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既視感あるくない?  作者: むぅむぅ星人


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第30話「揺らぐ均衡」

――ホワイトファング隊が出撃している一方で、ケアン基地。


基地内は、臨時司令となった副指令ジョシュ・サンダース中佐の指揮で慌ただしく動いていた。


「まもなく降伏勧告期限ですが――」

「繰り返し、断固たる抗戦の意志を伝えろ。」

サンダースは不安気に答えた。

「陽電子砲に対抗する手段がない以上、基地防衛は不可能なんだ。

 オセリス大佐の提案どおり、基地を放棄し西部への再編を行う。」


若い士官が思わず叫ぶ。

「き、基地を放棄……ですか!?」


サンダースは地図に目を落としたまま頷く。

「陽電子砲を前に基地に籠れば、無駄死にだろ。

 だが撤退は敗北ではない。こちらが主導権を握るための再配置するんだ。」


彼は指で地図上の線をなぞる。

「撤退部隊は西方高地に展開。ノースブリッジ防衛隊と合流し、

 敵上陸部隊を中央から挟撃する――“動く防衛線”とする。」


副官がためらいがちに問う。

「ノースブリッジも放棄するのですか?」


「オセリス大佐の見立てでは、現地民はどちらの支配にも拘っていない。

 彼らの安全が保障されるなら、我々でもエウロパでも構わん。

 今は、戦力を分散することこそが危険だ。」


参謀がうなずき、ホログラム地図を更新する。

「撤退し西へ展開する我々、そしてノースブリッジ防衛軍――

 この二軍でゲリラ戦を仕掛けつつ、敵を挟み撃ちにする……これが大佐の計画だ。」


サンダースは静かに締めくくった。

「北部が崩れた今、我々の目的は“戦線の維持”だ。」


会議室に重苦しい沈黙が落ちる。

だが、誰の顔にも怯えはなかった。



――同時刻、エウロパ連合艦隊旗艦〈ミドガルズオルム〉。


「降伏勧告の期限を過ぎました。――陽電子砲、発射準備完了です!」

「よし、発射。」


デュラン中将の冷静な声が響く。

しかし、次の瞬間――。


「出力異常! 冷却反応が停止、臨界値を超えます!」

「なに!?」


轟音と共に艦体が大きく震え、艦橋の照明が一斉に落ちた。

警報音がこだまする。


「陽電子砲暴発! 第七区画、爆発炎上! 主機能、全損!」

「損傷制御班、急げ!」


――しかし応答はない。


艦橋に沈黙が訪れる。

デュランは椅子の肘掛けを強く握りしめ、低く呟いた。

「……虎の子の陽電子砲が使えんのではな……」


ミハエル少佐が前に出る。

「提督、作戦を中止に?」

参謀がすかさず反論した。

「まだ艦砲射撃で制圧は可能です!」


二人の声が交錯する中、デュランは静かに命じた。

「旗艦を空母〈ガロア〉へ移す。ミドガルズオルムは帰還せよ。これでは本国に戻るより仕方ない。

 作戦は続行――艦砲射撃の後、第一上陸大隊を送る。」


「しかし――!」ミハエルが抗議しかけたが、デュランは首を振った。

「降伏勧告の時点で匙は投げられたのだ。君にはグリフォンで強行偵察を頼みたい。」


ミハエルはデュランの意図を察した。

「なるほど了解しました。では艦砲射撃後、偵察行動に移ります。」



――再びケアン基地。


上空を、艦砲射撃が襲う

だが、すでに基地は無人。

爆煙の中、サンダース中佐は遠くを見つめながら呟いた。

「……陽電子砲が撃たれなかった? 何があった?」


参謀が促す。

「一度、オセリス大佐に確認を。」

「あぁ、そうだな。そうしよう。」



――南部戦線・ガンドラ基地近郊。


霧の中、ホワイトファング隊が待機する。

やがてジープ数台が現れ、ハインライン大佐が姿を見せた。


「ご足労感謝する、オセリス大佐。」

「軽装とは意思表示か。」

「まぁそう考えて欲しい。」


互いに短い挨拶を交わし、ハインラインが口火を切る。

「率直に言おう。――停戦を申し込みたい。」


「それはエウロパの総意か?」

「いや、違う。だが、こんな戦争に意味はない!」

ハインラインの声が震える。

「この島の民は、どちらの旗にも興味はない。ただ平穏を望んでいるだけだ!」


沈黙ののち、オセリスが低く答えた。

「条件がある。

 一、タロン市のバルディーニ残党を撤退させ、貴官の部隊と交代させること。

 二、戦線をタロン市付近まで後退させ、民間被害を最小限に抑えること。」


ハインラインは苦笑し、やがて頷いた。

「……随分難題だな……わかった。それで民が救われるなら、飲もう。」


握手が交わされる。南部戦線は静かに停戦へ向けて動き出した。



――帰路。

オセリスの横顔は硬く、表情を読ませない。


「大佐……ハインライン大佐は本気でした。もっと誠実に応じてもよかったのでは?」

キースの言葉に、オセリスは冷ややかに返す。

「交渉に情を挟むな。プライスもハインラインも理想を求めすぎた。

 結果、プライスは命を落とし、ハインラインもいずれそうなる。」


「……大佐は二人を利用しているのですか?」

「結果論だ。軍とはそういうものだ。」


レイが苛立ちを隠せず声を荒げる。

「あんた、そんな目でプライス中佐やハインライン大佐を見てたのかよ。あんたの正義はなんだよ?!」

オセリスの瞳が鋭く光った。

「正義?戦場での最適解に義だの個人の感情など要らん。」


ミリィは小さく呟く。

「大佐の考えが分かりません…」

「お前たちが俺を知る必要はない。俺がお前たちを動かすんだからな。」


その時、通信が入る。

『オセリス大佐、サンダースです! 陽電子砲は発射されず、艦砲射撃のみです。

 このまま計画通りでよろしいですか?』


オセリスは短く笑った。

「ほぅ。陽電子砲は撃たれなかったのか。」


その笑みを見て、キースたちは言葉を失った。


指導者としてのオセリス、冷酷無比な軍人のオセリス、二つのオセリス。

――この男は、何を見据えているのか。


霧の中に消えていくオセリスのグラディウスの姿が、

やがて“戦場の均衡”が崩れゆく予兆のように揺れていた。

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