第54話「新生ホワイトファング」
――ケアン基地。
薄曇りの空の下、整列したホワイトファング隊の前に、北部攻略司令ジェイソン・モリス少将が立っていた。
その背後には、見慣れぬ部隊――本国からの増援が並んでいる。
「諸君。ミドガルズオルム攻略、見事だった。」
形式ばった言葉とは裏腹に、モリスの声には昂りがあった。
「この功績により、ホワイトファング隊全員を一階級昇進とする。」
背後の増援部隊から、大きな拍手が湧き起こる。
だが、ホワイトファング隊は歓声を上げなかった。
モリスはホワイトファングの様子を不思議に思いながらも話を続ける。
「この勝利は北部戦線を一変させた。
本国でも、諸君の名は英雄として広まっている。
この勢いがあれば――ノースブリッジ奪回など容易い。
いや、それだけではない。」
モリスは一歩踏み出し、言い切った。
「我々は、エウロパ領へ反攻できる!」
その言葉に、キースは即座に首を振った。
「……反対です。これ以上、戦線を広げるべきではありません。」
レイも、ミリィも、無言で頷く。
ヘレンの表情も硬かった。
「ミドガルズオルムは落としました。
ですが、あれは勝利ではありません。
痛み分けです。」
「甘いな、大尉。」
モリスは笑みを崩さない。
「戦争は勢いだ。今攻めねば、次はない。」
その横で、ケアン基地新司令チャーリー・トンプソン大佐が口を挟む。
「少将……島の現状を考えると、慎重な判断も――」
「承知している。」
モリスは制した。
「だが本国は、エウロパの侵略に強い怒りを抱いている。
国民の想いを、我々は果たさねばならんのだ。」
その言葉に、キースたちは言葉を失う。
島と本国の温度差。
またしても、その現実を突きつけられていた。
一方、オセリスは何も言わなかった。
(……命令、か。)
軍である以上、従うしかない。
だが、オセリスは一瞬、キースから視線を逸らした。
胸の奥で、何かを飲み込むように。
「……以上だ。」
モリスは満足げに踵を返し、その場を後にした。
残された空気は、重かった。
――ケアン基地・ブリーフィングルーム。
オセリスの号令で、ホワイトファング隊が集結されていた。
「揃っているな。
待たせたな。遅れていた増員だ。」
”増員”のワードにレイが声を弾ませる。
「新メンバーか!待ってたぜ!」
「これでホワイトファング中隊が完成するんだね。」
ミリィも微笑む。
「さてさて、どんな面子かな。」
ビルは腕を組み、もう先輩風を吹かせていた。
「我々で全力でサポートしましょう。」
サイラスは相変わらずの謙虚で友好的姿勢で迎える。
キースとヘレンは、期待と不安を胸に、視線を交わす。
扉が開き、若い士官が一歩前に出た。
「ユアン・プライス少尉です。」
その名に、場が静まる。
「……プライスって…中佐の……?」
「はい。バーミッカム元基地司令レベッカ・プライスは母です。」
キース、レイ、ミリィは思わず視線を伏せる。
だが、ユアンははっきりと言った。
「母を守れなかった事、謝る必要はありません。
母は、あなた方が意思を引き継いでくれると信じていました。
だから……自分も、その意思を継ぎたいと思います。」
キースは一歩踏み出す。
「やっぱり中佐の息子さんだ。強いな。
一緒に中佐の意思を継いで、平和を手にしよう。」
二人の握手に、レイとミリィも手を重ねた。
続いて、オセリスが紹介しようとした瞬間――
「ちょっと、私が先でしょ。」
「いや、どう考えても俺だろ。」
食ってかかり合う二人が強引に入ってくる。
「ケビン・ハーコート准尉です!」「マリア・ヘンダーソン准尉です!」
「一緒に言うな!」「一緒に言わないでよ!」
「こら、落ち着け。」
ユアンが止めに入るが、逆効果だった。
「……なんだ、お子様じゃないか?」
レイの一言に、二人は同時に叫ぶ。
「十九です!!」「十九です!!」
「やれやれ……」
オセリスは額を押さえる。
「とりあえず、こいつらの紹介だ。
ケビンは槍の名手。士官学校でも突出した成績だ。
マリアはアスカロン開発に関わるほどの技術者で、ACE適性も高い。」
「士官学校生が前線なんて……」
キースの不安に対して、二人は目を輝かせる。
「やれます!」
「ずっと、あなたを見てきました!」
そこから始まる、なぜかキース自慢大会。
「ホワイトファングは学校でもヒーローで、特にキース隊長のカッコよさったら…」
「隊長のインタビュー何度も見てます!浮かれないで平和を切に願う姿。ガチかっけーす!」
「先が思いやられるな……」
