第57話「育つ狼、育たぬ貴族」
ーーショーハンプ平原。
キース達が左のスレイプニルを見事に撃破していた頃。
ホワイトファング第二、第三小隊はもう一機のスレイプニルと対峙していた。
「うぉぉぉ。」
「くぅ、やっぱり速い!」
ビルとミリィは近接戦を挑むが、スレイプニルの速度に中々合わせられない。
ユアンはじっと戦局を伺う。
「ユアン、大丈夫ですか?」
心配になったサイラスが声をかける。
「…大丈夫です。今、敵の解析をしています。
…サイラスさん、檻に閉じ込めるなんて出来ませんかね?」
「檻?」
サイラスはユアンの突然の発言に驚くが、ユアンを信じ話を伺う。
「第三小隊は前線で会議かい!」
遠くで静かな二人を見てレイが軽口を言う。
「何か作戦があるんじゃ…
私もガトリングで応戦します。」
ヘレンが勇気を持って前に出る。
「お、ヘレンやるか!後ろは任せとけ。ぶっ放してやれ!」
ヘレンのガトリング砲は唸る。
「くぅぅぅ!」
慣れないガトリングの反動にグラつきながらスレイプニルに当てていく。
その中にレイの鋭いスナイパー弾が混じり込み、的確に炸裂する。
「ネルソン提督のミサイル作戦を参考にしてみたが、行けるな。
よし、俺たちに注意が向いたら近接機で同時攻撃だ!」
「了解!」
ミリィとビルの連携攻撃は成功するも、スレイプニルは装甲が剥がれるまでで留まっている。
そんな中ユアンから号令が入る。
「皆さん!暴れ馬の動きを最小限に抑えて下さい。檻に入れます!」
「何々?!檻ぃ?!」
驚くレイに、サイラスは言う。
「えぇ、ユアンの作戦は見事ですよ。まあ見てて下さい。」
サイラスはスレイプニルの周りに、リニアボウから無数の電磁ワイヤーアローを放つ。
アロー同士の間に電磁ワイヤーが発生し、檻を形成する。
「よし!皆さん、それぞれ柵の間に入って、奴が脱走しないようにして下さい!
状況を理解した皆は、即座に柵の間に分かれた。暴れ馬の檻が完成した。
檻の間からは牽制攻撃。スレイプニルは逃げるに逃げられない。
「今です!ヘレンさん!」
「了解!」
ヘレンのNジャマードローンは檻内で、悠々と射程に捉えスレイプニルを機能停止に追いやった。
「暴れ馬、止めました!」
モリスは手を叩いて喜ぶ。
「見事だ!よし、暴れ馬さえいなくなればACE戦だ。
士気はこちらが上がっている。恐れるな。
ホワイトファングに続き、両翼から敵をすり潰していけ!」
ーーエウロパ軍・司令部。
「スレイプニル一号機、二号機沈黙。
ACE部隊も混乱をきたし、統率が崩壊し各々が勝手に逃げています。」
報告する通信士すら混乱していた。
マルセロ・ヒメネス大尉は、頭に血を登らせ怒鳴る。
「どいつもこいつも…俺の命令を無視しやがって!
言葉で統率できんのなら、恐怖で支配してやる。
中佐、アルケニーの長距離榴弾をばら撒いて下さい。
逃げる者どもの退路を断ちましょう。」
エンリケ・ナバロ中佐は、何も驚くことなく指示に応じる。
「所詮、矜持も無い烏合の衆。それなら実力で締め付けねばな。
アルケニー、長距離ナパーム榴弾を放て。
座標は適宜で構わん。戦場を地獄絵図に変えてやれ。」
人を人と思わないーー旧態依然とした貴族主義の本性が、現れた瞬間だった。
ノースブリッジ市中心に鎮座していた巨大ACE〈アルケニー〉の腹から、榴弾が次々と撃たれる。
着弾したナパーム弾は戦場を一気に火の海に変えた。
「っざけんな!」
「これじゃあ、逃げ場もないじゃねーか!」
ヒメネスの通信が響く。
《逃走は許さん。死にたくなければ、敵を倒せ!》
恐怖で抑えられた兵は強い。
コロンゴ軍は死にもの狂いの敵に、苦戦を強いられる。
しかし、モリスは冷静だった。
「全機、一旦距離を取れ。敵の榴弾はこちらのフィールドまで届いていない。
恐怖はACEの性能を狂わせる。それは敵も同じ。
落ち着いて、敵を確実に倒すんだ。」
確かに、死に脅かされたACEの動きは繊細さを欠いて、勢いだけの戦力だった。
冷静なコロンゴ軍は直ぐに、体勢を立て直し押し返す。
戦況が逆転するのを確認するとモリスは広域通信をかける。
《死に恐怖するエウロパ軍諸君。投降せよ。
我々は貴軍司令のような非道はしない。
安心して、我々に下って欲しい。ーー我々は君たちを救いたい!》
モリス通信に、次々とエウロパ軍傭兵部隊は投降に応じる。
ーーエウロパ軍・司令部。
状況がどんどん悪化する様に、ヒメネスはついに怒りを爆発させる。
「ええい!なぜだ!なぜこーなった?
