8 名無しの姫と騎士の話2
「私なにかしましたか…?」
体を起こしてみると、狭い部屋の中に5人くらいの屈強な騎士がいる。
「詳しい事は後ほど。王宮にお連れした後に説明いたします。」
1番背が高い騎士が答えた。
夢だと思うことにしてもう一度布団をかぶろうとするが、彼は追い打ちをかける。
「荷物はお持ちします。馬車も用意しておりますので。」
ああ…逃げられないやつだ。
「失礼します。」
「え。」
その瞬間。持ち上げられた。肩にひょいっと担がれて、後ろから私の荷物を持った騎士が続く。
少女の体重とはいえ、小麦の袋みたいに担げるほど軽くはないのに。
階段を降りるたびに寝起きの頭がグラグラして眠気が覚めていく。
夢だと思いたいけど、これは夢じゃない。
そうして私は、王宮に着いてしまったのだった。
馬車を降りて絶句する。想像よりもお城が立派だ。
「場違いすぎる…せめて服を、いや寝ぐせだけでも…」
「早くお連れするようにとの命令ですので。」
「ええ…。」
いつもの上着を着る暇もなく、寝巻きだけの私はドナドナの牛状態で豪華な廊下を歩く。
「この先です。」
もう、どうにでもなっちゃえ…
◆◆◆
「そなた。名を名乗れ。」
この世の贅沢をぜんぶ詰め込んだような部屋で、そう尋ねるのは。
この国の王だ。
騎士に取り囲まれ、尋問のような状態にかなりヤバいと理解する。
さあどうしようか。死にはしないが、ちょっとまずい。
「名前は、昔…捨ててしまいました。」
「不敬だぞ!王の問いに答えろ!」
私を連れて来た人とは別の騎士が怒鳴る。
偽名を名乗るべきか?いや、バレたらもっと…
覚悟を決めて王を見上げる。しかし意外にも気分を害した様子はなかった。
「よいのだ。もしや…そなたは『名無しの姫』か。」
「そう、呼ばれることもあります。」
「そうか。実はな…礼がしたかったのだ。昨日は、我が愚息が世話になった。」
「ああ、街の…」
身分が高そうだとは思ったけどまさか王子とは。
もう何よりも安心した。やらかしたのかと思った。処刑されるかと…死なないけど。
「本当に感謝する。欲しいものはないか?金でも土地でもいい。」
前にも何度か、身分の高い人を助けたことがある。
国をまるごと1つ贈呈されそうになった時は驚いたな。大したことはしてないのに。
「お気になさらず。無事だったのなら何よりです。」
なかなか引き下がらない王との交渉の末。かなりの金額の謝礼と、ここに滞在する間の衣食住を得たのだった。
◆◆◆
その日中に城の来客用の部屋に案内された。
「何かあればお申し付けください。そして今朝の無礼、心からお詫び申し上げます。」
背の高い人―フィストさんは強引に私を拉致したことを謝った。
王には忠実だが、礼儀は欠かせない。見た目通りの誠実な人だ。
どうやら案内と護衛をかねて私につきっきりになってくれるらしい。
「今日のご予定は?」
「そうですね…この街を少し、歩いてみようと思っています。」
「案内いたします。」
街は本当に栄えていて、大きな噴水にレンガ造りの建物が並んでいた。
「こちらは街のシンボルである噴水です。」
「大きい…」
「こちらは――」
大きな街にはトラブルも多い。
ひったくりから溝に車輪を引っ掛けた馬車まで。
私の散歩はいつも結局、便利屋となるのであった。
昼食の時間を知らせるチャイムを聞いて、私は帰路につく。
「さすが、『名無しの姫』。まさか噂の炎魔法を直接見られる日が来るなんて。」
キラキラした目を向けられ、『師匠仕込みの手品です』とは言えずに話を逸らした。
「フィストさん達は、この街をいつも守っておられるんですよね。」
「ええ。主に見回りをしているだけですが。」
「あなた達がいればきっと、心強いでしょうね。存在だけで街を守ることができる。」
「光栄です。」
かの大魔法使いが、手品を魔法と呼んだように。
肩書は人々に安心感を与えるのだ。
「騎士様。この前はありがとうね。」
「騎士様だ!かっこいい!」
街を歩くと声をかけられるフィストさんは、きっと最高の騎士だ。
そんな人が従う王様もきっとすごい人に違いない。
「主を持つ、ってどんな感じなのかな…」
ふと考えていた事が漏れると、フィストさんは笑顔で答えた。
「私にとっては最高の名誉で、生きがいです。」
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