第5話「ホワイトファング」
――ブリーフィングルーム。
「諸君らの大活躍で、ついにACEのロールアウトに漕ぎ着けた!」
満面の笑みを浮かべながら、ボンド中佐が部屋に入ってきた。
彼の手には一枚の資料、そこには新型機のシルエットが描かれている。
「機体名も決まったぞ。その名も――“グラディウス”! カッコいいだろう!」
キースたちは思わず前のめりになる。自分たちが模擬戦で流した汗とデータが結実した瞬間だ。
「さらにだ!」とボンドは胸を張る。
「お前らの部隊名も決めてやったぞ。その名も――“ホワイトファング”! いい名前だろう!」
「俺も鼻高々だ。近く昇進があるかもな。大佐となればいよいよ本営勤務かな? いやぁ、忙しくなるぞ!」
「……お調子者め。」
レイが小声でぼやく。
「ん? ヒューマン少尉、何か?」
鋭い視線を向けられ、レイは背筋を伸ばした。
「いえ、大変光栄に思います!」
キースとミリィが吹き出しそうになる。
だがボンドの声色はすぐに引き締まる。
「しかし悪い事に諜報部の報告によると、エウロパのACEは本国だけでなくNEU各国にも配備が始まっているらしい。ウカウカしてれらん。
そこでだ。諸君らの極めて高い適正を研究し、ACEのパイロット適応過程を短縮したいとの要望が来ている。――暫く、アウグスト研究所へ出向だ。」
三人の顔に、それぞれ異なる感情が浮かぶ。
レイは露骨に眉をひそめ「せっかくこの基地にも馴染みだしたのになぁ。」と不満げ。
ミリィは「これで皆んなの力になれるなら。」と力強く頷く。
キースは喜びと同時に軍備拡張への不安を胸に抱いた。「ACEの開発競争が始まるのか…」
――アウグスト研究所。
「ウェルカム!、ホワイトファングのみなさーん!」
迎えたのは、白衣姿の女性――アイリーン・フォスター博士だった。
ボサボサなポニーテールの髪を揺らしながら、早口でまくしたてる。
「NuGearの感想は? 同調率を上げる方法は? ACEの操縦感覚はどう? 吐き気や筋肉疲労は? データは取った? あ、取ってるに決まってるか。なら解析は――」
矢継ぎ早にあびせられる質問の嵐に、ミリィは必至に受け答え、キースとレイは呆然とする。
レイが半ば呆れ顔で口を開いた。
「今度は研究オタクかよ……スタイルはいいのになぁ。」
「お前それ、セクハラだぞ。」
キースが肘で小突き、別のものを指差した。
「ってか、この犬型ロボ見ろよ。」
白衣の足元に、小さな犬型ロボットがお座りしている。耳がぴょこんと動いたかと思うと――
「ようこそアウグスト研究所へ。僕はフォスター博士のペットのラッキーだよ」「おぉ、喋ったー!」
二人が思わず声を弾ませると、可愛いもの好きのミリィも思わず食いつく。「可愛いー。」
場が少し和らぐかと思いきや、フォスター博士は構わずメモを取りながら、「次!」とさらに質問を投げかけてきたのには流石にミリィもたじたじだった。
「博士、とりあえず中入りましょ、中。」
――研究所の廊下。
「……また会ったな。」
低く響く声に、三人が振り向く。
そこに立っていたのは――ダグラス・マクレガー大尉。
かつて模擬戦で相まみえた、レイクヴィクトリアのチームだ。
姿に気づいたキースとミリィは上官へ敬礼する。それを他所に、レイは気づいていない様子で
「誰だっけ?」
「バカ、初模擬戦でお相手頂いたダグラス・マクレガー大尉だよ。大体階級章見ろ。」
おっと、と慌ててレイも敬礼する。
「あの時はしてやられたが、俺たちもアレから鍛え直してな。今はお前さんらに次ぐ実力だ。次は負けんぞ。」
マクレガーは口ひげを触りながら軽く挑発する。
その横で、隊員の一人――ライアンが拳を握りしめた。
「あの時の借りは返す!」
もう一人、オリバーは笑顔だ。
「ACE開発に為にも互いに高め合いましょう。」
ライバルの再登場に、レイは軽く肩を回して構え、ミリィは嬉しそうに笑い、キースは胸の奥に静かな熱と、不安の影を同時に覚えていた。
――2つのチームの再会は、次なるACEの進化へ展開していく。




