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7 名無しの姫と騎士の話

「ありがとうございます…。どうか、お名前をお聞かせください。」

「ごめんなさい、私、名前を捨てちゃったんです。」


ドラゴンとの戦いから20年が過った。


私は街の人からお礼としてもらったお金で人助けの旅を続けている。

商品は全部燃えたし、私は商売の知識がなかったから商人としてではなく、本当に人を助けてその謝礼で旅をするだけ。


20年経ってもなお、私の外見は10代半ばにしか見えなかった。

14歳で村を出てから数えると30年以上は経っているのに。


死なない。魔法もどきの手品ができる。老いない。人助けの経歴が長い。

それだけで私は本当にたくさんの人を助けられた。

決して腕っぷしは強くなかったけど、自分が傷つくことを恐れずに突っ込んでいけば大抵の問題は解決できるようだ。


「もしや、あなたは名無し姫様…」

「あの大魔法使いの仲間にいたという…いや、若く見える。何かの間違いだろう。」


図らずとも「大魔法使いの元仲間」というデコレーションと共に私の行動は

有名になっていく。「名無しの姫」かあ。名乗れなかっただけなのにね。


目立つのは好きじゃない。生まれた村の人たちに存在を知られるのが怖いから。

化物だと。村を出てから出会った人たちに知られるのが怖い。


だから私は大きなフード付きの上着を着て髪と目の銀色を隠している。

アミは元気かな?もう結婚して子どもがいたりするんだろうか。


◆◆◆


今日は大きな川のそばにある大きな街に来た。


行き先は特に決めていない。お金を払ってその辺りにいる商人の馬車に乗せてもらう。

その馬車の行き先に任せるのだ。


道路が整備されているのを見るとすいぶん栄えた街のようだ。

しかし。栄えた街ほど、裏には濃くてドロドロした影がうごめいているもの。

こういう街に来ると、私は最初に路地裏や貧民街といった『影』に足を運ぶ。


「おら金出せよ。お前金持ちのボンボンだろ?恵んでくれよ?なあ!」


建物の陰で、薄汚れた服を着た数人の男が幼い子どもを取り囲んでいる。

ほら、こういうのがいるから。


「その子を放してください。」

「なんだガキ?文句あんのか、ゴラ!」

「待て…上等な上着じゃねえか。よそ者か?わざわざ来てくれてありがとなぁ。」


ニタリとした笑みが粘っこくて気持ち悪い。

「はぁっ!」

師匠直伝、青い炎のミニバージョンを放つと全員あっさり逃げていく。

小物かよ。小物だね。


「ボク、大丈夫?」

「っ…」

彼らを見送り、残されて座り込んでいる子に近づくが怯えられてしまった。

まあ手から火を出すフードを被った不審者なのだから無理もない。


私はパサリとフードを脱いで手を差し出した。

「私は怖いことはしない。約束する。安全な所まで一緒に行こ?」



恐る恐る手を握ってくれた少年を眺めてみる。

5歳くらい…もうちょっと上か。平民のような服を着ているけど、全部が綺麗すぎる。

いいところのお坊ちゃまがお忍びで街に降りてきたってところか。

護衛はどこにいったのやら。


広い通りに出て、彼に道を訊きながら歩く。ここには初めて来たから。

「おねえちゃん、どうして髪の毛が白いの?」


打ち解けてきたのか少年はポツリとつぶやく。お、やっぱり気になるよね。


「実はこの前ね、とっても寒い所に行ったら髪の毛が凍っちゃって。そしたら白くなったの。」

嘘だけど。

「へえー。すごい!似合ってる!」

「ありがと。」


何度か仕方なくフードを取り、そのたびに色んな言い訳をしながら誤魔化した。

病気で、実はおばあちゃんで、ストレスがすごくて…

化物と。またそう言われたらと思うと怖かったのかもしれない。


「さ、気をつけて帰りな。」

街をパトロールする騎士たちのいる場所に彼を送り届けた。

騎士たちは少年を見るなり驚いていている。ちょっと身分が高いのかな。

こうやって無報酬のときも多い。

お礼のために助けているわけじゃないし、お金を稼ぐ方法はいくらでもある。


「ありがとう!おねえちゃん。」

「じゃあね。」


日が暮れてきたし今日は近くの宿に泊まろう。通りかかった屋台で肉の串焼きを買って、

小綺麗な宿があったので部屋を1つ取って休む。

死ななくてもお腹はすくし眠くなる。


◆◆◆


早朝だった。


ドンドンドンッ

ドアを叩く、というより殴る音で目が覚めた。

「!?」

勢いが凄くて怖い。こういう時は寝てるフリに限るね。

面倒くさい事になったら嫌だし、襲われても死なないし。


「失礼します。」

よし。めんどくさいことにならずに帰ってくれた…


「おはようございます。」

「!?」

入室の失礼します、な事があるのか。


ベッドの私を覗き込む大きな身体の騎士さん。私やらかした?覚えはないけど。

「国家専属の騎士、フィストと申します。王の命令によりあなたをお連れします。」


これがフィストとの出会いだった。


お読み頂き、ありがとうございます。


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