第46話「反撃の狼煙」
――暗転。
深い闇の底で、三つの影が揺らめきながら嘲笑していた。
?A「ここまでで、すでに計画が狂っている。」
?B「本来なら今頃、ピースブリタニカはエウロパの手中にあるはずだったからな。」
?C「案ずるな。“総統”はこの程度は誤差だと仰っている。」
その言葉に、二つの影は短く息を止める。
?A「……確かに、大局を見ればまだ誤差と言えるか。」
?B「だが、ここからはこちらの反攻が始まる。そうなれば……」
?A「そう簡単にコロンゴの独走にはならんだろう。」
?B「まぁ例の件はそちらに送ってあるからな。」
?A「つまりは、ここからは拮抗し泥沼化すると言う事だ。」
?C「それでいい。計画の完成はまだ先だ。それまで両国の力を削げるだけ削ぐのだ。」
三つの影は不気味に笑い声を重ねた。
「すべては、“総統”のために。」
闇はひっそりと脈動し続ける。
――ケアン基地・ブリーフィングルーム。
新生ホワイトファング隊の六名が整列した前で、オセリス大佐が静かに告げる。
「さて、ホワイトファングも二個小隊編成となった。キース、再編成はお前が決めろ。」
レイがすかさず茶化す。
「キース隊長、ヘレンちゃんを隣に置くのか?」
「茶化さないの。」
ミリィが小突き、サイラスとビルは苦笑し、ヘレンは頬を染める。
キースは一歩進み、短く言った。
「……今のままでいきます。」
オセリスが眉を上げる。
「理由は?」
「俺たち三人は十分連携が高いし、ビルたち三人もまた小隊としてすでに完成されています。
このままの組み合わせが全体として最大の力を発揮できます。
レイとミリィには……隊長になるチャンスを奪ってごめんな。」
レイとミリィが目を合わせてうなずく。
「気にすんな。」
「そうよ。キースの判断でいいと思う。」
オセリスも短く頷く。
「……ならそれでいい。お前を信じよう。」
続いて、大佐はわずかに表情を緩めた。
「それと、ようやくケアン基地司令の任が解かれた。本来の“ホワイトファング隊専属指揮官”に戻る。」
キースは改めてオセリスに礼をする。
「大佐のおかげでケアンは守れました。本当に、ありがとうございました。」
オセリスは表情を明るくし応える。
「お前たちやレッドホーンがいたからこそだ。誇りに思え。」
そして、一呼吸置いて告げる。
「次の任務だ。」
画面に映し出されたのは、焼け焦げた滑走路――バーミッカム基地。
「反撃の狼煙として、バーミッカム基地奪回作戦を行う。作戦司令官はネイサン・テイラー准将だ。
ホワイトファング隊は彼の指揮下に入る。ブリーフィングは14:00からだ。」
レイは気合が入る。
「反撃の狼煙か……こっから巻き返しだな。」
ミリィも強い光を宿す。
「これまで失った人たちの想い、必ず取り戻す。」
一方、キースは胸に重く沈む問いを抱えた。
(……取り返した先に、どこまで行けば戦争は終われるんだ……しっかり考えるんだ。)
ーー14:00、ケアン基地・ブリーフィングルーム。
扉が開き、穏やかな笑顔の男が現れた。
「今回、バーミッカム基地奪還作戦の指揮を執ることになりました、ネイサン・テイラーです。」
准将とは思えないほど、穏やかで親しみやすい。
レイが囁く。
「……威圧感ゼロだな。」
「レイ、失礼よ。」
ミリィがまた小突いた。
テイラーは笑って続けた。
「さて、今回の作戦はですが、“誤情報”を使ます。
敵に、本命のホワイトファング隊が不参加だと信じ込ませます。」
モニターにケアン基地からバーミカッム基地までの地図が表示され作戦詳細が移される。
「説明下手なので端的に言いますね。
1.偽装した進軍情報を敵に流す。
2.誤情報どおり、“本隊”は防衛軍と交戦する。
