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既視感あるくない?  作者: むぅむぅ星人


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第20話「渓谷を望む」

――国境線東部、エウロパ軍南部前線ガンドラ基地。


ミハエル少佐がプロト・ナイトメアとともに降り立った。

「随分、慌ただしいですね。」

「一個旅団による侵攻作戦だからな。ファフナー少佐には大いに期待しているよ。」

迎えに出たガンドラ基地司令ハインライン大佐はにこやかに応じるが、ミハエルは呆れた顔をする。

「一個旅団での侵攻?」

「ああ。島内の戦力を相当数集めた決戦になると聞いている。少佐が知らなかったとは…」

「結局、私は実験台であり一戦力という扱いか。作戦概要も知らされないわけだ。」


ミハエルの皮肉に、ハインラインは合点しながら同情した。

「その上、総指揮はマルコ・バルディーニ少将だ。」

「あの猪突型の…」

「まぁ、状況次第だが。敵ACE増援は確認しているものの、総数は八十に満たないと報告だ。打開型の将が適任だ。」

「本来なら大佐のお役目でしょうに…」

「私も軍人だが、流血は望まぬ性分だ。君も将軍にこき使われぬよう気をつけるんだな。」

「お気遣い、感謝します。」

敬礼して去ると、ミハエルは周囲の喧噪を眺めて独り言のようにつぶやいた。

「本国は侵略戦争を始めるつもりなのか…愚かな…」



――タロン市より東方・タロン渓谷西岸。


朝霧が漂い、乾いた風が瓦礫の上を撫でていく。

タロン奪還戦から数日。コロンゴ軍は市街を奪還した勢いのまま、渓谷地帯へと前線を移動していた。

「……ここが新しい防衛線か。」

ホワイトファング隊のACEが岩肌の上に並ぶ。

深く切り裂かれた渓谷は、天然の防壁のように両軍を隔てていた。

幅およそ二キロ、底は濃い霧に覆われ、谷底の様子は見えない。


工兵たちが鉄板を溶接し、簡易陣地を築いている。

その中央で、オセリス大佐が地図を睨んでいた。

「敵はまだタロン市街東端に残留しているようだ。」

「接近中の旅団と合流して再編するつもりでしょう。」

リュウの報告に、オセリスは小さく頷いた。


キースが地図を見下ろす。

「ここで止めないと……もう後がない、ってことか。」

「そうだ。ここを抜かれれば、国境線はほぼ無防備になる。」

オセリスの声は静かだが、その眼光には緊張が宿っていた。

「今のうちに数を減らせないものか? ACEも増えたんだし。」

「旅団が来ると分かっている以上、下手に消耗はできないよ。」

レイの楽観に、ミリィは冷静に釘を刺す。

「でもよ。パイロットに不安があるは確かだぜ。実戦投入でどうなるか分からないだろ。」

「乱戦になれば同調率も落ちる。訓練どおりにはいかないだろう。」

レイの心配にキースも同意する。

「そうだな。ACE部隊だけでも戦闘訓練がてら哨戒任務に当たらせるのも悪くない。総司令のクタン大佐に進言しよう。」

キース達の不安に応えてオセリスは、クタン大佐に増援ACE三部隊に夜間哨戒任務を与えた。



――同夜。

渓谷を見下ろす観測所。

増援ACE部隊の一人が暗視スコープを覗き込み、無線に小声で報告を入れる。

「対岸に動きあり。小規模な機影、三……いや、四か。」

「残留部隊の偵察かも。」


通信を聞きながらキースは夜空を見上げた。星も見えず、霧が空を覆っている。


「……妙だな。退いたようで退いていない。」

「油断させて谷を越える気だろう。」

その瞬間、遠くで閃光が走った。


――轟音。

砲撃が渓谷を越えて着弾する。地面が震え、土煙が舞い上がる。


「敵砲撃! 渓谷東岸より迫撃弾!」

通信士の叫びに、陣地が一斉に動き出す。

「うぉぉ!敵か?どこだ?」

「グラディウスの実力見せてやるぜ!」

ACEパイロット隊は息巻いている。

「全ACE、後退して待避! 工兵は遮蔽壕へ!」

キースが思わず通信に割って入る。

「君はオセリス大佐の部隊だろうが!オブザーバーとして参加させているが、指示は我々が行う。」

「……」

防衛戦司令デミトリー・クタン大佐にシッセキされ、キースも委縮する。

「君らの活躍はバーミッカムで聞いてはいるが、あくまで君らは遊撃隊として我々の指揮下にある事を忘れるな。」

「はっ、失礼しました。」


砲撃は短時間で止んだ。

再び静けさが訪れる。


「……なんだ。何も無しか。位置探知か?やりやがって。」

「本格的な攻撃は、まだ来ていないって事だな。」

「哨戒終了。全機帰投せよ。」


どことなく楽観的な空気が戻る中、キースは胸の内で違和感を拭えなかった。

「リュウの言う“戦争の本質”って、やっぱり難題だな…」



――ガンドラ基地より数キロ西。エウロパ軍臨時司令部。


夜の街に、白い照明が冷たく輝く。

渓谷を全貌出来る位置に、エウロパ旅団の指揮所がある。


作戦卓の前で、ミハエル少佐は地図を見つめていた。

渓谷地帯を示すホログラム上には、コロンゴ軍陣地の分布が赤く浮かぶ。


「谷を越えるには、橋梁の再建が必要です。工兵隊に時間を。」

ミハエルはバルディーニ少将に進言するが、首を大きく横に振る。

「時間は与えん!渓谷の向こうで、奴らが待ち構えていようが構わん。ACEが既存兵器など相手にならんのは証明済みだ。」

「しかし、敵ACEの増援の報告もあります。確実に進軍し、被害を抑えるべきでは。」

「そのACEもお前が撃破寸前まで追いやったんだろ?お前はそれを討ちに来たんだろ。」

「それは…」

「俺は本国からサッサと島内を制圧しろと命令されてるんだ。技術局の人間が一々口を挟むな!」

一々確ではある為、ミハエルも反論しようがなかった。

「このままでは両軍総力戦だ…何故殺し合う事を望むんだ…」



――翌朝。


濃霧が晴れ、朝日が谷を照らす。

対岸に広がるエウロパ軍陣地には、無数のACEが並んでいた。


「……来るぞ。」

オセリスの声に、ホワイトファング隊はモニターを見上げる。

霧の向こうで、青白いスラスター光がゆっくりと動く。


「渓谷を越えてくる気か……」

キースは息を呑んだ。

クタン大佐が短く言う。

「ここが防衛の最前線だ。――絶対に通すな。」


ACEの起動音が一斉に響く。

霧の中で、コロンゴ軍とエウロパ軍の両陣地が光を放つ。


静寂の中、

戦場は、再び息を吹き返そうとしていた。

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