5 銀髪の少女と魔法の話
私は故郷を出た。いったん出てしまえば悲しくはなくて。
商人の馬車に揺られながら、ただ景色の変わらない窓の外を眺めていた。
「いやぁ。大変だったな、嬢ちゃん。」
馬車の荷台に一緒に乗っていた男の一人が話しかけてきた。
日に焼けた肌に無造作な茶髪。30代くらいだろうか?
「なんで乗せてくれたの?…私が怖くないの?」
「怖くないさ。こんなチビのどこが怖い?」
その言葉を聞いた瞬間、涙があふれてきた。
「私、死なないんだってっ。刺されたことなんて覚えてないけど、死なないんだって。」
「そうか。」
「化物だったんだって…!」
「そうか。」
「うぅっ――…」
両親に罵倒されたから?もうアミと会えないから?感情がぐちゃぐちゃで分からない。
男は私の頭をなで、涙が落ち着くのを待ってくれた。
「嬢ちゃん、名前は?」
「…リアナです。」
「その名前を、捨てるんだ。」
「へっ?」
「お前は今日から普通の人間になる。世界は広い。ちょっとくらい変でも普通になれる。」
「普通に?」
「俺はウィザードだ。俺達と一緒に旅をして、お前は普通になれ。」
これが、ウィザードとの出会い。
少しぎこちなかった他の人達とも時間が経てば打ち解けて。
話を聞いてみると一緒に旅をする10人、皆が訳ありでウィザードに拾われたらしい。
家出した、犯罪歴がある、目が見えない、瞳の色が珍しい、などなど。
「ウィザードは本当にお人好しよ。」
「そんで俺達は、そのお人好しに救われたってわけだ。」
商品を売りながらいろんな街を楽しく旅をしていたある日。
馬車の進む先に大きなクマが現れた。田舎の村で育った私でもあんなの見たことがない。
食べ物を求めているのか馬車を揺らしてくる。
「きゃっ、大丈夫なんですか!?逃げて!私は死なないから…」
「落ち着いて。ウィザードがいるから大丈夫よ。」
目の見えない女性が微笑む。
「でも、あんなに大きいし…」
「嬢ちゃん、まあ見てな。」
なんと。ウィザードは馬車を降り、クマの眼の前に立ったかと思えば。
「はあっ!」
手のひらから青い炎をビームのように浴びせ、クマを退散させたのだ。
「あれは?」
「魔法、ってウィザードは言ってたよ。この前も魔法で大きな岩を動かしちまった。」
◆◆◆
すぐに私は尋ねた。
「ウィザードさん、私に魔法を教えて?私でも使えるの?」
「おお、急だな。そんなに俺がカッコ良かったか?」
「はい!」
「参ったな…そんなこと言う奴は初めてだよ。」
しぶしぶ、といった様子のウィザードによる特別レッスンが始まる。
「魔法とか言ってるけどな、手品みたいなもんなんだ。」
小さな火でも、とある薬草を近づけたらビームのように激しく燃える。
激しく燃えた火は温度が高いから、青く見える。
大きな岩は『テコの原理』とやらで動かせる。
「ようは見せ方だ。魔法だと言って上手にやって見せれば皆は安心できるだろう?」
確かに。クマが現れた時、みんなウィザードさんはすごいからって安心していた。
私は引き続き旅をしながら数年かけて『魔法』を習得していった。
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