ビルが呆れ、サイラスは冷笑する。
「……お前たち、いい加減にしろ!もう学校じゃないんだぞ!!」
オセリスの一喝で、空気が引き締まった。
「…しかし、実力は俺が保証する。成果をみせてやれ。
キースの第一小隊と模擬戦だ。胸を借りて遠慮なく挑んでみろ。」
キースは一瞬だけユアンを見る。
「……行けるか?ユアン。」
ユアンは浮かない顔をしたが、ケビンとマリアに押し切られ、頷いた。
「…隊長、お願いします。」
――ケアン基地郊外・森林地帯。
模擬戦は、激しかった。
ケビンとマリアは喧嘩しながらも、見事な連携を見せる。
「マリアいつもので行くぞ!」
「だーかーら、命令すんな!」
マリアのロケット弾は低空でケビン機をギリギリすり抜ける弾道。
着弾と同時に炎の中恐れもせず突出してくるケビンに、ミリィは応戦がやっとだった。
相性が良いのか悪いのか、不思議な連携度にレイとミリィは目を丸くする。
「二人は阿吽の呼吸って言うのかしら。こんなに息が合ってるなんて。」
「俺とミリィの連携じゃ歯が立たねーな、こりゃすごいじゃん。」
二人は関心するが、それはケビンとマリア”だけ”の動きだった。
キースは冷静に周囲を観察する。
「…ユアンは参加しないのか。」
そんなユアンは戦況を読み、布石を打つ。
その存在を隠し、レイの狙撃位置へ迫っていた。
だが――
「連携が、バラバラだ!」
キースはユアンの位置を捉えていた。
早々にユアン機は撃破信号。
残る二人も連携だけで行動は滅茶苦茶で、レイとミリィの前ではアッサリ撃破された。
『終了だ。』
オセリスが模擬戦終了を告げる。
――模擬戦後。
「どうだった?」
オセリスの問いに、キースは即答しなかった。
沈黙の後、口を開く。
「……ケビンとマリアの連携は見事です。
だが、小隊としては成立していない。」
二人は一瞬誇らしげになるが、オセリスの視線に背筋を伸ばす。
「ユアン。隊長として統率出来ていないな。
だが……戦局を読んで、レイを捉えに来た。
その戦術眼は――さすがプライス中佐譲りだな。」
ユアンは、はっと顔を上げた。
「その上で、編成はどうする?」
オセリスは問う。
キースは、深く息を吸い、はっきりと言った。
「第一小隊は――俺、ケビン、マリア。
こいつらは成長性がある。俺の言う事なら聞いてくれるなら、俺が育てます。」
二人の表情が、一気に明るくなる。
「よろしくお願いします!」「よろしくお願いします!」
相変わらずタイミングバッチリの返事に、キースは苦笑いする。
気を取り直してキースは続ける。
「第二小隊は、レイを隊長に、ミリィ、ヘレン。」
レイが目を丸くする。
「お、俺が隊長?無理無理!」
慌てるレイを、ミリィがレイの肩に手をやり落ち着かせる。
「大丈夫。レイは、いつも皆を見てる。」
「うん、私もサポートするから。」
ヘレンも優しく声をかけると、レイもいつもの調子で冗談をかます。
「……じゃあ、両手に花で頑張りますかね。」
即座にミリィのつねりが炸裂する。
「あいたー!すんませーん、調子に乗りましたぁ。」
キースは半笑いしながら、説明する。
「レイ、お前はミリィの言う通り戦場をよく見ている。
それに二人ともお前との相性は合ってる。特にミリィとはな。」
キースがミリィに目を向けると、ミリィは少し頬を赤くしながら笑顔で頷く。
「最後に、第三小隊は、ユアンを隊長に。
ビルとサイラスが支えてくれ」
ビルもサイラスも笑顔で応える。
「俺は隊長って肌じゃなかったから、肩の荷が下りたわ。
年上とか関係なく、上官なんだから遠慮なくコキ使ってくれ。」
「先の戦闘で戦術の鋭さは良く分かりました。眼の役は任せて下さい。」
期待通りの二人の様子に安堵して、キースはユアンに語る。
「ユアン、君はもっと成長出来る。自信を持って二人に頼ってくれ。」
ユアンもまだ少しおどおどしながらビルとサイラスに礼をする。
「まだまだ新米でご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いします。」
「よせやい、かしこまるのは。ビル、サイラスでガンガン命令してくれ。」
「俺達もユアンって呼ばせて貰うよ。」
二人の気さくさにユアンも安心した。
編成を確認し、オセリスは、静かに頷いた。
「三人は成長株だ。お前ならそれが出来ると信じているぞキース。」
「任せてください!」
キースの力強い返事に、メンバーも気合が入った。
新生ホワイトファング。
新しい芽は、確かに――
ここから伸びていく。




