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既視感あるくない?  作者: むぅむぅ星人


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第64話「リュウの賭け」

ーーケアン基地・外れの森。


森は夜空に覆われ暗い中、虫の音だけが静かに流れていた。


キースは一人、待っていたリュウの元に現れた。

「待たせたか。」

リュウは首を振る。

「いいえ。こちらこそこんな所まで、すみませんでした。」


キースは少し真剣な面持ちで問う。

「こんな所に呼んだって事は…ただ事じゃないんだよな。」

リュウも真面目に答える。

「はい。私はこれから賭けに出ます。」

リュウから聞きそうもないワードが飛び出してきて、キースは驚く。

「賭けって…お前らしくないな。」

リュウは少し笑顔で言う。しかし徐々にその顔には神妙さが露になる。

「っふ。まぁ例えですよ。

 しかし、賭けの対象は私の命に関わります。」

キースが黙って唾のを飲む中、リュウは続ける。

「一つの交渉を行うんです。この戦争を覆せるかも知れない、ね。」

「それは一体どんな事なんだ?」

思わずキースが問うが、リュウははぐらかす。

「それは、今は貴方が知るべきではない。

 それより、例のチップは持っていますか?」

キースは即座にチップを見せる。

「あぁ。大事に預かってる。」


リュウはキースの目を見て、新たなチップを渡す。

闇夜でありながら、その瞳には強い決意が伺えた。

「では、このチップと交換です。

 このチップには、私の最新の調査データが保存されています。

 キース……私に何かあった時ーーそれを開いてください。」

キースはリュウのこれまでにない真剣な眼差しに、不安になる。

「その交渉…俺には何か出来ないのか?」

リュウはゆっくりと首を振る。

「いいえ。私は諜報員。常に死の危険を覚悟で活動しています。

 それに、キース。

 私に万一の事があれば、貴方に私の意思を引き継いで欲しい。

 無理を承知でお願いします。これはコロンゴ…いえ世界の平和の為なのです。」

リュウの瞳の奥から全てを悟ったキースは、それ以上言う事は無かった。

「…分かった。リュウ、検討を祈る。」

キースの覚悟を確認し、リュウも少し笑顔になる。

「やはり貴方を選んだ事、間違ってなかったようですね。」


分かれるリュウの姿は決意めいたモノがあった。

しかし、その決意の裏でキースは不安を感じずにはいられなかった。

(…リュウ、死ぬなよ…)



ーーケアン基地・リュウの自室。


リュウの元へオセリスが入室して来る。

オセリスは室内を一望し、一息つく。

カメラ、マイク。本来隠すべき機材が表に出ている。

「準備は万全と言った所か。」

「ココへ来られたのなら、大佐…いえ准将でしたね。

 も、覚悟の上と推察しますが。」

「大佐でいい。お前とは長い付き合いだ。」

リュウもオセリスも、互いに何か含むような言い方で話す。


部屋は重い空気が満ちる。


リュウが口火を切る。

「その長いお付き合いの中で、もうお互い隠し事は無しにしませんか?」

オセリスは黙っている。

リュウは続ける。

「貴方の正体を掴みましたよ。」

確信を突いたリュウに、オセリスは冷静だった。

「ほぅ。俺の正体…か。」

リュウは恐れず続ける。

「ジャック・オセリスーー

 (オセリスとしての経歴が語らえるーー

  養護施設出身による出生等のカモフラージュ…

  士官学校から好成績からの高級士官への経緯…

  クリリア大戦での戦績…

  どこからがフェイクでどこまでが真実か、疑っても全貌の分からない完璧な経歴。

 …よく出来た経歴書だ。」

オセリスはまた、黙りこむ。


リュウはオセリスの目を見て言う。

「本名ーーニコライ・ソコロフ。」

オセリスがややピクリと反応する。

リュウは追求する。

「いつからコロンゴに?

