第42話「平和への継承」
――バーミッカム南方・焦土と化した森。
砕けた岩肌に夕陽が差し込み、赤い影だけが静かに伸びていた。
その中を、キース、レイ、ミリィの三人が必死の形相で駆けていく。
「大尉はどこだ……!」
キースの声が震える。
やがて、折れた樹木の間に――
半壊したレッドホーン機が、かろうじて立ったまま残っていた。
「……ダグラス大尉!」
コックピット前装甲は砕け、内部には血の跡。
すぐそばには、上半身が吹き飛んだライアンの機体、
腹部を深々と貫かれたオリバーの機体が無惨に横たわっていた。
ミリィが涙目に唇を噛む。
「そんな……三人とも……」
レイは拳を地面に叩きつけた。
「大尉!……俺たち、間に合わなかったのか…」
その時、ダグラス機の通信ランプが微かに灯った。
「……キース……か……?」
かすれた声。
キースは膝をつき、必死に呼びかける。
「大尉! 今、救護を――」
「いや……いい……もう……助かりは……せん……」
ミリィがすすり泣く。
レイは歯を食いしばって俯く。
ダグラスの声はさらに弱くなる。
「キース…お前に……託す……
お前…が…この戦争を……終わらせて……くれ………」
次の瞬間、通信の光はふっと途切れた。
風が吹き抜け、赤く染まった森が揺れる。
陽が沈む空に、レッドホーン隊の赤い残光だけが静かに溶けていった。
――ケアン基地・第一会議室。
レッドホーン隊戦死の報は、瞬く間に基地中を駆け巡った。
食堂では誰も言葉を発せず、格納庫では整備兵が工具を握りしめたまま動けなくなる。
会議室では、リュウが淡々と戦況を整理していた。
「……以上が南部戦線の損耗です。
レッドホーン隊は全滅。残り戦力は三割を切りました。」
静まり返る空気に、机を叩く音すらない。
レイがぽつりと呟いた。
「……あの人たちは、俺たちを守るために……」
ミリィが続く。
「もう……誰も失いたくない。だけど……戦わなきゃいけないんだね。」
キースは深く息を吸って言った。
「戦争が……すべてを奪っていく。でも、大尉に託された。
俺たちは前を向くしかない」
オセリスは深く頷き、強く言い切った。
「その通りだ。生き残った者が、死者の意思を継がねばならん。
立ち止まるわけにはいかん。
部隊を再編する。レッドホーンの穴は――我々で埋める。」
覚悟を決めるように、三人は力強く頷いた。
そこへ緊急通信が飛び込む。
『こちら第七艦隊旗艦セントランジェ。増援部隊、北部海域に到達。
48時間以内に前線へ展開可能!』
会議室がざわめいた。
「本国め…ようやくか。」
オセリスは息を大きく吐き、椅子から立ち上がる。
瞳には、さきほどまで消えていた光が戻っていた。
「道が開けた。増援到着まで持ちこたえるぞ。
――ホワイトファング隊を前線へ進める準備を始めろ。
さぁ、反撃の刻が来たぞ!」
その声は、沈み切っていた基地に再び灯をともすように響いた。
――ガンドラ基地・戦略会議室。
ハインライン大佐は、上層部からの叱責をただ受けていた。
「北部に続いて南部も敗北……言い訳は無用だ、大佐。」
ハインラインは死に体で、頭を垂れた。
「……私はもう前線指揮を執れません。退く許可を……」
そこへコンティが割って入る。
「待ってください。では次の指揮は、私が――」
しかし、通信官が冷たい声で告げた。
「本国より命令。本国へ帰還せよ、とのことです。
……コンティ中佐も同じく。」
会議室が一転して重苦しい空気に包まれる。
「俺を……戦場から引かせる気か……?」
コンティの目が狂気で潤む。
さらに上層部の一人が続けた。
「敗北の責任は北部にある。リベイロ大佐の更迭が決まった。」
「そんな……!」
ハインラインは驚愕し、震える声で言った。
「リベイロの失策より、多くの兵を死なせた私の方が大罪人です。
作戦責任を問うのであれば私が…」
上層部の一人がため息混じりに答えた。
「そう、つまりは駐留基地司令の二人が共に島で平和”ボケ”していた結果、と言う事だ。
行先は追って通達する。速やかに引き継ぎを済ませよ。」
ハインラインはその場で肩を落とし、目を閉じた。
「すまん、リベイロ。やはり私が間違っていた…」
平和を願った二人の有能な司令官は、こうして島を去ることになった。
――ルーティア基地・司令官室。
ミハエルは南部戦線の報告書を閉じ、黙って敬礼した。
「……赤サイ部隊……敵ながら見事な最期だった。」
そこへ将校が入室し、新たな命令を伝える。
「リベイロ将軍、中央司令部より更迭が正式決定されました。
本国への帰還が命じられています。」
ミハエルが眉をひそめる。
「どう言う事だ?責任ならスレイプニルを失った私にあるだろう!」
リベイロは苦笑し、息巻くミハエルを抑えた。
「構わんよ。正直、この戦争から離れられるなら……救いだ。」
しかし、窓の外――激戦へ向かう補給列車を見て、寂しげに呟く。
「……だがな……この島はもっと激しく燃えるだろうな。
ファフナー君、私はもう指揮に戻れん。あとは君に託したい。」
リベイロは穏やかな笑みを浮かべていた。
そこへ、士官が入室する。
「ハインライン大佐がお見えです。」
ハインラインは入るなり深々と頭を下げた。
「リベイロ。すまない。私が愚かでなければ貴官まで巻き込む事は無かったろうに…」
リベイロは笑顔で応える。
「本国の連中は、弱腰だと決めつけた“平和主義者”を排除したいだけさ。
貴官が”本来のハインライン”に戻ってくれただけでも、良しとしたい。」
リベイロの言葉にハインラインは涙がにじむ。
「……本当に愚かな戦争だ。必ず終わらせねばならん。」
リベイロはミハエルを見つめ、ハインラインに伝える。
「ならば、我々が出来る事はこの若き士官に平和への願いを託し、協力するより他あるまい。」
「ファフナー君。苦しい戦いが続くが、君に平和を託したい。よろしく頼む。」
ミハエルは胸に手を当て、強い決意で答えた。
「……お二人の願い、必ず果たします。」
胸の奥で、熱い誓いが炎を上げる。
(――この島の炎を、必ず終わらせる。)
戦争は続く。
しかし、平和を願う想いは、若き魂へ確かに継承された。




