第29話「大佐の教え」
――バーミッカム基地。
司令部会議室に残る幹部たちを前に、オセリス大佐が静かに口を開いた。
「クタン司令、プライス副指令と続けて偉大な指導者を失った。だが――ここで止まるわけにはいかん。
よって、このジャック・オセリスが臨時司令として基地を預かる。皆の協力を頼む。」
会議室に一斉に敬礼が起こる。
「大佐であれば、両名の意志を継いでくださると信じています。」
幹部の言葉に、オセリスは深く頷いた。
その時、通信士が駆け込む。
「司令、エウロパ軍ガンドラ基地より直接通信です!」
「直接だと? ……繋げ。」
モニターに映ったのは、アドリア・ハインライン大佐の姿だった。
「こちらエウロパ軍・ガンドラ基地司令、アドリア・ハインライン大佐。貴官が現司令か?」
「そうだ。ジャック・オセリス大佐だ。単刀直入に話してくれ。」
「了解した。貴基地の現状は危機的と見ている。北部からの圧迫も強いだろう。」
「降伏勧告か?」
「いや、そうではない。今話したいのは通信傍受も避けたい案件だ。
この島の未来に関わる重要な提案がある。今から送る座標で会いたい。」
「それが罠ではない保証は?」
「保証はできん。だが、話さねばこの島は終わる。」
オセリスは数秒の沈黙の後、短く答えた。
「……いいだろう。ホワイトファング隊を護衛に付ける。」
「貴官の賢明な判断に感謝する。」
通信が切れる。
「ホワイトファング隊を呼べ。」
――ブリーフィングルーム。
オセリスはキースたちに経緯を説明した。
「ハインライン大佐は反戦派。プライス中佐もその名を挙げていた。これは彼女の意志の継承かもしれん。」
「中佐の“和平構想”の続き……」ミリィが呟く。
「だが、油断はできない。エウロパにも強硬派がいる。交渉には“力”が要る。」
「……ACEで行くのですね。」
「そうだ。強硬な姿勢も交渉の一手だ。俺もACEで出る。」
「大佐も!?」
「ただお前たちを見ていたわけでは無い。会敵したら俺も加わる。」
キースたちの表情に緊張と誇りが混じる。
「プライス中佐の遺志……俺たちで繋ぎます。」
「頼もしいな。では明朝、出撃だ。」
――ヴァレン峠。
灰色の霧が立ち込める中、ホワイトファング隊とオセリスのグラディウスが進む。
「ヴァレン峠ルート…って、きっついなぁ。」レイは愚痴るが
「仕方ないわ。中央道まで敵哨戒が張ってるんから。」ミリィが即答した。
「全機停止。」
突然の指示に、全員が慌てる。
「敵か!?」
「落ち着け、キース。」
オセリスの声は静かだった。
「お前は成長した。だが指揮官は冷静でなければならん。感情で判断すれば、戦は“喧嘩”になるだけだ。」
キースは息を呑んだ。
「……戦場を俯瞰しろ、か。」
「そうだ。戦争とは“損害を最小にして勝つ技術”だ。
俺も指揮を執るが、現場ではお前の考えを優先しろ。
心を燃やしながら、頭は氷のように冷たくしろ。」
短い沈黙の後、レイが苦笑した。
「キースは大変だな。難しい事は任せて俺は狙撃だけでやるわ。」
「バカモン!隊長を支えるのがチームだろうが!」
「す、すみません!」
ミリィが笑みを浮かべる。
「チーム全員で助け合う――それがホワイトファングですね。」
「その通りだ。」
オセリスは満足げに頷いた。
――数分後/国境付近。
「指定座標までもうすぐです。」
「時間もある。お前たちに“見せたいもの”がある。ついてこい。」
オセリスは突然進路を変えた。
「大佐!そこは敵哨戒区です!」ミリィが制止するが
「見ていろ」とオセリスは歩を進める。
霧の向こうに、エウロパ軍のインプ2機とゴブリン4機が警戒していた。
その前に、オセリスのグラディウスが悠然と姿を現す。
「敵影確認!……狼付き!?」
哨戒部隊は一瞬で青ざめ、通信を飛ばす。
「撤退!狼付きACE部隊と遭遇、撤退だ!」
戦闘もせず逃げ出す敵を見て、レイが呆れた。
「……え、逃げた?」
キースは気づく。
「ホワイトファングのエンブレムを見たんだ。」
「そう。お前たちは先の戦闘で敵エースのファフナーを撃退し、敵将バルディーニを討った。
今やお前たちは“恐れられる存在”になった。
そして、それはこう言う使い方が出来る。」
オセリスは通信を開く。
「こちらオセリス。北東防衛線をホワイトファングで撹乱させた。これで防衛線が再編されるだろう。
間延びした南西側の守備が薄くなるはずだ。残存ACEを中心に二個中隊を編成し可能な限り切り崩してやれ。」
『了解。すぐ動かします。』
通信を切り、オセリスは微笑んだ。
「これが、お前たちの“新たな力”だ。」
「俺たちの姿が、敵の士気を折る……」
「味方には勇気を、敵には恐怖を。それがエース部隊の存在価値だ。覚えておけ。」
キースは力強く頷いた。
「はい、大佐――ホワイトファングの名に恥じぬように!」
霧の中、狼の紋章が風に翻る。
それはもう、ただの部隊章ではなかった。
「ホワイトファング」――その名は、戦場に再び響こうとしていた。