 …と言っても言う訳もありませんか。」

オセリスが口を開く。

「お前の調査はそこまでか…

 それで俺と話が出来ると思ったのか?」


リュウは軽く息をして、言う。

「そうですね。我が国ではココまででした。

 …だから、これからの話は”国”は関係ない。

 貴方と私の…”個人”同士での交渉をしましょう。」

オセリスは表情を変えず言う。

「リュウ、引き下がるなら今だぞ。

 自覚しているなら俺も言おう。

 お前がディパンの諜報員である事は、お前をスカウトした時から知っている。」

リュウは少し驚く。

「驚きですね。知ってて私を誘った訳ですか。」

オセリスは冷たく語る。

「ディパンが友好国のコロンゴにスパイを派遣…本来なら早々に拘束すべき案件だ。

 が、俺がお前を泳がせる事を提案した。」

リュウは少し汗をかきながら言う。

「コロンゴとして…ですか。」

オセリスは黙って、軽く頷く。


リュウは、確信に迫る。

「しかし、貴方の行動には不可解な点が多すぎる。

 私を泳がせるのが目的なら、干渉を避けるべきだ。

 だが、貴方は私の諜報活動を目撃し、その上で黙認する宣言をしている。

 おかしいですよね。

 泳がせている人間に「お前の正体は知っているぞ。」なんて言いますかね。」

オセリスが少し反応するのを、リュウは見逃がさなかった。

「そう、まるで私を匿っているかのようだ。

 貴方は度々、私に「あまり首を突っ込むな。」と忠告してきた。

 思い返せば、それも牽制ではなく、私を思っての事だとすれば納得がいく。

 貴方は、コロンゴには泳がせていると報告しながら、

 その実は……クリリアから、私を囲ってくれていたのではないですか?」


オセリスは表情を変えない。

リュウは更に畳みかける。

「私だけじゃない。

 ホワイトファング…彼らは非常に高い能力を持った部隊になった。

 貴方が育て上げた。

 クリリアが戦争の泥沼化を画策しているなら、彼らのような存在は不要なはずだ。

 事実、彼らの活躍でコロンゴは国境を取り戻し、開戦前まで状況を戻している。

 そして、彼らには常に平和への願いの心根がある。

 彼らを手駒として戦争を操作するなら、そんな育て方する意味は無い。

 むしろ、平和を脅かす悪意に対抗する為に、貴方は彼らを導いた。

 そう考えれば、全て納得がいく。」


オセリスは口を開く。

「何が言いたい?」

リュウはついに本音を打ち明ける。

「貴方の真意が知りたい。

 貴方の本当の想い…それが何なのか。

 貴方の行動はクリリアスパイとしては、矛盾し過ぎている。

 それは…貴方のコロンゴに対しての概念が、敵国と言う形から変化したのでは?

 そして、それはクリリアに対しても…貴方は今クリリアに対しどう考えているのですか?」

オセリスは再び黙り込む。


リュウは続ける。

「私の推測を言います。

 貴方はクリリアの野望を阻止する事を望んでいる。

 しかし、祖国クリリアに対して反抗出来る立場にない。

 諜報員の原動力は、”愛国心”か”弱み”です。

 貴方にはご家族がいらっしゃる。これが本当の家族であれば、貴方は後者では?」

オセリスは一切答えない。


リュウは必死に続ける。

「我々の目的は、世界秩序の維持です。

 かつて我が国は愚かな戦争によって、核の制裁を受けました。

 それを教訓に、我が国では極秘裏に秩序維持を遂行する機関を設けました。

 それが、我々です。

 我々は目的の為なら、いかなる手段も取ります。

 …もし、貴方が真にコロンゴの帰化を望むなら、我々は協力を惜しみません。

 ご家族を含め、貴方の身の保証も致しましょう。

 …貴方がクリリアの野望阻止を考えているなら…

 どうか、我々に協力してくれませんか?」


リュウの必死な形相を見て、オセリスは口を開きだす。

「リュウ、それ以上来るな。

 いや、もう無駄か……お前はルビコン川を渡ってしまった。

 …夜も更けた。この話はまた改めよう。」

リュウは食らいつく。

「いえ、明日貴方はココを出発する。

 今日でなければならない。

 急な交渉ですが、貴方には準備があったはずです。

 どうか、どうか…貴方の力を貸してくれませんか。」


オセリスは冷たく跳ね返す。

「人にモノを頼む態度では無いな。

 仮にお前の言う通りなら、俺にとっては人生最大の決断だ。

 即答を求めるのは、礼を失するんじゃないか?

 ともかく、今夜はココまでだ。」


オセリスが部屋を後にするのを、リュウは力なく見送るしか出来なかった。

(…だが、まだだ。

 大佐がクリリアに忠誠を誓っているのなら、この場で私を消すはず。

 それをしないと言う事は、大佐も迷いがある証拠だ。

 まだ希望はある。)


ーーだが、”彼”の希望は失われる。


翌日、リュウ・ダゴダは自室で死体となって発見された。

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