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既視感あるくない?  作者: むぅむぅ星人


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第53話「大蛇攻略戦」

――コロンゴ軍第七艦隊臨時旗艦〈カニンガム〉。


ジャスティン・ネルソン中将は、前方スクリーンに映る巨大な影を睨みつけていた。

灰色の海を割って進むそれは、戦艦というよりも――海に棲む怪物だった。

今まさに、その怪物を追い詰めている真っ最中だった。


(さぁ……撃てよ、デュラン。選択肢はもうないぞ。)

焦る胸中で、そう呟く。

ネルソンもまた膠着している両翼で、要のミサイル巡洋艦を温存するには限界があったからだ。


――撃てば、罠ーー

――だが、撃たねば、やられるーー


この距離、この展開。

――もう、逃げ道はない。


「……さぁ、来るぞ。第二段階の準備を怠るな!」

その声と同時に、艦内に緊張が走る。



――ACE搭載ミサイル・艤装区画。


ホワイトファング隊は、それぞれの機体に固定された状態で、迫り来る運命を待っていた。


「……正直、前回の空中戦より怖いよね、これ。」

ミリィの声が、少しだけ震える。

「落ちたら、水中型の〈トライデント〉が回収してくれるだろ。」

「落ちる前提なの?」

すかさず出るレイの軽い口調に、ミリィはムスっとする。

「大丈夫だって。なら、いつもの様に俺が後ろで見ててやろうか?」

「んもぅ。」

ミリィは苦笑しつつも、いつものレイに救われているようだった。


ビルとサイラスは、無言で最終シミュレーションを確認している。

数字と軌道だけが、彼らを落ち着かせていた。

「サイラス、スラスター制御はこうで間違いないよな。」

「OKです。NuGearがサポートしてくれます。難しく考えずいつもの感覚でやりましょう。」


ヘレンは、キースの隣で静かに微笑んだ。

「大丈夫。きっと、うまくいく。」

その声は、不思議と揺れていなかった。


キースは一度、深く息を吸う。

「……全員、聞いてくれ。」

短く、しかしはっきりと告げる。

「必ず全員で、ミドガルズオルムに辿り着く。

 ――そして、全員で帰るぞ。」


誰も異を唱えない。

ホワイトファング隊は、すでに覚悟を終えていた。



――ミドガルズオルム艦橋。


エティエンヌ・デュラン中将は目前のセントランジェを見ながら確認する。

「主砲、発射準備は?」

「エネルギー充填率120パーセント。いつでも発射可能です。」

「主砲発射用意…目標敵旗艦セントランジェ。

 ……撃て。」

エティエンヌ・デュラン中将の声は、驚くほど静かだった。


次の瞬間、艦橋全体が白光に包まれる。


陽電子砲――発射。


圧倒的な光量と熱量が、海を焼き、空を裂く。


随伴していた輸送艦の装備は何の効力も無く、三隻ともに光に飲まれた。

そして、旗艦セントランジェもまた。

その進路上にあったものは、すべて等しく消滅した。


一瞬で、轟沈。


「敵旗艦轟沈!」

「やったぞ!」

「やっぱりリフレクターはハッタリだ!」

「ミドガルズオルムは最強だ!」

艦橋に、歓声が上がる。


「浮かれるな!

 奴らは旗艦すら犠牲にして、ミドガルズオルムを沈めるつもりだ!」

デュランの一喝は、一瞬で艦橋内を鎮めさせる。

「ここからが、本当の勝負だ。

 ミドガルズオルムは全速で後退。

 逃げ切るぞ!

 イージス艦〈ポアンカレ〉、〈チューリ〉、〈フェルマール〉、〈ガリウス〉は前面に展開。

 何としても守り抜け!」


デュランの切迫した命令に、艦長以下全員が再び臨戦態勢に戻る。

「180度回頭。… 全速前進!」


「陽電子ジェネレーター急速冷却。」

「砲撃系統の出力を、全て推進系へ転換。」


四隻のイージス艦は壁になる様に展開する。

その中を、脱兎の如く全速力でミドガルズオルムは逃げる。

(……さぁ、撃ってやったぞ、ネルソン。

 何を仕掛けてくるかは知らんが、このミドガルズオルム、そう簡単には沈まんぞ!)


