第10話「新たなる上官」
ーーコロンゴ大統領執務室。政府主要閣僚が集う中、ターナー大統領が重い口を開く。
「では皆の意見に相違は無いと言う事でいいな。これで後戻りは出来なくなる。」
閣僚たちは黙って頷く。決定を確認した大統領は、重い足取りで記者会見室へ向かった。
ーーニューススタジオ。世界中が注視する。
「緊急速報です。本日13:00より、大統領から緊急メッセージがあると全メディアに向け発信されました。国民の皆様は必ず視聴いただくようお願いいたします。」
コロンゴ各地で、街頭の人々や国民の間に動揺の声が広がる。
「また何か騒ぎになるのか…」
「今度こそ国が二分されるんじゃないか…」
ーーレッドクリーク基地。研究所より帰還したキース、レイ、ミリィが、基地メンバーに温かく迎えられる。
「おかえり、無事でよかった!」
「よくやった、さすがACEの看板部隊だな!」
ボンド中佐は得意げに三人を褒めたたえる。
「いやぁ、研究所での成果も高く評価されてる。まさに我が基地の誇りだ。俺の目に狂いは無かったな!はっはっはっ。」
三人は笑顔で互いに目を合わせる。
しかしミリィはどこか落ち着かない様子で呟く。
「でも…13:00に大統領は何を言うんだろう…」
ーー13:00、基地内に集まった隊員たち。大型モニターにターナー大統領が映し出される。
「国民の皆様、本日は緊急メッセージをご覧いただきありがとうございます。先日、ハーリング大統領の安否に関する情報が錯綜し、国民の皆様に大きな混乱を招いてしまったことを、まずお詫び申し上げます。
この混乱を受け、国民の総意を尊重し、国内混乱の沈静化を図るため、国内にて『開戦・反戦』の国民投票を実施することといたしました。
投票は2週間後に行い、皆様の意思を尊重した決定を下したいと思います。」
基地内には緊張とざわめきが走る。
「戦争? そんなバカな…」
「いや、国民の意思に任せるなら、これは仕方ないだろう。」
「でも、最前線に俺たちの仲間を送る気か!」
開戦派と反戦派が言葉をぶつけ合い、隊員たちの表情は険しい。
拳を握りしめ、息を荒げる者もいれば、黙り込み俯く者もいる。
「いくら国民投票と言っても、現場に立つ俺たちには関係ない話じゃない…」
そんな声があちこちから漏れ聞こえる。
ボンド中佐は笑みをこぼす。
「開戦だ。間違いない。」
三人は混乱を避け、一端ブリーフィングルームを出る。
キースは窓の外、遠くエウロパの方向を見つめ、怒りを押し殺して静かに呟いた。
「開戦すればエウロパと戦う…そんな馬鹿な話があるか…!」
レイは掌に拳を叩きつけ、苛立ちをあらわにする。
「国民投票…結局、戦争を選ぶかどうかを、国民が決めるのかよ。無責任な大統領だな。」
ミリィは俯き、小さな声で呟く。
「基地のみんなも意見は分かれてる…一般の人たちはどうなんだろう…」
その背後では、中佐と数名の開戦派隊員が顔を突き合わせ、論争を続けていた。
「ここで立ち止まるわけにはいかない!」
「でも、血を流すのは俺たちなんだぞ!」
基地のざわめきの中で、キースが一喝した。
「俺たちは、やるべきことをやるしかない!…今は争ってる場合じゃないだろ!」
キースの言葉に、基地全体に、緊張と不安が混じった静寂が訪れた。
ーー国民投票メッセージより1週間後。レッドクリーク基地。
三人は再びボンド中佐から呼び出される。
ブリーフィングルームに集合すると、中佐の横に白髪のオールバック、黒いサングラスの男が立っていた。
中佐は言葉を選びつつ紹介する。
「あー、この方は…参謀本部から派遣された…」
男は割って入る。
「御託はいい。単刀直入に話す。俺はジャック・オセリス大佐だ。今後お前らの指揮を執る。お前らは本日より、参謀本部直属の第三機動軍特別ACE遊撃隊として編成される。以上。」
三人は言葉を失う。
キースがようやく口を開く。
「遊撃隊…とは?」
オセリスは冷たく答える。
「命令が下ればどこへでも行き、作戦を実行する部隊だ。それだけの権限も預かっている。」
中佐が調子に乗って割り込む。
「お前らは研究所での成果も高く評価されている。ACEの看板部隊になったんだぞ、光栄に思え!…それで大佐、彼らを育てた私の進退の方は…?」
オセリスは淡々と返す。
「そんなものは参謀本部へでも聞け。俺の知る所ではない。」
「あとホイワトファング隊だったか。その名は軍内でも通っているから使わせてもらう。」
さらに調子に乗った中佐を素っ気なくいなし、オセリスはキース達に初の司令を下す。
「早速だが、明朝よりバーミッカム基地へ向かう。」
ミリィが驚きの声を上げる。
「バーミッカム基地って、ピースブリタニカ島の…?」
オセリスは冷徹に言い放つ。
「当たり前だ。エウロパと国境線があるのはあそこしかない。お前達は常に最前線で働くことになる。これ以上の無駄話は不用だろう。以上、解散!」
三人は言葉を失い、基地内に重い緊張感が漂った。
ーー夜、静まった基地の廊下で、キースは遠くピースブリタニカの方向を見つめていた。
「ピースブリタニカ島…平和の象徴が、戦場になるかもしれないなんて…」
その声には、怒りよりも戸惑いが滲んでいた。
レイが壁にもたれ、腕を組む。
「でも、まだ決まったわけじゃない。みんながまともな判断をしてくれるなら、きっと、な。」
ミリィは小さく頷き、握りしめた手を見つめる。
「信じたいね…私たちの国が、まだ戦わない道を選べるって。」
キースは静かに息を吐いた。
「…そうだな。せめて、今はそれを信じよう。」
不安がるキース達を思ってレイが話題を変える。
「しっかし、ボンドのオッサンから解放されたかと思ったら、次は冷血漢を絵に描いたような鬼大佐かよ…」
ミリィもそれには受けて笑いながら返す。
「…っふふ。でも、あの人の目には何か熱いものが見えた気もするよ。私は信頼できる上官だと思うな。」
「って、まーた自分だけ優等生ってか。」
「そんなんじゃないよー。」
「大体、あいつサングラスしてたじゃねーか……」「えーでもー…」
二人の笑顔のやり取りを見ながら、キースはやはりピースブリタニカ島の事を想う。
ーー夜風が通路を抜け、三人の間を冷たく撫でていった。
不安の中に、わずかな希望の灯が揺れていた。




