第43話「各々の増援」
――コロンゴ軍・ケアン基地。
増援部隊の到着を待つあいだ、前線は嘘のように静けさを取り戻していた。
バーミッカムの激戦から一転、兵士たちは短いながらも穏やかな日々を過ごしている。
――食堂では、キース・レイ・ミリィが昼食を囲んでいた。
「それでさ、新しいホワイトファング隊員って、どんな奴らなんだろうな?」
レイがパンをかじりながら目を輝かせる。
「大佐が全然教えてくれないからなー。」
キースが答えると、ミリィはスプーンを持ったまま首をかしげた。
「レッドホーン隊みたいな、頼もしい人たちだといいね。
あの人たちとは、研究所でも直ぐ仲良くなれたから。」
レイは懐かしむように笑う。
「そうだな。あの三人なら俺達と阿吽の呼吸で戦えたしな。
ま、誰だって俺たち三人がいればすぐ馴染むさ! なんてったって――」
「……一番うるさいのはレイだしね」
ミリィが小さく笑って言うと、レイは胸を張ってむしろ誇らしげだった。
キースはその空気に思わず笑みを零す。
だがレイはその表情を見逃さず、ニヤリと笑って距離を詰めた。
「それでキース、ヘレンちゃんとは最近どうよ?」
「……それが最近返事が来なくてな。
俺たちがこんな状況だし、仕方ないと分かってるんだけど……」
キース気落ちした声に、ミリィがすぐフォローを入れる。
「遠距離って辛いよね。でも、ヘレンさんがキースを裏切るわけないよ。自信持って!」
「そーそー。それに女はヘレンだけじゃ――」
言いかけたレイの腕をミリィが遠慮なくつねる。
「いっでぇぇ!なんだよぉミリィ。」
「別に〜?」
ぷいと横を向くミリィに、レイは情けない声をあげ、キースは困り顔で二人を見る。
戦場の緊張はまだ拭えないが、この瞬間だけは確かに“日常”があった。
――一方その頃、通信室。
リュウが端末に向かい、眉をひそめていた。
《本部より発。報告:先日取得の不明暗号波から、キラル文字の片鱗を発見。引き続き解析を進める。》
「クリリアが関わってる……?そんなはずは……」
呟いた瞬間、背後に重い足音が響いた。
「また、極秘通信か?」
振り返ると、オセリスが立っていた。
鋭い眼光。しかし、その底には探るような色が宿っている。
「お前の行動には……時折、不可解な点がある。」
オセリスは低い声で言う。
胸が一瞬跳ねたーーだが、すぐに続いた言葉は意外なものだった。
「…だが、俺はお前を信じている。……今は、な。」
オセリスはそれだけ言い残し、静かに背を向けて去っていった。
(“今は”……か。
やっぱり、この人にも何か裏がある……?)
端末の暗号を見つめながら、リュウの胸の中で疑念だけが静かに積もっていた。
ーールーティア基地・通信室。
ミハエルはシェザール少将と通信で報告していた。
「以上が、今回のスレイプニル評価のです。
性能を発揮しきれなかった要因――それは一重に”狼付き部隊”の存在。
彼らは脅威です。
ただのエース部隊ではありません。旗印となる事で、周囲の戦力すら底上げしてしまう。」
ミハエルの言葉に、マルティンもロメロも苦々しく頷く。
シェザールは深く息を吐いた。
『君ら三人を以ってしても、倒せないとなると…』
ミハエルは続けた。
「最優先はNuGearの解析です。
加えて“エース部隊”というより、“対狼付き専門部隊”を編成すべきでしょう。」
シェザールは少し考え、改めて問う。
『で……君は、どうする?
本国に戻るか?それとも島に残るか?
ガンドラ基地には、私の旧友マティアス・ヴァルター少将が新たに赴任する。
誠実で信頼できる男だ。島に残るなら彼の元に配置を計らおう。』
「……少し三人で考える時間をください。」
そう言ってミハエルはロメロ、マルティンと視線を交わした。
(一度本国に戻り、ACE技術を根底から見直すべきか…
それでも私には戦うしか能が無い。この島でしか果たせない役割があるのでは……)
「マルティン、ロメロ、君たちはどうする?――」
考え始めた矢先、扉が突然開いた。
「君がミハエル・ファフナー少佐か。」
入ってきたのは、ルーティアの新司令――ダミアーノ・カルドーネ少将。
「君は敵にもお優しいそうで。その態度はどうかと思いますがねぇ。」
率直に言って、私の元では…邪魔。」
露骨な侮蔑。しかしミハエルは微動だにせず頭を下げる。
「承知しました。直ちに去りましょう。」
カルドーネが去ると、マルティンが噛みしめるように呟いた。
「…随分な物言いでしたね。」
だがミハエルは笑って彼をなだめる。
「まあいい。それより、私の行先は決まった。
閣下のご厚意に甘え、ヴァルター少将の元へ行こうと思う。
私には、まだこの島で成すべき事があると考える。」
その言葉に、マルティンとロメロは視線を下げた。
「今回の件で痛感しました。ACEの性能を引き出せていない……我々の力不足です。」
「本国に戻り、テストパイロットに戻りたいと思います。」
ミハエルは寂しさを滲ませつつも、力強く頷いた。
「分かった。本国で成すべきことは君たちに任せよう。
私はこの島で役割を全うする。」
「少佐と共に戦えた事、誇りとします。」
二人は深く敬礼し、静かに部屋を後にした。
ーー数日後、ケアン基地。
ついに待望の増援部隊がケアン基地へ到着した。
整備区画には新型ACEがずらりと並ぶ。
ケアン基地だけで五十四機――前線の戦力は一気に跳ね上がった。
「すっげぇ……これはもう、基地守備軍どころじゃねぇな!」
レイは大型輸送車を見て走り回るほどの興奮を見せる。
ミリィは逆に、不安げに空を見上げた。
「これだけの数……って事は、それだけ戦火が広がるって事だよね…」
「……広げさせないさ」
キースは静かに言った。
「俺たちが食い止める。この島全体が燃え上がる前にな。」
その時、整備員が声をかけてきた。
「ホワイトファング隊、オセリス大佐からの呼び出しだぞ。」
レイとミリィが顔を見合わせ、キースの肩に寄る。
「ついに来たか……!」
「新しい仲間が発表されるのかな……?」
期待と少しの緊張を胸に、三人は司令部へと歩き出した。
――戦いは続く。
だが、受け継いだ想いは確かに前へ進んでいた。