デュランの目にはまだ光は失っていなかった。

しかし、次に訪れる事態予測に脳内はフル回転していた。



――一方ミサイル巡洋艦〈カニンガム〉。


陽電子砲の発射を確認したネルソンは即座に第二段階に移る。


「よし!カニンガム、ハニンガム、強行突破せよ!

 全速でミドガルズオルムに迫るぞ!」

ネルソンの号令が、艦内に響き渡る。


両翼艦隊からミサイル巡洋艦ハニンガムとカニンガムが突出する。


「突貫だと?!何としても阻め!」

エウロパ艦隊両翼も、二隻の突然の異常行動に動揺しながら道を阻む。


ーーしかし、既に中央の空戦を制していた、アルテミス編隊は両翼へ援護に回っていた。

「くそ!グリフォン相手に、こんな数残っていたのか!」

「対空防御!」

「弾幕薄いぞ!何やってる!」


「よし!道は開けた!突っ込めー!」

〈カニンガム〉と〈ハニンガム〉は、敵艦隊の隙間へと強引に突入。

多少の被弾など恐れぬ突進であった。


アルテミス編隊は、両ミサイル巡洋艦が敵艦隊の突破に安堵する。

そして、一度空母へ帰還する。

「第二段階も成功!あとはホワイトファング隊…頼むぞ。」



ーーミドガルズオルム追撃戦。


両翼から迫るミサイル巡洋艦に、デュランは即時対応した。

「ポアンカレはカニンガムへ。フェルマールはハニンガムへ当たれ。

 チューリ、ガリウスは本艦に続け。

 奴らの狙いはミサイルによる本艦への攻撃だ。

 一発も届かせるな!」


両翼の展開は、迫るコロンゴ巡洋艦vsエウロパイージス艦の様相になった。

しかし、二隻の巡洋艦は速度を落とさない。

「速い!抜けられる!」

特攻とも言える全速で迫る敵艦に、イージス艦二隻は追尾ミサイルを撃つ程度しか出来なかった。

しかも、そのミサイルも空しく撃ち落された。


いよいよ、ハニンガム、カニンガムがミドガルズオルムをミサイル射程に捉える!

「全弾掃射!」

各艦から百発を越える長距離対艦ミサイルが、一斉に放たれた。


ポアンカレ、フェルマールによってECMが照射される。

しかし数本のミサイルには”HOJ”機能(すなわちECM兵器に向かっていくシステム)が搭載されており、逆にイージス艦へ向かっていった。

これにより、ポアンカレ、フェルマールは行動不能となった。

後ろの惨状にサイラスが驚く。

「すごい!ネルソン提督はここまで予測されていたのか!」


次いで、ミサイル群を遮るのはチューリ、ガリウスから放たれるアンチミサイル。

向かってくるミサイルにヘレンがたじろぐ。

「ミサイルが…来る!」

「大丈夫だ。ミサイルシーカーの精度なら、俺たちで簡単に避けられる。」

キースが改めて説明してくれる事で、ヘレンも安心する。


通常ミサイルは次々と撃ち落とされていく。

しかし、ホワイトファング隊のACEミサイルは巧みにスラスターを操作し、アンチミサイルを抜けていった。

その挙動にエスロバ軍ミサイル管制が気付いた。

「……あれは?」


ミドガルズオルム艦橋で、通信士が声を上げる。

「一部ミサイル、通常軌道から逸脱しているモノがあります。」

「どういう事だ?」

デュランは眉をひそめる。

「内部から人為操作されているような…」

「ミサイル群を熱探知しろ。」

結果に驚く通信士。

「熱紋が……ACE反応です!」

デュランの目が細まった。

「……ACEを搭載したミサイル?…そうか!それが敵の本命だ!」


どよめく艦橋内で、ディランは即座に行動に移す。

「インプを発進させろ!艦を守れ!

