第68話「越境する者、阻む者」
ーーカリビア山脈・コロンゴ側麓。
カリビア山脈攻略軍、三個大隊が越境に向けて編成を急ぐ。
上空ではEWACアルテミスが国境線ギリギリを旋回していた。
砲兵部隊のさらに後方に臨時司令部を設置し、モリスは越境開始を命じる。
「よし……第一陣、越境開始!
アルテミスは敵の動向を随時司令部へ報告せよ!」
ーー一方、ルーティア基地。
カリビア山脈麓に展開したコロンゴ軍の動きは、すでにカルドーネに察知されていた。
通信士が報告する。
「敵軍勢、およそ三個大隊。詳細は不明。
山脈上空に偵察型ACEを確認。」
カルドーネは薄く笑い、基地内放送のマイクを掴む。
『ルーティア基地の誇り高きエウロパ精鋭諸君!
ついに破壊者コロンゴの軍勢が、我らの地へ侵攻を開始した!
諸君らは、これを許すのか!?』
「「「「Noooooo!!」」」」
基地中に雄叫びが響き渡る。
カルドーネは満足げに続けた。
『我々は幾度となくシミュレーションを重ね、敵の行動などお見通しだ。
そして私は諸君らの訓練を見てきた。
諸君らは誇りあるエウロパの精鋭だ。私は諸君らを信じる!
だから諸君らも私を信じ、ついて来てほしい!』
「「「「カルドーネ閣下万歳!!」」」」
基地内はカルドーネコールで包まれる。
放送を終え、カルドーネは小さく嗤う。
(ふふふ…一部のサクラで簡単に扇動出来る。
統率の取れた軍人は、大衆より操りやすい。)
「さて、これで士気は万全。
あとは、敵を経過観察しながら対応するとしよう。」
そして、すぐさま指示を飛ばす。
「EWACグリフォン発進。ヒポグリフ攻撃隊を随伴させよ。
先ずは空戦だ。
続いて、地上部隊をプランAで展開しておけ。」
参謀が素早いカルドーネの対応に順応する。
「は!全軍プランAにて展開せよ!」
ヒポグリフの護衛を伴ったEWACグリフォン編隊がカリビア山脈に向かう。
地上部隊もプランAなる指示の元で、乱れる事なく展開を進める。
皮肉にもルーティア駐留軍は、元司令官フェルナンド・リベイロによって強靭な軍隊に練兵されていた。
狡猾なカルドーネはそれを自国防衛の意思を以って、操っているのである。
ーーカリビア山脈上空。
双方のEWAC部隊が互いを捕捉する。
『こちらスカイアイ01。
敵偵察機を確認。護衛の攻撃機もだ。』
偵察機の通信を受け、モリスが指示を出す。
「了解。攻撃を許可する。
各機、EWAC機を護衛しつつ敵偵察機を最優先で叩け!」
同時にエウロパ側にも命令が走る。
『敵偵察機を一機も逃すな!
敵に我々の動向を探らせるな!』
飛び交うミサイル。
放たれるフレアが空を覆う。
そして熾烈なドッグファイト。
カリビア山脈を見下ろす”目”を賭けた空の激戦始まった。
コロンゴ、エウロパ関係なく、次々と機体が炎を引いて墜ちていく。
しかし、カルドーネの激励の元、士気が上がっているエウロパ軍が僅かに優勢だった。
自国防衛の強い念が籠ったパイロットにACEも反応し、アルテミスを追い込む。
「スカイホーク01ロスト!隊長っっ!!」
「今だ!レドーム付きを落とせ!」
「スカイアイ02被弾!メーデー、メーデー!!」
「敵偵察機一機撃墜!」
モリスは悔しさを噛みしめながら、状況を確認する。
「第一陣の位置は?」
通信士はモニターを見つめながら報告する。
「現在三号目です。行軍は順調です。」
一方、カルドーネは空戦優位の状況から山脈の状況を知る。
「生真面目に越境する訳か。
展開は終わっているな。」
参謀がモニターに映る整然とした部隊展開を見て、言う。
「シミュレーション通り、完璧です。」
展開状況にカルドーネも頬を緩める。
「よろしい。よく練兵されている。
では、砲兵部隊を展開。山頂に向かって砲撃開始。
雪崩で侵略者どもを押し払え。」
麓に展開していたオーガ砲撃部隊が一斉にミサイルを発射。
山頂に向けて放たれたミサイルが爆発する。
その衝撃は山を震わせ、一気に巨大な雪崩を呼び寄せた。
雪崩はコロンゴ越境部隊に迫る。
「雪崩だ!」
「全機、アンカー射出!対雪フード展開!」
大隊長機の号令で、アスカロン・クライマーは全機が同じ行動をする。
腰から長く太いアンカーを展開し、山肌に突き刺す。
背部から対雪崩用の強化プレートが展開される。
アンカーで機体を固定し、装甲で雪流を受け流す構造だ。
「うおぉぉ!こいつは来るぞぉ!」
「耐えられるのか?!」
「落ち着け、恐怖や焦りはACEを弱くする!」
「そうだ!踏みとどまる事だけ想像するんだ!」
雪崩第一陣が過ぎ去っていく。
通信士はモニターを確認し、モリスに伝える。
「全機無事です!やりました!