3.その隙に要のホワイトファング隊が基地へ侵入し、司令部を停止・降伏させる。
要するに、敵を勘違いさせて頭だけ叩く作戦です。」
そして声色を少し落とす。
「私は……無駄に命を奪いたくない。できれば、誰一人として。」
キースはその言葉に胸を打たれた。
「……准将、その想い、必ず叶えます。」
テイラーは優しく笑った。
「期待していますよ、キース隊長。」
――作戦決行日。
バーミッカム基地・エウロパ軍臨時司令室。
通信士が慌てて臨時基地司令のチアゴ・ソウサル中佐の元へ駆けつける。
「司令!敵の進軍情報を掴みました!」
情報には進軍ルート、加えてホワイトファング隊が存在してない内容が含まれていた。
「狼付きな居ない。よし!防衛線はこの情報を元に布陣を改るぞ!」
テイラーの思惑通り、ソウサルは完全に誤情報を信じ切っていた。
ーー同刻、バーミカッム基地への別ルート。
ホワイトファング隊は本体とは違う隠密ルートを進んでいた。
サイラスがマップを操作しながら告げる。
「敵索敵網の隙、見つけました。三十秒後に抜けます。」
ミリィが感嘆する。
「凄い……レーダーより早い。」
ビルも頷く。
「サイラスの目は、戦場を見通してますよ。」
キースが続く。
「助かる。これなら最短で行けるな。」
サイラスの案内は的確そのものだった。
まるで敵の意図を読んでいるかのように、電波の死角を滑り抜ける。
しかし、サイラスが舌打ちをする。
「……はぐれが一機、接近。」
「任せて。」
ヘレンはNジャマードローンを向け、歌い出す。
ゴブリンの動きが一瞬で止まり、レイの射撃がコクピットぎりぎりを撃ち抜く。
パイロットは慌てて撤退していった。
「大したもんだ、ヘレン。」
「レイも相変わらず凄い腕前だね。」
二人は照れながら見合った。
ーー一方、戦場では——
テイラーが、わざと“撤退”する通信を流す。
『……作戦が筒抜けだ。一旦撤退する。撤退——』
ソウサルはそれを聞き、勝利を確信した。
「勝てる……! 追撃しろ!!」
だが、本隊が前進したことで——
バーミッカム基地の防衛網に、大きな“穴”が開いた。
――バーミッカム基地・内部。
サイラスの声が響く。
「侵入成功。司令部まであと二分!」
「よし、行くぞ! ホワイトファング、突入!」
キースの号令で六機が一気に駆け出す。
基地内にアラートが鳴り響く。
「敵六機、基地内に侵入!……狼付きです!」
驚いたのはソウサルだった。
「なっ……もう基地内に!?しかも狼付き?六機?」
慌てて迎撃に向かうゴブリン達を見て、ビルがニヤリと言う。
「俺の力もお見せしますよ!」
言葉よりも先にビルのアスカロンは疾走し、敵の懐に飛び込むと頭部にパンチを連打させ吹き飛ばした。
次々と頭を殴り抜かれるゴブリン達を見て、レイが思わず漏らす。
「すげぇ……マジの”マシンガン・ビル”だ。」
丸裸になった司令部にアサルトライフルを向け、キースは告げる。
「あなた方の負けです。降伏を。」
ソウサルは目を見開き、やがて肩を落とす。
「……見事だ。完敗だ。」
バーミッカム基地、奪回。
戦いは、わずか二十分だった。
煙の向こうに、テイラー准将の通信が静かに届く。
『……よくやりました。これでようやく、前に進めますね。』
その声は、勝利の高揚よりも――
これから訪れるであろう“痛みの少ない未来”を願う者の声だった。
キースは深く息を吸い、視線を上げる。
(ここからだ……反撃じゃない。終わらせるための戦いを始めるんだ。)
その思いは、不思議と六機のACEすべてに伝わっていく。
焦げた空気の中、確かに感じられた。
戦場に、静かだが力強い“追い風”が吹き始めている。




