は絶頂を極める。
「サハギンはどうした?サハギンでハニンガム、いや揚陸艇を潰せ!」
しかし、深海と違い浅瀬では得意の近接戦が活かせず、海中戦はトライデントで十分抑える事ができた。
「さっきは、よくもやってくれたな!」
「この距離なら運動性が高いこっちのモンだ!」
雪辱に燃えるパイロットの士気により、トライデントは更に鋭さを増し、今度はサハギンを圧倒する。
「くそ!、これではハニンガムに近づけん!」
「さっきとは動きがまるで違うじゃないか!」
状況(士気)で性能差がひっくり返る。ACE戦の醍醐味である。
ーーそして、バトンはホワイトファングに渡される。
「よーし、揚陸艇一番から三番…射出!」
スコット・ミラーが大きな声で号令をかけた。
三隻の揚陸艇が一気に海岸に向かう。
「いよいよだ…みんな準備はいいか?」
「「了解!!」」
キースの気合が入った一言に、皆も同じくらいの気迫で返す。
『い、いいか!き、貴様らが今作戦の全てなんだ!
絶対にし、失敗しゅるな!』
船酔いでよろよろのボンドが何としてもと号令をかける。
「ったく、そこまでして目立ちたがりたいのかね。」
レイが呆れて、皆も苦笑する。
キースは笑うが、すぐ真剣な表情を取り戻す。
「ネルソン提督、モリス将軍を初め皆が繋いでくれたバトンだ。
俺たちで最後を決めるぞ!」
「「おう!」」
皆、機内ではち切れんばかりの声を張り上げ気合を入れる。
ーーそしてホワイトファングが上陸する。
『こちら、ホワイトファング。上陸成功。これより作戦行動に入る!』
機体を直ぐに戦闘モードへ切り替え、駆けだすホワイトファング。
ーーしかし。
横合いから弾丸が飛来する。
それは、かつてミハエル・ファフナーと初めて対峙した時のデジャブの様であった。
《来たな、ホワイトファング。
ここから先へは行かせん!!》
響き渡す外部音声ーー強く記憶に残っているあの声。
そして、九機の漆黒のACEがその姿を現す。
《我らはシュヴァルツ・アドラー隊!
ホワイトファングの諸君――しばしお相手願おう!》
白と黒の九機同士のACEが相対する。
そして――”Ace of ACEs”が激突する。