…しかし、雪崩で行軍に遅れが…現在四号目付近です。」
モリスは難しい顔で頷く。
「想定はしていたが…やはり厳しいな。
だが、時間との勝負。第一陣には可能な限り急がせよ。
続いて、第二陣も越境開始。
砲兵部隊、山脈向こうの麓を狙って、ロケット弾による面攻撃を敢行せよ。」
第二陣は第一陣の雄姿を見ながら越境を始める。
同時に、アスカロン・ヘヴィガンナー部隊がロケット弾をエウロパ側麓に向かって放つ。
ロケット弾は見えない麓の敵を捉え切れないが、多数のオーガは炎に包まれた。
「っち、無差別に砲撃か。美しくないな。
偵察機からの情報は?」
やや思い通りに事が捗らない状況に、カルドーネは苛立ちを隠せない。
「…残念ながら、偵察機は全機撃墜されました…」
互いに偵察機を優先して攻撃していた為、偵察機は早々に双方全滅していた。
結果、互いに山脈を境に見えない敵と対峙する事になる。
しかし、カルドーネは落ち着いて砲兵に命令を変更する。
「ならば、オーガ砲撃隊は二百メートル後退。
砲撃を続行せよ。
どうせ相手はこちらが見えない。
安全圏で雪崩を起こし続ければ良い。」
カルドーネの読みは的中する。
波状攻撃のように襲う雪崩はアスカロン・クライマーですら凌ぎきる事は出来なかった。
「ぐぁぁぁ!もうダメだぁ!」
「チャーリー0103、信号途絶!」
「アンカーを深く刺せ!くっそー!」
「プレートが剥がれた!!雪が!!」
更に悪い事に、連続雪崩はいつ起こるか分からない。
それは、越境部隊の進軍を進めるタイミングを乱す。
「隊長!いつアンカーを解放すればいいんですか?!」
「待て、次の雪崩に備えるんだ。」
「しかし、このまま待っていては進軍スピードが…」
越境部隊の混乱を聞きながら、モリスは冷静に指示を出す。
「雪崩とて有限だ。越境部隊はしばらく待機させろ。
砲兵は目標を麓より二百メートルから四百メートルに変更。
ロケット弾を浴びさせ続けるんだ。」
アスカロン・ヘヴィの砲撃は、的確にオーガ砲撃隊を捉えた。
「第三中隊全滅!」
「コロンゴめ!闇雲に撃ってるくせに…」
「砲兵の被害状況は?!」
カルドーネは苛立ちを一段高め、怒鳴り気味に問う。
「…現在、残存部隊五十パーセントです。」
通信士の心許ない返答に、カルドーネは机を叩く。
「くそ!これでは越境を許してしまうではないか。
…やむを得ん。プランBへ移行する。
砲兵は全軍一時撤退。
代わりに地上迎撃部隊を展開。
ヒポグリフ編隊は敵ACEをあしらえる程度を留め、残りは帰投させよ。」
エウロパ軍はプランBの元、作戦変更へ転換する。
一方、コロンゴ越境部隊もまた甚大な被害を受けていた。
「第一陣、残存十二。第二陣、残存二十です……」
モリスは唇を噛んだ。
「第一陣は半数以下か…ここまで越境が過酷だとは…
だが、越えさえすればこちらのものだ。
視線を山脈へ向ける。
「……あとは、時間との勝負だ。」
遥か天を突くカリビア山脈。
越境は容易ではない。
そして、それを阻む者がいれば尚更だった。
激化する戦場は、さらなる変化の兆しを孕んでいた。




