表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

プロローグ

「それでは。判決を言い渡しますね。」


そう言った――珍しい銀色の髪に銀色の瞳。何より異質なのは頭に巻いた大きな鎖。

人間とは思えない輝きを放つ少女は広場を見回した。


不思議な声。まるで耳元で(ささや)かれているようにドキッとして動けなくなる。

他の人もそうなのだろう。裁判を見守っていた聴衆は一斉に静まり返った。


「この方には牢屋で15年、罪を償っていただきます。」


「そんなっ、いいのですか…?私は人をっ。」


「私の判決は絶対です。異論は認めません。」


罰が軽い。私は率直にそう思った。今裁判にかけられているのは初老の男性。

数年前に娘を馬車の事故で失い、その馬車を操縦していた男を殺したのだ。


娘のことは同情するが事故は事故。殺すのは間違ってる。

普通なら死刑が妥当だよね?おかしい。なぜみんな声を上げないの?

なぜたった1人の少女の言いなりになって、殺人犯を生かすの?


私は周囲の人達をかき分けて、少女の方へ進み出る。


「ちょっと待って!法律では殺人犯は死刑で裁かれなきゃいけないって決まってるじゃん!

 どうしてたった15年!?」

自分に出せるありったけの声で、広場に響くように叫んだ。


なのに。少女は、まったく動じなかった。

「私の判決は絶対です。異論は認めません。」


「そんなのっ!」

「やめとけ。嬢ちゃん。」

私を止めたのは近所の酒場のオーナーだった。


「それでは、閉廷します。」


初老の男性は騎士に腕を縛られて連れて行かれる。

ああ。だめなのに。


夕日に照らされるその光景が、過去の出来事と重なる。

正しく裁かれなかった、私の―――


「嬢ちゃん。あとで俺の酒場に来な。」

「え、私未成年だよ?いいの?」

「特別だ。」



◆◆◆



「うわぁ…すごい!」

「そのへんに適当に座りな。」


木でできた部屋に染み込んだお酒の匂いが漂い、息をするだけで頭がふわふわする。

初めて足を踏み入れた酒場は、想像よりもきれいな場所だった。


私は足の届かない高い椅子によじ登り、カウンター席に座った。

すると奥に入っていったオーナーはストローの刺さったグラスをひとつ持ってくる。


「ほら、ぶどうの果実水だ。アルコールは入ってない。」

「ありがとう!」

そのまま開店準備をするオーナー。この酒場は日が沈んでから開くらしい。


「嬢ちゃん、悔しかったか?」

「えっ…」

「あの男が死刑にならなかったこと。」


「うーん、」

考えながらストローに息を吹き込み、ぶくぶくと泡を立てる。

悔しい…それとはまた違う気がする。私はあの人が殺した人を知らないし。


「なんか。間違ってるって思ったの。いままでたくさんの殺人犯が死刑になってきた。

 法律によって。なのに、そうしなかったら法律の意味なくなっちゃうじゃん。」


「そうだな。例外を作ってしまえば、法律という仕組みは崩壊する。」


「じゃあなんで誰もなんにも言わなかったの?…あの子が怖いの?」


オーナーはグラスを布でこすりながら小さく笑みを浮かべた。

「嬢ちゃんは…あの男がなんで罪を犯したのか知っているかい?」

「娘さんが馬車の事故にあって、その御者を恨んだからでしょ?」


これは裁判で男が語っていた。腹が立ったのを覚えている。そんなの逆恨みじゃん。


「じゃあもし。彼の娘が()()()()のだとしたら?」

「っ!そうなの…?」


「昔々、ある資産家の女性が結婚した。しかしその女性は馬車の事故にあって亡くなった。

 死後。夫は妻の資産を手にした。当時は馬車に細工の痕跡があったとか話題になっていたよ。」


あくまで噂だがな。と付け加える。

聞き入っていた私はいつの間にかぶどうジュースを飲み干してしまった。


「その上、あの男は心臓病を抱えて先が長くない。少なくとも俺は妥当な刑だと思った。」

「ねえ、なんで旦那さんじゃなくて御者を殺したのかな?それも今になって。」


「資産を手にした夫は酒に狂って早死したそうだ。

 そして、見つかった女性の遺体には暴行が加えられた跡があったとか。

 まあ本当のことはあの男しか知らないがな。」


「私、あの子に謝らなきゃ。」


「運が良けりゃまだこの街にいるかも知れないな。」

「ここの人じゃないの?」


「彼女は裁判をしながら旅をしているそうだが…誰も何も知らない。謎だらけだよ。」

あんな小さな子が。どう見ても10代半ばくらいにしか見えなかった。


「数百年前の歴史書にも登場したとか。『鎖姫』の伝説、聞いたことあるだろう?」

「あの子が!?」


私は酒場を出て、街を歩いてみることにした。

あの子に会えたらいいなという、淡い期待を抱いて。


お読み頂き、ありがとうございます。


この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。



よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