 イージス艦へは異常熱紋のミサイルを徹底して狙わせろ!

 「敵ミサイルのアウトレンジまでの距離は?」」

「あと八百! 秒読み、三十秒でアウトレンジです!」


デュランは確信する。

(…このままではミサイルは届くか…)


アンチミサイルを抜けたホワイトファング隊に、最後にして最大の脅威”CIWS”(迎撃機関砲)が立ちはだかる。

CIWSの一斉射がホワイトファング隊を襲う。

「これ!きっつ!」

スラスター制御に、ミリィが悲鳴を上げる。

「喋る余裕あるなら問題ないな!」

レイが、無理やり冗談を飛ばす。

「これならリングの上の方がマシだな!」

ビルが苦笑しながら、必死の形相で凌ぐ。

「距離、あと三秒」

サイラスの声は、最後まで冷静だった。


他のミサイルを盾にしながら必死の回避で、ついにミドガルズオルムの射程内に入る!

刹那キースは号令を上げる。

「今だ! 艤装解除!」


ホワイトファング隊は、弾幕をすり抜け、一斉にミドガルズオルムへ取り付いた。


「全機無事だな!」

キースが確認する。

「よし!――先ずは艦橋だ。敵の頭を奪う!」


「まかせて!」「まかせろ!」

近接機のミリィとビルが待ってましたと高らかに返答し、近接攻撃を叩き込む。

ミリィの斬撃で傷づいた箇所を、ビルがマシンガンパンチで砕いていく。

装甲が歪み、ガラスが砕け、艦橋は傾いた。


「これで、指揮は死んだ!」

キースは叫ぶ。

《ミドガルズオルムの全乗組員に告ぐ!総員退艦せよ!

 我々は、これより機関部を破壊する!》

キースの勧告に、艦内は混乱の渦に陥る。


だが――艦は、まだ生きている。

インプたちが、上空よりホワイトファング隊を襲う。

「まだだ!まだ終わっていない!」

しかし、一機、二機と次々と力なく落ちていく。

「やれる!有効距離も伸びてる。」

ヘレンのNジャマーも経験を重ねて、その精度・射程を進化させていた。

「ヘレンだけじゃねーぜ!」

負けじとレイも、空を舞うインプを狙撃するまで成長していた。


「狼付き…ホワイトファングだ!」

「ダメだ、逃げろー!」

もはやホワイトファング相手に成す術を失ったミドガルズオルムは、混乱の最高潮に達していた。



――ミドガルズオルム艦橋。


警報が鳴り響く。

艦長が、デュランを振り返る。

「もはや艦に抵抗力はありません……総員退艦を――」

「――ああ。そうしてくれ。」

デュランは、艦長席に静かに腰を下ろした。

「提督もお早く!」

艦長の問いに、デュランはゆっくり首を振った。

「……これが、あの閃光で無慈悲に多くの命を奪った…代償なのだろう。

 私は――この艦と運命を共にする…」

それ以上、何も語らなかった。

艦長は敬礼し、踵を返す。

「総員退艦!――タイカァァーン!!」


退艦がおおかた済んだ事を確認すると、キース達は機関部壁を破壊。

機関部にありったけの弾丸を撃ち放った。

暴走炎上する機関部。ミドガルズオルムの断末魔がこだまする。


一人残されたデュランは、艦の崩れゆく様をただ見つめていた。

逃げなかった。

抗わなかった。

――赦しも、求めなかった。


陽電子砲搭載艦ミドガルズオルム、轟沈。


旗艦と司令官を失ったエウロパ軍第八艦隊は、崩壊の兆しを見せる。

だが、コロンゴ軍第七艦隊もまた、旗艦を失っていた。


「追撃はいい。目的は果たした。」

ネルソンは、僅かに残ったセントランジェの残骸を眺めながら通達した。


ホワイトファング隊は、アルテミスに回収され、静かに帰還した。

皆勝利の喜びを強くは感じていなかった。


静まった海に残ったのは、両軍の旗艦の残骸。


海は何も語らず、静かな波音を立てるだけだった。

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