第65話「オセリスと言う男」
ーーケアン基地。
リュウの賭けから翌日。
基地内には、リュウの謎の死という情報が駆け巡っていた。
キース達も慌てて、メディカルセンターへ駆けつける。
「リュウが死んだって、ホントなのかよ?」
レイが走りながら聞く。
「ええ、昨夜の内に突然だって…」
ミリィも走りながら表情は暗い。
(リュウ…一体何があったんだ?)
キースは胸騒ぎを押さえ込みながら、足を速めた。
ーーケアン基地・メディカルセンター。
リュウの遺体を前に、オセリスは医師を問い詰めていた。
「つまり、急性心筋梗塞…毒などの反応は無い、と?」
医師は正確に伝える。
「はい、検視の結果、死亡推定時刻は本日01:00から03:00。
毒性反応は一切検出されず…急性心筋梗塞と推察されます。」
リュウの遺体には外傷一つなく、まるで眠っているかのようだった。
「リュウ…どうして…」
キースは膝から崩れ落ちる。
ミリィとヘレンは小さくすすり泣く。
レイは現実を拒むように言った。
「嘘だろ?何かの冗談だろ。ジョークのセンスなさすぎだろ、リュウ。」
サイラスが止める。
「やめてください。死者に対して失礼ですよ。」
だが、ビルが食ってかかる。
「だってよ! 昨日までピンピンしてたんだぞ! おかしいだろ!」
ユアンは静かに言った。
「でも……急性心筋梗塞なら……いつ起きても不思議じゃありません……」
一通り確認を終え、オセリスは無言で部屋を出る。
キースはそれに気付き、急いで後を追う。
ーーケアン基地・通信室。
オセリスは昨日のリュウのログを確認する。
キースと話していた時間、一切ログが書き変えられていた。
(……リュウが自分で消したんだな。)
キースは、リュウが自ら行っただろう事は予想がついた。
以後の記録は自室で一人となっていた。
オセリスは踵を返し、リュウの部屋へ急いだ。
ーーケアン基地・リュウの自室。
調査された部屋は整然としていた。
それでもオセリスは、何かに取り憑かれたように探し続けた。
「大佐、もう衛兵が調査を終えています。」
キースの声に、オセリスが叫ぶ。
「うるさい!」
いつもの感情を殺したオセリスとは正反対の、感情を剥き出しにした叫びがキースを驚かせた。
ひとしきり調査を終えると、オセリスはその場に膝をついた。
サングラスの奥から、静かに涙が零れ落ちる。
「……リュウ……くっ……」
喉を潰したような呻き声。
常に冷静沈着なはずのオセリスが、肩を震わせて泣いている。
キースは異常な光景に戦慄すら覚えた。
ーー
調査結果から事件性も無い為、午後には基地は運営を取り戻した。
ーーケアン基地・滑走路。
予定通り、オセリスはピースブリタニカ島を発つ。
ジェイソン・モリス少将がオセリスを握手を交わす。
「出発前にあんな事があったが…
よく今まで任務を全うしてくれた。基地を代表して礼を言う。」
「少将、これからが本番です。
ホワイトファングをうまく活用してください。
彼らこそ、我が軍の要となるでしょう。」
オセリスの言葉に、モリスも強く頷く。
オセリスはホワイトファングの前に立ち、最後の言葉を残す。
「お前たちは自分の信じる道を進め。それがどんな道でも…だ。」
全員が深く敬礼する。
オセリスはキースを呼び、小声で言った。
「リュウから預かっているモノはないか?」
キースは一瞬、言葉に詰まる。
「もし、それがお前に託されたのなら……お前が最後の希望だ。」
キースは驚いてオセリスを見るが、オセリスはそのまま去って行った。
オセリスは島を去った。しかしキースの胸には重い疑問が残った。
(大佐は何が言いたかったんだ?…)
ーーケアン基地・キースの自室。
キースはレイを呼び出していた。
レイはいつも通りに面倒な顔で言う。
「わざわざ呼ぶなんて何だよ。怖い動画でも見るのか?」
「冗談言ってる場合じゃないんだ。」
キースの真剣な表情に、レイもシリアスモードに切り替える。
「何があった?」
キースはリュウから預かったチップを見せる。
「これは昨日リュウから預かった。
自分に何かあったらコレを開いてくれって…」
レイは黙って唾を飲む。
「どんな中身か分からない…正直怖い。
こういう時頼りになるのはお前だからさ。一緒に見てくれ。」
レイは無言で頷いた。
