第40話「南部戦線、赤い影の集団」
ーーケアン基地・統合作戦会議室。
オセリス大佐、ジョシュ・サンダース中佐、ダグラス大尉ら幹部が卓上の作戦地図を囲む。
南部森林地帯には、赤いマーカーが無数に滲むように配置されていた。
「森林地帯の地雷敷設、完了しました。警戒ドローンも配置済みです。」
サンダースが報告すると、オセリスは静かに頷く。
ダグラスが腕を組んだまま低く言う。
「問題は、その後だな。」
「ダグラス。レッドホーン隊が要であることは、もう言うまい。」
オセリスの口調は平静だが、確信を帯びている。
「……ああ。俺たち次第で全戦線の行方が変わる。」
ダグラスは短く返し、口髭を撫でた。
「もちろんお前たちの働きが肝心だがな…」
そう言いながら、オセリスが整備班に確認する。
「ペイントは完了したか?」
「はい、ご命令どおり、全ACEをレッドホーン隊仕様に塗装済みです。」
ダグラスは思わず立ち上がった。
「全部隊をレッドホーンに? 俺たちの看板を安売りされちゃ困るな。」
やや食ってかかるダグラスを、オセリスは片手で制した。
「まあ聞け。ホワイトファング隊と同様、お前たちの名も敵に知れ渡っているだろう。赤いACEはそれだけで恐怖になる。
そして、口角をわずかに上げる。
「ならば利用するだけだ。全ACEをレッドホーンに統一し、敵にとって”神出鬼没のレッドホーン隊”を生み出す。
また、錯覚して総勢二十一体のレッドホーンに見えれば、敵の動揺は計り知れん。足は止まり、時間が稼げる。」
ダグラスが口ひげを撫でながらにやけた。
「俺たちの名声が、戦力になるってわけか。悪くない。」
「さらに北部がホワイトファング隊の働きで押し返せれば、南部に戦力を集められる。逆転も夢ではない」
オセリスは淡々と告げたが、その瞳は燃えていた。
「では、ダグラス。作戦の詳細だが――」
モニターに、密林を覆う赤い点群が光った。
ーー同時刻・バーミッカム基地・エウロパ軍作戦本部。
アドリア・ハインライン大佐と、ダリオ・コンティ中佐を中心に作戦会議が進む。
巨大スクリーンには、荒々しい地形の航空写真が映し出されていた。
ハインライン大佐は指先で机を軽く叩きつつ言った。
「正直、南部は指揮官リベイロが乗り気でない。期待はできんぞ、コンティ。」
「それでも大佐は、攻略可能と見ておられる?」
コンティの静かな声に、復讐の色が滲む。
ハインラインはモニター上にカーソルを走らせながら言う。
「無論だ。まず森林地帯に大規模砲撃を加え、揺さぶる。
続いてグリフォン中隊による上空警戒と精密爆撃。
その後、地上部隊を小隊ごとに分散し、連携を維持しながら突破する。
教科書的だが、物量差がある以上、最も確実だ。」
「だが、北部が崩れれば、コロンゴ軍は戦力を南へ回す。それだけが厄介だ。」
ハインラインは言いながら、駒を置き換えた。
コンティは口角を上げる。
「ならば最初から包囲に全力を――」
「焦るな。」
ハインラインは静かに遮った。
「ファフナーとスレイプニルは優秀だ。無駄な犠牲は避けたい。まずは北部の推移を見ながら進む。」
コンティは渋々うなずく。
「では、先陣は私に。」
「任せる。」
ハインラインは無表情で頷いた。
ーー南部森林地帯。
バーミッカム基地から轟音が響き渡った。
砲撃の雨が森に降り注ぎ、大地が跳ね、木々が吹き飛ぶ。
大地には無数の穴。
しかし――敵影は、無い。
次にグリフォン中隊が上空を旋回した。
レーザー、熱源探知、可視光カメラによる徹底した索敵。
しかし、どれも反応は無かった。
「……おかしい。ACEの反応が一つもない。」
コンティは眉をひそめたが、前進を止める理由にはならなかった。
「全隊、進軍開始!」
先行大隊が小隊単位で散開し、地雷を処理しながら慎重に森へ進む。
兵士たちは息を殺しながらささやく。
「敵はどこにだ?」「静かすぎる……逆に怖ぇな。」
そのとき――
赤い影が横合いから飛び込んだ。
「なっ――!?」
閃光のような一撃。
赤いACEの突撃で小隊が一瞬で分断され、反撃の暇もなく壊滅する。
「敵ACEと遭遇!赤いACEだ!うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
戦域に悲鳴が満ちた。
コンティは叫ぶ。
「赤いACE……例の赤サイか! 全隊、連携を密に取れ!」
隊列再編を急ぐエウロパ軍は、逆に赤いACE達の奇襲を次々受ける。
「敵ACE!赤いACEだ!」
「待て、奴らは一個小隊じゃないのか?」
「こちらにも赤いACE! 速すぎる――ぐあっ!」
無線に断末魔が重なり、進軍は止まった。
「……敵影なしと報告が続いたはずだ……なのにこの数……?」
コンティは混乱し、叫ぶ。
「一時停止! グリフォン隊、再索敵!」
しかし、結果は――再び反応ゼロ。
コンティは混乱する。
「敵はレッドホーン隊一個だけ?だがこれだけの損害を奴らだけで成せるか?一体どうなってるんだ…」
見えない赤い影に恐怖し、前進速度は著しく落ちていた。
ーー一方同刻。コロンゴ軍サイド。
迷彩シートがACEの輪郭を消す。
動力を切り、穴の底で完全に沈黙するダグラスは、小さく漏らした。
「……見事な作戦だ、大佐。」
ーーー回想ーーーー
オセリスの声が蘇る。
「敵制空権下ではこちらが丸見えだ。ならば逆に“見せない”。
ACEは伏せてしまえば四メートルの巨人も目立たなくなる。
更にACEの利点は人間とほぼ同じ動作が可能な点だ。迷彩シートを自力で展開し、伏せて待つ。
敵が射程に入った瞬間だけ飛び出し、一撃離脱。
また次の伏点に戻って息を潜める――。
現れる敵はレッドホーンばかり。
敵には”何がどこに何機いるか”分からないはずだ。」
ダグラスは笑いと頬の髭をさする。
「なるほど、これが神出鬼没のレッドホーンの正体てわけか。」
ーーーーーーーーーー
敵ACEの影を視界に捉えた瞬間、ダグラスは動力を最大出力に跳ね上げた。
赤い巨体が穴から飛び出す。
だが、戦況は変わり始めていた。
ハインラインの元に北部攻略失敗の報がもたらされたのだ。




