4 鎖姫が生まれた話2
「なに言ってんだ化物!お前は、死なないだろう?」
「え…?なに言って、?」
私は、実の親から吐かれたとは思えない言葉を脳内で転がす。
死なない?何を馬鹿な。そんな人間いるわけがない。
見たことのない形相で怒鳴る父と、その後ろで怯えたように私を見る母。
会いに来てくれないのは、私が神に選ばれてしまったから。村長が厳しかったからだと、
思っていた。そう思えるくらいには、普通に家族として過ごしてきたつもりだった。
「そんな目でこっちを見ないで!ねえ、どうして生きているの?私達のクレアはあの時、死んだのッ!」
◆◆◆
真夜中だった。
家のドアが開く音と、異常に大きな物音で目が覚めた。夫も同じタイミングで気が付いたのか目が合う。
寝室から廊下へ、玄関へ。そっと足音を立てないように歩く。
クレアはきっと寝ているわね。あの子地震でも起きなかったんだから。
『っ、はぁ、はっ…―』
『ちっ…』
私達が見たのはドアの前で座り込む娘と、舌打ちしながら逃げていく男の姿だった。
夫は男を追いかけながら、「医者を!誰か医者を呼んでくれ!」
と叫びながら外に飛び出して行った。
『お腹を、刺されたの?血がっ――いいえ。大丈夫、大丈夫よ。』
『はぁっ、うっ…』
夫が走って戻ってきて、クレアの傷にテーブルクロスを押し当てながら叫ぶ。
『村の人に医者を呼んでもらったから。もうすぐ来るはずだ…だから…っ!』
でも、きっと私達の声はもう、クレアの耳に届いていない。
コクンっ、と首が前に傾き、顔から苦しそうな表情が抜け落ちたから。
『クレア…』
『起きろっ!まだ、まだ14歳なんだ。まだ早すぎる…』
その時。
クレアの、床に着いた腕に、金色に光る模様が浮かび上がった。
絡みつくように腕から首へと伸びていく。
『クレア?どうした?』
『鎖…?』
そして、模様が消えるのと一緒に、クレアの傷も消えた。
『…どうしたの?お父さん、お母さん。こんな真夜中に。』
『化物…』
夫のつぶやきに、私の心のなかには、さっきと違う絶望が広がっていく。
銀色の髪と瞳で生まれた私達の娘。周囲の人には不気味がられたけど、
すごく可愛くて、いい子で、私達の自慢の娘だった。
それでも心の奥底には恐怖があったのかもしれない。
外見。色だけじゃなくて、本当に私達の子とは思えないような美しさをしていた。
私も夫も不細工なわけじゃないけど、この子はあまりにも美しすぎる。
大人びていた。赤ちゃんの頃からほとんど泣かなかったし、賢かった。
そして、ケガも病気も一度もなかった。
小さな切り傷1つも。
どうして、死なないの?
喜ばないといけないのに、人間離れした要素の1つ1つがパズルのピースみたいに埋まっていく。
この村の言い伝え。
『白き化物が現れる。そして、すべてを滅ぼす。』
◆◆◆
「ああ――」
両親の話を聞いて、理解をした。
私が一番最初に裁いたのは、私を刺した強盗だった。
それをきっかけに、私に人を裁かせるようになった。
人を裁くのは、危険だし、誰もやりたがらないことだ。
復讐されたり、恨まれたり、責任を問われる。
化物に、『神に選ばれた子』という称号を与え、丸投げしたかったんだ。
「お前の食事には毒を盛り続けていた。白き化物はすべてを滅ぼす、危険な存在だ!」
村長はツバを飛ばしながら熱弁した。
元々感情の起伏がにぶい方だからか、それをどこか冷めた目で見てしまう。
そっか。でも、私、死んでないね?
「アミを、殴らないで。私、出ていく。もう2度と現れないよ。消えるから…」
「とっとと消えろ!化物!」
そっか。親が、そんなこと言っちゃうんだ。
そんなに怖かった?怖いか。不死身だし、頭と目の色おかしいし。
そうして、村を出た。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!