…そうだ、ホワイトファングだ!!
奴らが全て狂わせた!
奴らを叩かねば………スレイプニル三号機を出すぞ!」
通信士が止めに入る。
「趨勢は決しています。これ以上は…」
ヒメネスは、反論する通信士を殴りとばす。
「うるさい!
ここで退いたら貴族の沽券にかかわる!
俺が奴らを殲滅してやる!」
ヒメネスは初めから、スレイプニル三号機を走行モードで発進させる。
「…ホワイトファング…全ての元凶…
そうだ!…ミハエルすら勝てなかった相手だ!
俺が奴らを倒せば、俺がトップだ!
やってやる。ヒメネス家の…”貴族の意地”を見せてやる!」
混乱が収まり始めた戦場に、怒りと憎しみのカオスが襲い掛かる。
その速度はミハエルのそれを優に超えている。
ーー正に”暴走”ーー
敵も味方も構わず轢き殺しながら、ミサイル、ロケットをばら撒く。
「なんて速さだよ…」
さすがのレイも冗談を言う暇もなく、思わずつぶやく。
「だが、止めなければ、被害が拡大する!」
キースは強く噛みしめながら言う。
「でもどうやって?Nジャマーでも、とても捉えられないよ!」
ヘレンは心配そうに言う。
『落ち着け、キース!』
オセリスだ。
『奴をよく見ろ。機体から煙が上がっている。』
確かに暴走するスレイプニルは、機体限界を超えており各所から悲鳴が上がっていた。
『いずれ自爆する。
…少将の部隊は完全に撤退してください。
あれの相手はホワイトファングで受けましょう。』
モリスは頷く。
「また頼りはホワイトファング…すまん。」
オセリスは笑いながら話す。
『なーに、避けるのに専念すればいいんだ。
お前たちなら余裕だろう?』
キースは頷いて、各機に指示を出す。
「了解。
レイ、サイラス、マリアはモリス大隊と一緒に退くんだ。
ミリィ、ビル、ケビン、奴を引き付けれるな。
俺とヘレンとユアンで三人をカバーする。」
ホワイトファング隊は一斉に応える。
「了解!!」
暴走するスレイプニルは、まだその速度を落とさない。
「どうした?ホワイトファング!さぁ来いよ!俺が怖いか!?」
ヒメネスはもう自我が崩壊していた。
本人も機体も”暴走”状態だった。
ミリィ、ビル、ケビンは三方に分かれ牽制をする。
それぞれにはキース、ヘレン、ユアンがカバーをする。
「キースが後ろに居るなんて、ヘレンに怒られちゃうね。」
「冗談かます余裕があるなら大丈夫だな。」
「もちろん!」
「ヘレン、成長してるな。」
「ビル…ありがと。私もドローン専門だけじゃダメだからね。」
「ユアン…少尉殿。その…今まですみませんでした。」
「ははは…僕の至らないのが悪かったんだ。
今度は最高の隊長だろ?」
「はい!」
「僕も、もっと成長してみせるよ!」
悠然とスレイプニルを扱う姿は、マタドールの様に優雅であった。
「あいつら…おじゃべりしながらかよ。余裕かまして。」
「でも、敵さん全然攻撃当たってないですよ。すごいです、皆。」
「ケビン…あんな素直になって……………私だって!」
暴走するスレイプニルが遂に限界に達する。
「くそ!なんでだ!俺は選ばれし者なんだ!
なんだって手に入れてきたはずだ!
こんなゴミ共になぜ俺が?!
何故だ?なぜなんだぁぁーーーー!!!」
ヒメネスの断末魔と共に、スレイプニルは爆発し止まった。
炎上するスレイプニルを確認し、モリスは言う。
「作戦成功。全軍指定座標まで後退。
次はノースブリッジを解放するぞ。」
(…しかし、こんな非人道的な事をする連中が、相手とは…)
モリスは次の戦闘が悲惨なものになる予感しかなかった。
『成長したな。』
オセリスは子を称える父のような声で話した。
「大佐…いえ、まだまだです。
この戦争の本質を見つけ、終わらせるまで、俺は成長を止めません!」
「キース…」
通信機からでも伝わってくる、力強いキース。
その意思にヘレンは(自分ももっと強くならなくちゃ)と感じる。
過去に囚われた貴族は、最後一人燃え尽きた。
戦場で育った狼たちは、仲間と共にさらなる成長を目指す。




