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2 飴が似合わない少女の話

「ほら、飴ちゃんあげるから帰りな。」

「えー…」

なんだろう。感情がないかのように淡々としていた裁判とのギャップがすごい。


チリンチリン―――


ドアベルの音とともに酒場から締め出された少女と目が合った。

私は彼女が『鎖姫』だっていう確信を持っている。

「あ、」


しかし。謝ろうと思っているのに、いざ目の前にするとどうしても言葉が出てこないのだ。

フードで口元以外すべて覆われていてもなお、感じるオーラに圧倒されて。

言葉でうまく言い表せないけど、なんか、格が違う。

やっぱり彼女は―――


「ねえ、君。他の酒場知らない?」

その気まずい沈黙を破ったのは鎖姫だった。ゆっくりこちらに歩いてくる。


「未成年が入れる所はないですよ…、この街の法律ですから。」

思わず後ずさりしてしまった。気分を害しただろうか。はやく、早く謝らなきゃなのに。

半径2メートル内に接近。そのとき。


「ふふっ、はははっ!君おもしろいね!」


急に鎖姫が笑い始めた。彼女がフードをバサッと脱ぐと銀髪と銀目がこぼれる。


「変装完璧だったはずなのに…。私を見抜いたのは20人目だよ。おめでとう。」

「へっ?ありがとうございます…?」


フード被っていただけでは…?という言葉は飲み込む。


「それとお昼ぶりだね、名前はなんていうのかな?」

「クレアです。あのっ。さっきはごめんなさい!私、何も知らないくせに裁判を邪魔して。怒鳴って。」


言えたっ!心の中で小さく目標達成に安堵する。

恐る恐る、初めてまっすぐ見た鎖姫の顔はすごく優しげだった。


「謝らないでいいよ。私はむしろ嬉しかった。君は君の正義を持っている。立派だね。」


銀色の髪と瞳に真っ白なフード付きの上着。

黄金のゴツい鎖がカチューシャのように巻かれている奇抜な飾り。


神秘的だ。ほんとうに、この人は何百年も生きているのかもしれない。


でもこの圧倒的なオーラと孫を見つめる老人のような笑みに、

手に握っているファンシーなピンクの飴玉が絶望的に似合っていない。


「『なんでそんなにつよいの?』」

気がつくと思わず、絵本に出てきた働き者の子どものセリフを口に出していた。


「急だね?酒場を追い出されたカッコ悪い所しか見てないでしょ。」


当然だ。私すごい変な人じゃん。なんとか言い訳を試みる。

「すごい、オーラっていうか。よく分からないけど強いなあって。へへっ、ごめんなさい。私なに言ってんだろ…」

「私は人を裁いた。だから強くないといけないの。」

「っ…」


『わたしはくまをやっつけた。だからつよくないといけないの。』


絵本のセリフの謎がほんの少し解けた気がした。この人は間違いなく、絵本の鎖姫。


「鎖姫さん。良かったら私の家に来ませんか?お酒があります。」

「ありがとね。でもそろそろ行かなきゃ。…はい、これあげる。」

「これは…」


上着のポケットから出して手渡されたのは手の平くらいの大きさの髪飾りだった。

鎖が蝶々結びにされているようなデザインが綺麗で。


「ありがとうございます…。」

「変装を見破ったご褒美だよ。会えて良かった。元気で。」


フードを被り直して背を向けた彼女は歩いて行った。

やがて街灯の光も届かなくなると夜に溶けるみたいに消える。


「ふぅ―」


圧倒的な威圧感から解放されたからなのか、一気に力が抜けた。

近くの建物の、レンガのざらざらした壁により掛かってため息を付く。


話しているうちにかなり時間が経っていたようで、オーナーが看板を出して開店しようとしていた。


「オーナー!」


「おお、嬢ちゃん。こんな遅くまで探していたのか?」

「私、鎖姫に謝れたよ!」

「そうか。良かったな。暗いから気をつけて帰れよ。」


◆◆◆


「嬢ちゃん…さっきはあんなの付けてたか?」


家へと向かう少女の頭には、しゃらりと揺れる鎖の蝶が羽を休めていた。


お読み頂き、ありがとうございます。


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