第七話 誕生、デブレンジャー!
業務用のスーパーで、豚の脂身をバカ買いしている若い男。
後ろからポンと肩を叩かれる。
振り返ると、サングラスをかけた怪しい男。
「……この肉はオレが買うんだからな」
「君、その脂身をどうする気だ?」
「食うんだよ、決まってるだろ」
若者が押すカートには、百グラム十円の脂身が山と積まれている。
「この量を、君ひとりでかね?」
「……あんたに関係ないだろ」
「そんなに食べて、腹は壊さないのか?」
「うるさいな、これしきのラードで腹なんか壊すわけないだろ。買い物のじゃましないでくれ」
「私についてくれば、腹一杯になるまで肉を食わせてやる」
「なにっ、それは本当か!?」
「嘘は言わん。その代わり、命を賭けて働いてもらうことになるが」
「さっさと、どこへでも連れて行け!」
「本当にいいのか? 君の命が――」
「早くしろ! こっちは腹が減ってイライラしてるんだ! もし嘘だったら、命の心配をするのはあんたの方だからな!」
「フフフ……それは頼もしい」
約束通り、若者は好きなだけ肉を食べた。
そして――
最初のデブレンジャーが誕生した。
【ナレーター】
説明しよう!
残りのメンバーも似たような経緯で、デブレンジャーとなったのだ!
◇
――F.A.T秘密基地
壁の方を向いていた嵐山長官が、くるりと振り返る。
「ちょっとどころじゃないよ、ブルー。けっこう危なかったんだから」
ピンクが、温泉饅頭を差し出す。
ほろ苦い笑みを浮かべた嵐山長官は、饅頭の箱を押し戻す。
手にした土産の包みを破り捨てたピンクが、饅頭をひょいひょいと口に放り込んでゆく。
「そうではない……食べたいのは山々なんだ。だが私はもう、食べることができない身体なのだよ」
「そういえば、ちょ~かんが何か食べてるところ、見たことないかも」
ピンクは、空になった饅頭の箱をグリーンに渡す。
悲しそうな顔でグリーンが空箱を捨てにゆく。
嵐山長官はくるりと身体を回すと、デブレンジャーに背を向けたまま話し始めた――
「かつて私は、F.A.Tの前身であるO.B.T(おかわり防衛隊)のメンバーだった。プロトタイプのファトルスーツ〈Type-00〉を身に纏い、仲間と共に侵略者と戦ったものだ」
「敵の首領ゲプトロンと戦ったときのことだ。私を除く全てのメンバーがやられてしまった。そして、私の体脂肪も底を突きかけていた」
「馬鹿ですね。死んでたら、今こうして話をしている長官は誰なんですか?」
「ぎゃぁっ……目が、目があっ!」床を転げ回って悶絶するグリーン。
「ちょ~かんは、どうやってそのピンチをきりぬけたんですか?」
一同「筋肉!?」
「ファトルスーツは体脂肪をエネルギーに変換することで強大なパワーを生み出すわけだが、脂肪の代わりに筋肉を使うこともできるのだ……いや、筋肉だけではない。骨や内臓だって活動エネルギーに変換できる」
「リミッターがかかるので、今のスーツでは使えない手だがな。ファトルスーツの胸にあるマークがそのリミッターだ」
「ああ……しかし、その代償は大きかった。おかげで私は著しく健康を害した。寿命も大幅に縮めてしまった。もう、二度と太ることはできないし、戦うことも――」
「O.B.Tは全滅し、地球は再び侵略者の脅威にさらされるようになってしまった。新たな戦隊の創設が急務だったのだ」
「その通りだ。諸君、これからも地球のために戦ってもらいたい」
ビ~ッ、ビ~ッ!
けたたましいアラーム音とともに、壁の回転灯がぐるぐると光り出す。
くるりと振り向いた嵐山長官が重々しく、
「デブレンジャー、出動せよ!」
一同、カチリとかかとを合わせながら、ビシッと敬礼!
「了解!」
ぐったりとしたグリーン・ベジタボーの身体を、ブルー・フィッシュが肩に担ぐ。
目がキラーン。
【ナレーター】
壮絶極まる、嵐山長官の過去。
戦うことは敵わずとも、その熱き想いは若者たちに受け継がれている。
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
侵略者など皆殺しだ!
〈つづく〉
【次回予告】
スパイスこそ正義!
カリー・イエローだ。
新装開店のカレー屋に並んでいたおかげで、わしは戦闘現場に遅刻してしまった。
わしのせいで、グリーンの命が危ない!
宇宙人め、許さんぞ!
粘膜という粘膜に、辛みスパイスをすり込んでやる!
こうなったら、グリーンの弔い合戦だ!
次回、『嗚呼、夕闇に咲く蕃紅花』
スパイスこそ正義!
ちぇンジふぁトルゥゥ、おん……ヌッ!