第1話「人と繋がる鉄巨人」
―――コロンゴ西部、レッドクリーク試験場。
砂漠のように乾いた大地を切り裂くエンジン音が響き渡る。全高およそ4メートルの人型試作機が、模擬障害物を越えて着地した。衝撃吸収と同時に滑らかに体勢を整える。
「……おお、決まった!イェス!」
コックピットの中で、キース・ウォレン中尉は思わずガッツポーズを取る。
管制室から歓声が飛ぶ。
「ウォレン中尉、着地衝撃値クリア!完璧だ、次は複合モーションに入れ!」
しかし、隣では別の機体が派手に転倒していた。レイノルド(愛称レイ)・ヒューマン少尉の機体だ。
「またキースが一番かよ……ホントに同じモン乗ってんのか?」
キースは呆れた声を返す。
「レイ、お前さぁ、またマニュアル無視してるだろ。そんなだからそーゆーマヌケな結果になるんだよ。」
レイは跳ね起きて、決めポーズだけはきっちり決める。
「細けぇこと言うなって。こいつは“ニューギニア”っての積んでんだろ?感覚でやるんだよ、か・ん・か・く!」
その後方では、ミリィ・カーティス少尉の機体が瓦礫撤去作業をしていた。
その動きはまるで人の様にスムーズだ。
「NuGearです、少尉。あとゲーム感覚でやらないでください、中尉も。」
「堅いなぁ、ミリィは。」
ふざける二人をよそに、ミリィの眉間にはうっすらと疲労が見えた。
次の瞬間、警告灯が赤く点滅する。
「えっ……!? 二人とも離れて!」
ミリィ機が突如制御不能になり、暴れだした。瓦礫を次々と投げ飛ばし、周囲の障害物を薙ぎ払う。
「ミリィ!NuGearとの接続を切れ!リセット!」
「待って、効かない!」
キースは咄嗟に機体を走らせ、暴れるミリィ機が放つ瓦礫をまるで自分の身体のように避け、背後から押さえ込む。
「システム停止!」
暴れる機体がようやく静止する。場が一瞬、凍りついた。
「……ふぅ、止まったか。」
ミリィが小さく息をつく。
「すみません。繰り返し作業のストレスがかかったからかも知れません。」
一方、管制官からは興奮した声が響いた。
「おいおい、今の同調率見たか!?ウォレン、ありえねぇ数値が出てるぞ!理論上オーバーしてる、こんなの初めて見た!」
訓練場の見学席に立っていたボビー・ボンド中佐は、冷たい目でその様子を見下ろし鼻を鳴らした。
「はん、何がNuGearだ。こんな不安定なもん、実戦じゃ真っ先にスクラップだな。」
――――
訓練後、休憩室。
レイが端末を弄りながら人気歌手オリビア・ハレンの最新ライブ映像を映し出す。
「見ろよ、今日のドレスやばくね?オリビア様、マジ天使。」
ミリィは呆れたようにため息をつく。
「少尉、本当に軍人ですか?」
「軍人だって推し活したっていいだろ!」
キースはコーヒーを飲みながら口を開く。
「お前ら、少しは真面目にしろ。ボンド中佐にNuGearの価値を証明するのが俺たちの役目だろ。」
そこへボンド中佐が入ってきた。
「おい若造ども、浮かれてる暇があったら次の試験準備をしろ。お遊戯プログラムを眺めてる時間は、俺にはねぇんだ。」
キースは椅子から立ち上がり、まっすぐに言葉を返す。
「中佐、確かに今日のトラブルはまだ課題ですが、俺たちは制御できました。NuGearはもっと先に行ける。俺たち次第で、戦場じゃなく人を守る力にもなるはずです!」
ボンドは鼻で笑って背を向ける。
「結果がすべてだ。悔しいなら結果で俺を黙らせろ。」
――――
夕暮れ時、基地の屋上。
赤い西日が三人の影を長く伸ばしていた。
「しっかし、動かせば動かすほど戦場向けじゃねえか、あの機体」
レイが空を見上げて言う。
「このまま戦争に転用されるんでしょうか。」
ミリィは少し不安げに呟く。
キースはしばらく考え、ゆっくり言葉を紡いだ。
「ハーリング大統領もクライン首相も穏健派だ。近々ある首脳会談も軍縮が議題だって聞いてる。きっと平和は続くさ。……俺たちの仕事は国民を守ること。人は傷つけない。」
「だな。まずはボンドの鼻を明かしてやるぜ。次の射撃テスト、絶対勝つ!」
レイが肩を叩く。
「おう、負けねえぞ。何か賭けるか?」
「だからテストをゲームにしないでください!」
ミリィが呆れ声を上げるが、口元はかすかに緩んでいた。
三人の笑い声が風に溶けていく。ミリィはそんな二人を少し羨ましげに見つめていた。
彼女も――英雄の父の影に縛られない、ただの“仲間”として、この時間を少しでも長く味わいたかった。




