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既視感あるくない?  作者: むぅむぅ星人


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第19話「戦場の温度差」

――エウロパ軍 前線ルーティア基地・司令棟。


冷たい蛍光灯が、鉄骨の壁を無機質に照らしていた。

通信端末の前で、ミハエル少佐はリヒャルト少将と対面している。


「本国帰還の申請か……」

「戦果は挙げました。私はあくまで閣下直属のテストパイロットです。承認を頂けませんか?」

リヒャルトは難しい顔で書面を見下ろす。

「まず、ゴブリンの再調整だが……上層部の決定は“限定的”だ。指揮官機と一部ベテラン用だけを改修して、“ホブ・ゴブリン”として再配備するらしい。」

「馬鹿な!前線の兵を何だと思っている!」

「まったくだ。政治家共は兵を道具としか見ていない。」

「自分たちは安全な場所から命令を下すだけだ……戦場の現実なんて知りもしないくせに!」

「奴らにとって“戦争”は外交の延長線だ。だからこそ、温度差が生まれる。」

リヒャルトの声には苦みが滲む。

「それに――君を前線に留めるよう指示が来ている。」

「……どういうことです?」

「前回のノースブリッジ戦での戦果が、逆に仇になった。上層部は君の戦闘データを高く評価している。『ナイトメアの調整は実戦で完了せよ』……だそうだ。」

「私を実験台にするつもりか!」

ミハエルは低く唸るように言った。

「そしてもう一つ。タロン市街は再び奪われた。インプが君の言う”狼付き”に撃退されたそうだ。」

ミハエルの瞳が鋭く光る。

「あの狼が……。やはりあの時、撃っておくべきだった。」

一拍の沈黙の後、ミハエルは姿勢を正す。

「了解しました。ならばタロンへ向かいます。今度こそ――あの狼を討ちます。」

通信が切れる。

静寂の中、窓の外では曇天の空に灰色の煙が流れていた。

「……何のための戦争だ? それでも命じられたなら、せめて仲間だけは守る。」

彼は小さく呟き、背を向けた。



――コロンゴ側・タロン市街。


瓦礫の山を避けながら、トラックがひび割れた舗道を進む。

ホワイトファング隊が復興支援任務として再びタロンに入っていた。


「……思ったより静かだな。」

キースが呟く。

街の人々は、平穏を取り戻したかのように見えた。

だが、その視線はどこか冷たい。

「せっかく街を取り返したのによぉ……感謝の一言もなしってか?」

レイが舌打ちする。

「彼らにとっては、戦争そのものが“迷惑”なのよ。コロンゴもエウロパも関係なかったんだもの。」

ミリィの現実的な言葉に、レイは黙り込んだ。


ふと、一人の少女がACEに近づく。

しかし母親が慌てて腕を引き寄せた。

「この人たちが……街を壊したの?」

少女の問いに、母は何も答えず、ただ視線を逸らした。

その沈黙が、何よりも重かった。


ミリィが小声で呟く。

「……私たち、解放者じゃなくて“破壊者”に見えてるのかも。」

キースは拳を握りしめた。

「守ったつもりが、壊していたのか……」

怒りも悲しみも入り混じり、言葉が出なかった。



――タロン中央病院。


包帯を巻かれた市民。運び込まれる負傷者。

ACEの残骸に押し潰された家から救出された少年が、ベッドで虚ろに天井を見ている。

「家族は……巻き添えで。」

看護師の言葉に、キースは立ち尽くした。


窓の外には、自分たちのACEが無言で並んでいる。

「……俺たちは、何のために戦ってるんだ……」

その問いに、誰も答えられなかった。


「お前たちは“ヒーローごっこ”をするために軍人になったのか?」

いつの間にか背後に立っていたオセリス大佐が、低く言う。

「民間被害は戦場では避けられん。だが、心まで折れたら本当に終わりだ。強くあれ。」

三人は姿勢を正し、静かに敬礼した。



――タロン司令部。


報告が次々と入る。

「レッドホーン隊に続き、ACE部隊が続々とピースブリタニカに集結中!」

「それでも総数七十二機……数では圧倒的に不利ですね。」

リュウが分析する。

「それでもやるしかない!ここを失えば、ピースブリタニカは終わりだ!」

キースが熱く叫ぶ。

「中尉、その情熱は貴重ですが、冷静さも忘れないで下さい。隊長である貴方が、全体を見なければなりません。」

「……分かってるよ。」

キースは息を吐く。

リュウが穏やかに言葉を重ねた。

「大佐が貴方を厳しいのは、期待しているからです。どうか自信は失わないで。貴方には――“戦場”だけでなく、“戦争”の本質を見抜く目があります。」

「戦争の本質、か……。難しいな。でも……ありがとう。」

キースはわずかに笑い、リュウも頷いた。


そこへ、通信士が叫ぶ。

「――偵察機より報告! エウロパ軍、大規模侵攻準備中! 一個旅団規模です!」

オセリスの表情が険しくなる。

「……来たか。今度は市街戦では済まん。全面戦争になるぞ。」

重苦しい沈黙が流れる。

「旅団規模って……もう侵攻作戦じゃねぇか。」

レイが呟く。

「戦争は……止まらないのね。」

ミリィの声が震えた。

キースはただ黙って前を見つめる。



――タロン郊外・夕暮れ。


沈みゆく陽が、ACEの装甲を赤く染めていた。

瓦礫に沈む街を背に、ホワイトファング隊の機体が静かに並ぶ。


「……リュウの言っていた“戦争の本質”。

 俺に何が出来る? 今は――戦うことしかできない。」


ACEの起動音が静寂を破り、灰色の空に響き渡る。

その音は、遠い戦場の彼方へと消えていった。

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