第4話「歌声」
――大統領機墜落事故から一か月。
未だハーリング大統領の安否は不明。捜索も調査も進まぬまま、状況は悪化の一途をたどっていた。
「俺たちのハーリングを返せ!」
「初めから仕組まれていたんだ!」
「政府はあんなふざけた回答で納得しているのか?!」
コロンゴ国内では、民衆の怒りは爆発寸前にまで高まっていた。
一方でエウロパを除くNEU各地では、「クラインは偽善者」と掲げるカルト集団によるテロが相次いでいた。
さらにエウロパ内部ですら、「コロンゴが戦争を望んでNEUを分断させている。」「所詮、戦争屋でのし上がった国だ。」「軍縮だってこちらの力を削ぐためだ。」との声が広がり、民衆は冷静さを失いつつあった。
――NEU閣議。
「早々に調査団の受け入れも散々調査させたにも関わらず、コロンゴはいまだ納得の意思を示していないで和解など望めるのか?」
「現状を省みて考えるべきは、ACEを基軸とした我らの軍備の優位性だ。今なら我々の方が有利である。」
「大統領機内の非常ポットが未だ見つからない実情を公にすれば、コロンゴを追い込める。むしろそれが戦争の口実として打ってつけだ。」
「それは先の大戦、ハルマゲドンの再来を招きかねない!」
各国首脳が意見を戦わせる中、ヨハン首相が声を張った。
「今我々がやるべき事は国民感情を抑える事で、冷静になり結束を強めるべき時だ。主権たる我々がここで動揺してどうする!」
首脳たちは渋々うなずき、閣議は一旦閉じられた。
――暗転。
?A「そちらの状況は?」
?B「感情論先行の愚か者の国だ。このままでは政権維持も困難だろう。」
?A「こちらでも分断が進めば、戦力維持は難しい。」
?B「時が来たと?」
?C「焦る必要はない。シナリオは完成している。総統の指示を待て。」
?A「民衆の操作は面倒だが、軍のコントロールは容易だからな。」
?B「すべては計画通りに……」
――レッドクリーク基地前。
待ち合わせ場所に立つキースとレイ。その前に現れたのは、いつもと違う装いのミリィだった。
スポーティーな軍人風カジュアルではなく、トレンドを意識したガーリーな服装。まるで普通の女子大生のようだ。
「お、お前……誰だよ?」とキースが呆ける。
「かわいいじゃん。」と思わず漏らすレイ。
ミリィは少し照れながらも、真剣な表情で口を開いた。
「今まで軍人家系たる者常に軍人じゃなきゃって自分で締め付けてたけど…二人を見てて、もっと自分らしくなろうと思ったんです。ダメ…かな?」
キースは笑顔で頷いた。
「いいじゃんいいじゃん。あと敬語もやめよーぜ。俺たちはチームなんだから。」
二人の笑顔に、ミリィも自然と笑みを返した。
「うん、そうする。やっぱり二人に会えて良かった。学校じゃ皆お堅い人ばっかりだったし。」
レイもうんうんと頷く。
「まー名門ガウェインで主席じゃ士官候補のお手本だからなぁ。新生ミリィの誕生って訳だ(笑)」
「もー。」
「さて、そろそろ行くぞー。ミッションプランに遅れが出たら台無しだからな。」
「りょうーかい!」
――移動中。
車中は模擬戦の話で盛り上がる。
模擬戦続きの一か月、レッドクリークチームは破竹の勢いで連勝を重ねていた。
機体トラブルも少なく、連携精度はチーム内でも随一。
今や、周囲からは「若手エース部隊」と呼ばれるほどの存在になっていた。
「この調子なら、本部の査定も上がるかもな。」
キースが笑いながら言う。
レイはタブレットの戦績グラフを見て鼻で笑う。
「連勝はいいけど、所詮は訓練。実戦じゃ何が起こるか分かんねぇよ。」
ミリィはそれを見ながら、少し笑みを浮かべた。
「でも、訓練だからこそ信頼が試されるんでしょ? キースが“俺たちはチームだ”って言ったの、あれ本気だったんだね!」
「当たり前だろ。」キースは力強く頷いた。
「勝ち負けより、俺たちの息が合ってる方が大事なんだ。」
レイが肩をすくめる。
「お前、そういうとこだけ隊長っぽいな。」
「だろ?」
3人の笑い声が車内に広がった。
しかし、窓の外には暗い看板が並んでいた。
「ハーリングを取り戻せ!」「エウロパに罰を!」
「やな景色だな…」とレイが呟く。
「気持ちは分かるけど、みんなもっと冷静にならないと…」ミリィも項垂れてこぼす。
「大統領は必ず生きてる。俺は信じてる。」
キースは力強く言い切り、二人を励ました。
――コンサート会場。
「ヘレン・スチュアート? デビュー仕立てで、私と同い年なんだって。」とミリィがミーハー情報を披露する。
会場に響くのは、メロウで心地よい歌声。透明感のある旋律が観客一人ひとりの心に届き、ざわめいていた空気さえも静まり返る。
ただの新人歌手とは思えない――彼女の歌には、不思議な力が宿っていた。
「素敵な歌声……」とミリィが感嘆する。
「歌詞はありきたりなLove&Peaceだったが、吸い込まれるもんがあるな。オリビア様とは違うけど……これはダイヤの原石を見つけたな、キース――って、おい。」
振り向くと、キースの目には涙があった。
「……ごめん、兄さんのこと、思い出して。歌って……すごいな。こんなに感動したのは初めてだ。」
舞台のヘレンの瞳は、優しくも真剣だった。
まるでキースの心を受け止めているかのように、彼女は一瞬、視線を合わせて微笑んだ。
コンサート後のファンミーティング。
「また来ます! 毎回来ます!」と興奮気味に伝えるキースに、ヘレンは控えめに、しかし確かな温かさを込めて応えた。
「ありがとうございます。またお会いできる日を楽しみにしてます。」
帰り道、歌は世界を平和にできるんだと熱弁するキース。
レイとミリィは冷ややかに聞き流しつつも――
(もし本当にそうなら……)と、心の奥で願っていた。