オフラインにした端末でチップを開く。
一瞬の静寂の後、画面に膨大なデータが展開された。
リュウ本人の経歴…
極秘通信ログ…
暗号解析の過程…
無音の室内で、二人は画面を凝視する。
レイがリュウの経歴を見て呟く。
「リュウって…ディパンの人間だったのか…」
キースは静かに頷きながら話す。
「あぁ。俺だけに明かしてくれた。
ココに書いてある通り、この戦争で度々飛び交っていた謎の暗号があってな。」
「…キラル文字…って事でクリリアの影にたどり着いた訳か…」
レイが続けた。
「お前、随分冷静だな。俺は教えてもらった時驚いたぞ。」
「この戦争に引っかかるモンがあったのは感じてた。
それが、まークリリアだったって事だけだな。」
キースはレイのこう言う”ここぞと言う時の冷静さ”を、改めて頼もしく感じた。
二人はデータを読み進める。
「エウロパにも協力者が居るんだな。」
「詳細を伏せているのは、彼ら自身を危険に晒す訳にはいかないからだろうな。」
「んじゃ、俺たちも情報も、そのエウロパの協力者には伏せながら提供されてるって事か。
少し気味が悪いが、まーしゃーねーか。」
キースは、エウロパにも同じ志を持った者がいる事に希望を持つ。
一方レイは冷静に状況を判断する。
「そうだな。直ぐにでも協力したい所だが、表立ってはリュウの様に…」
「消される…か。リュウは本当に殺されたのか?」
キースの一言に、レイは改めてリュウの死因を問う。
「実は昨日の夜、リュウと俺の二人だけで会っていたんだ。」
「なぬ?!じゃあリュウの行動ログがおかしいじゃんか。」
キースの告白に、冷静だったレイは驚く。
驚くレイにキースは確信して言う。
「そこだ。そのログはリュウ自身が消したんだと思う。
その時、リュウは俺に賭けに出るって言ってたんだ。
それも賭けの対象は自分の命だって…」
キースの確信に、レイも納得する。
「なるほどな。それで賭けの相手にリュウは殺されたって訳か…」
そして、最終ページで驚愕の事実を目の当たりにする。
「オセリス大佐がクリリア人!?」
レイが驚きのあまり声を上げる。
「声がでかい。
盗聴されていない事は確認しているが、どこで漏れるか分かんないからな。」
キースに怒られるレイだが、信じがたい事実に反論する。
「でもよぉ。大佐がクリリアのスパイって…」
沈黙が二人を包む。
レイが口を開く。
「…リュウは大佐に協力を求めて交渉したが…交渉は決裂。
…それで大佐がリュウを殺したって事なのか…」
キースは、どうしてもそれが信じられない。
「いや、やっぱりそれは考えられない。
大佐は確かにクリリアのスパイで、リュウは協力を求めた。
それは多分事実だろう。
だが、リュウを殺した犯人が大佐…は無いな。」
根拠を求める表情のレイに、キースが答える。
「今日最後に、大佐は俺に”リュウからチップを貰っていたなら、俺が最後の希望だ”なんて言ったんだよ。」
キースの一言にレイが考え込む。
「”最後の希望”?どう言う事だ?」
キースは俯き考え込むように言う。
「分からない。だが、リュウを殺した人間がそんな事言うとも思えない。」
レイもその点は合点する。
「確かにな…
するってーと、大佐自身もクリリアの影に脅されてるって事なのか?」
キースもはハッとする。
「そうか。リュウとの交渉は大佐も応じたかったが、出来ない理由があった。
そして、危険な存在と認識されたリュウは殺され、大佐はあんなに動揺していたんだ。」
レイは冷静に戻り、オセリスの立場を考える。
「となると、大佐はもう自分から行動は出来ないだろうな。
だから、お前が最後の希望だって言った訳か。」
キースは頷くが、不安気に訴える。
「でも、今の俺に何が出来るんだ?
この事を他の皆にも言うべきか?」
レイは首を振る。
「いや、皆には黙っておいた方が良いだろう。
混乱して、これからの戦いに響いちまうだろ。」
キースは頷く。
「そうだな。モリス将軍は多分これからエウロパ領侵攻に出るだろう。
今、俺たちに出来る事は、この侵攻を最小被害で抑えながら進めるしかない…か。」
二人は戦争の真相に近づく。
しかし、軍人である以上命令に従うのみ。
もどかしさを感じながら、ホワイトファングは次の作戦を待つ…




