第八話 嗚呼、夕闇に咲く蕃紅花
地方の採石場——
デブレンジャーの四人は敵のカロリー伯爵に苦戦していた。
【ナレーター】
説明しよう!
カリー・イエローが遅刻しているのだ!
「――イエロー、どこにいる! 応答せよ、イエロー! イエロー!」
レッドが左腕のファット・ウォッチに呼びかける。
ザザーッ、ピポッ。
ノイズの混じったウォッチの画面に、イエローの姿が映る。
「そんなことしてる場合か! こっちはピンチなんだ! 行列など抜けて、すぐに来るんだ!」
「そんなこと言ったって……もうずっと前から楽しみにしてた店だし、行列だって、もうすぐわしの番がくるんだ」
「いいかげんにしろ、イエロー! カレーと任務と、どっちが大事なんだ!」
「おっ、いよいよわしの番だ。マッハで食べて駆けつけるから、それまで持ちこたえてくれ――通信終わり」
ピポッ。
画面から、イエローの姿が消えた。
がくっ……。
スローモーションのように、地面に倒れ込むグリーン。
ばたっ……。
グリーンに折り重なるようにして、ピンクも倒れる。
【ナレーター】
ファトルキングを戦闘モードにするには、五人の力を合わせる必要があるのだ!
……えっ、何度も単独で動かしてる?
考察を楽しんで欲しいのだ!
「ぬわぁ~っ、はっ、はっ、はっ! デブレンジャー、貴様らはもうおしまいだ!」
余裕をかますカロリー伯爵。
ファット・ウォッチの表示は〈体脂肪率:〇・八%〉
がくっ……。
「残るはただひとり……ひと思いに楽にしてやろうか、ええ?」
舌なめずりをしながら、手にした鞭を振り上げる。
シュゴォッ……シュゴォッ……シュゴゴゴゴゴォ……!!!
彼方から、ジェットエンジンの咆吼が聞こえてくる。
ズジャァアアッ!!!
減速用のパラシュートを引きずりながら、七人乗りのトゥクトゥクがタイヤをきしませ急停止する。
がくっ……。
倒れるブルー。
イエローの眼前で、地面に倒れ伏す四人の仲間たち。
「ちっ……まだ仲間がいたとはな」と、カロリー伯爵。
「おのれ、カロリー伯爵! 仲間をこんな目にあわせやがって……ゆるさん!!」
【ナレーター】
遅刻のせいだとは、みじんも考えないのだ!
「はっ、たったひとりで何が出来る! 喰らえ、ドレイン・ウィップ!」
カロリー伯爵の放ったドレイン・ウィップが、イエローの身体に絡みつく。
ドレイン・ウィップによって、イエローの体脂肪がみるみるうちに吸い取られてゆく。
「くそっ……このままじゃ全滅だ……よぉし! こいっ、ファトルキング!」
腕のファット・ウォッチに向かって叫ぶイエロー。
空を覆う雲が割れて、ファトルキングが登場!
なんとか鞭を振りほどいて、イエローがファトルキングに乗り込む。
お決まりのポーズとかけ声。
しかし――
「エネルギー ガ フソクシテイマス」
がらんとした操縦室に、コンピュータの声が冷たく流れる。
「ドウニモナリマセン」
「やはり、五人の力を合わせないとダメなのか……まてよ! 長官が言っていたじゃないか。ファトルスーツの隠された機能のことを!」
イエローが、胸に輝くエンブレムをこじ開けると、そこには透明なカバーのついた赤いボタンがあった。
「これが、リミッター解除のボタンだな……だが、これを押せばわしは――」
ためらったのは一瞬だった。
操縦室がカロリーの燃える光に満たされる!
ファトルキング・オメガの振るう光輝く巨大な剣が、カロリー伯爵を跡形もなく消し去った。
◇
イエローのトゥクトゥクに積まれていたカレーを食べて体脂肪を回復した四人のデブレンジャーが、ファトルロボの操縦室に駆けつける。
そこには、イエローのファトルスーツだけが残されていた。
【ナレーター】
仲間を守るために散っていったカリー・イエロー。
デブレンジャーは、蕃紅花のごとく貴重で得がたい仲間を失った。
カリー・イエロー、我々は君の勇気を忘れない。
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
敵を根絶やしにする、その日まで!
※蕃紅花:サフランの漢名。
〈つづく〉
【次回予告】
リーダーのレッド・ミートだ……。
オレたちが操縦室へ駆けつけたときには、全てが終わっていた。
馬鹿だよ、あいつは……ひとりで格好つけて……。
戦いに遅れた責任を感じてたんだろう。
そういう奴なんだよ。
不器用で、鈍くさくて、古めかしくて…………優しくて……。
そういえば、あいつの席の下にはレトルトカレーが山ほど入っていた。
肉、魚、野菜、いちご――きっと、オレたちのために用意してくれてたんだろう。
そういう奴なんだよ、あいつは。
次回、『登場、黒き美食家!』
お楽しみに。