第九話 登場、黒き美食家!
ドゴォーーーーーンッ!!
地方の採石場に響き渡る大音響!
デブレンジャーの操る巨大ロボ〈ファトルキング・オメガ〉と、巨大なイカのような姿をした宇宙人〈カルマール〉が戦っている。
戦況は、〈カルマール〉が有利。
力比べで〈ファトルキング・オメガ〉が押されている。
「せっかく四人でも戦えるように、長官がロボを改造してくれたってのに……」
「絶対的なエネルギー不足は、改造くらいじゃどうにもなりません」
その時――
シュゴォッ……シュゴォッ……シュゴゴゴゴゴォ……!!!
聞き覚えのある、ジェットエンジンの咆吼。
グリーンが、映像を拡大する。
スクリーンに映し出されていたのは、七人乗りのトゥクトゥク。
スパイスの香りをまき散らしながら、超スピードで近づいてくる。
バシュンッ!
岩を利用して飛び上がったマシンは、まっしぐらに〈カルマール〉へと突き進んでゆく。
「な、なにっ……」
〈カルマール〉は驚愕の表情。
ドビシュッ!!
〈カルマール〉の土手っ腹に飛び込んだマシンは、そのまま反対側へと突き抜ける!
盛大に吹き出す、真っ黒なイカスミっぽい体液!
「なん……だ……と……」
ドォ……ン!
身体に大穴のあいた〈カルマール〉の死骸が、地方の採石場にゆっくりと倒れる。
敵の死骸の向こうには、体液を浴びて真っ黒に染まったトゥクトゥクが止まっている。
先ほどの体当たりで、マシンはほとんど原型をとどめないほどに破壊されていた。
マシンのそばに、ファトルスーツ姿の人物が立っている。
こちらもマシン同様、敵の体液を浴びたのか、全身が真っ黒に染まっていた。
ロボから降りたデブレンジャーたちが、駆け寄ってくる。
「だけど、体脂肪はおろか筋肉も骨も、それに内臓だってエネルギーに変えてしまったのに……どうして生きているんですか?」
「……君たち、私を誰かと間違えるようだな」
皮肉混じりの声。
「ノン」
「じゃぁ、誰なんだよ! ファトルスーツを着てるってことは、オレたちの仲間なんだろ?」
「……私の名は、ブラック・ノワール」
「Fat Assault Teamの略です。デブレンジャーは通称……だけど、どうしてあなたがイエローのマシンを? それに、そのスーツ……敵の体液を浴びたわけじゃなくて、元から黒いんですね」
「私のマシンがまだ届いていないのでね。基地にあったものを拝借したのだよ……しかし、あの悪臭にはまいった。スーツについては、その通り。私のパーソナルカラーだ」
「誰のおかげで助かったと思っている。私が来なかったら、君たちは敗北していたんだぞ」
「そうかもしんないけど、イエローのマシンを壊しちゃうのは違くない?」
「単なるモノではないか。壊れたら修理すればいい。それに、もう存在しない隊員のマシンだ。いずれ廃棄される運命だったのだ。仲間を救う役に立って、そのイエローとかいう男も本望だろう」
「オレだって同じ気持ちだ……だが、せっかく新しく入った仲間だ。時間をかけてわかり合っていこうじゃないか」
「私だって、こんな下品な輩を仲間とは呼びたくない。今後は仕事のパートナーとして、割り切った付き合いをしていこうじゃないか」
「……まぁ、そう言わないでくれ。こいつらだって、付き合ってみれば皆いいやつばかりなんだから」
バシッ!
電光石火の動きで、ブルーの足を掴むブラック。
ブルーがいくら力を込めても、ブラックの手はブルーの足をがっちりと掴んで離さない。
ぱっと手を離すブラック。
バランスを崩したブルーはよろけてしまう。
「噂に聞くF.A.Tの実力はこんなものか……正直言って、失望したよ」
ピンクの手を取り、手の甲に軽くキスをするブラック。
あっけにとられる一同を残して、ブラックはひとりファトルキングに乗り込むと、轟音とともに飛び去っていった。
「こんな最果ての地まで来てもらうのは無理だろう……とりあえず、最寄りの駅までは歩くしかない」
【ナレーター】
新たに加わったデブレンジャーのメンバー。
その名は――ブラック・ノワール!
新顔なのに偉そうな態度。
このままでは、メンバー間の空気がギスギスしてしまう!
まさか、それが敵の罠だったりして?
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
イカスミのパスタは、当たり外れが大きいぞ!
〈つづく〉
【次回予告】
ボンジュール!
新メンバーのブラック・ノワールだ。
ひとつ言っておきたいことがある。
それは、私が食にうるさいということだ。
他のメンバーは、体脂肪を溜め込むために豚のように何でも食べるようだが、私は違う。
美味しいものしか食べないし、食べたくない。
そのための費用、手間、時間は惜しまない。
たとえ餓死しようとも、この信念は貫いてゆくつもりだ。
F.A.Tに入ったのも、経費でそれが賄えるからだ。
本音としては地球の平和など、どうでもいい。
では、次回の予告だ――
まだ話が決まってない?
ま、どんな敵が現れるにせよ、私の活躍で敵を倒す展開のはずだ。
根拠? そんなものはない。
私は自信家なのだ。
次回もまた、私の活躍を観てもらえるものと信じている。
チェンジ、ファトル……オン!
ア ビヤント!