第五話 紹介、ひみつ基地!
新宿二丁目にひっそりと建つ雑居ビル。
そのビルの五階に、F.A.Tの秘密基地がある。
【ナレーター】
説明しよう!
〈デブレンジャー〉は通称で、正式名称は〈Fat Assault Team〉略して〈F.A.T〉なのだ!
秘密基地の狭い室内に、デブレンジャーが勢揃い。
全員、肩で息をしている。
部屋の奥でデブレンジャーたちに背を向けていた嵐山長官が、くるりと振り返った。
体重百キロ越えがあたりまえのデブレンジャーたちとは対照的に、長官の身体は今にも折れそうなほどやせ細っている。
「直してやりたいのは山々だが、ビルの持ち主がエクアドルに住んでいてな。連絡が取れんのだ」
再びメンバーに背を向ける長官。
「だったら、勝手に直してしまえばいいんじゃないのか? 非常階段で基地に出入りするのは、もううんざりだぜ」
長官がくるりと振り返る。
「ブルー、仮にも正義を標榜する我々が無断で他人の財産をどうこうするなど、できるわけがない」
背を向ける長官。
「ちょ~かん、そのクルクルやめません? かっこいいと思ってるみたいですけど、しょ~じきキモチワルイですよ?」
「そうですよ、やるにしても最初の一回だけでじゅうぶんですって」
「そうだ! 僕たちが長官の周りを回ればいいんじゃないかな。中華料理のテーブルみたいな感じで、長官を中心に床が回転するような装置を作って――」
「ぐえぽっ!」部屋の隅まで転がって、グリーン・ベジタボーが沈黙。
レッド・ミートが、ブルー・フィッシュに向かってグッと親指を立てる。
ブルー・フィッシュも黙って同じ仕草を返す。
語らずともわかり合える。
共に死線を越えてきた仲間同士の絆は深い。
ビ~ッ、ビ~ッ!
けたたましいアラーム音とともに、壁の回転灯がぐるぐると光り出す。
くるりと振り向いた嵐山長官が重々しく、
「デブレンジャー、出動せよ!」
一同、カチリとかかとを合わせながら、ビシッと敬礼!
「了解!」
ぐったりとしたグリーン・ベジタボーの身体を、ブルー・フィッシュが肩に担ぐ。
目がキラーン。
雑居ビルの地下駐車場には、各メンバー専用のビークルが格納されている。
【ナレーター】
都内なので、駐車料金は目の玉が飛び出るほど高額なのだ!
一同「おぅ!」
各メンバーが、それぞれのマシンに乗り込む。
■レッド・ミート
超ロングノーズのアメ車。
ボンネットから突き出した大型のスーパーチャージャーも相まって、非常に前が見えづらい。
V型八気筒のOHVガソリンエンジン。燃費は戦車並み。
色は赤――ちょっと日に焼けてオレンジっぽく色褪せているのが渋い。
■ブルー・フィッシュ
60年代カフェレーサー風バイク。
タンク色はスカイブルーとシルバーのツートン。
空冷単気筒風の原子力エンジン。
フィッシュテール型マフラーから高温のガスを噴射し、推進力とする。
最高時速は五百キロを越えるが、タイヤが持たないし、前後ドラムブレーキもヤバイ。
■カリー・イエロー
七人乗りのトゥクトゥク。
推進力はジェットエンジン。
廃熱を利用してカレーを温められる。
■グリーン・ベジタボー
自転車。
■ピンク・スイーツ
半重力バイク。
敵の宇宙人から強奪したものを、ピンク色の缶スプレーで雑に塗装。
「……すまねぇな、グリーン。このバイクは一人乗りなんだ。目が覚めたら追いかけてきてくれ」
けたたましい音を立てながら、各ビークルが次々と発進してゆく!
【ナレーター】
急げ、デブレンジャー!
地球の未来は君たちにかかっている!
◇
――箱根
かぽーん……
露天の温泉に浸かるデブレンジャーたち。
澱のように積もった疲労が、箱根の湯へと溶け出してゆく。
「アタシ、タオルの下ハダカなんだけど……ホントにここって貸し切りなの?」
「離れてるんだから、もっとおっきな声でしゃべりなよ、ブルー」
「そういえば、グリーンがまだ来てないな!」(棒読み・大音量)
「ホントだ! 存在感うすいと思ってたけど、今日は存在すらしてない」
「グリーンのやつエコだとか言って、かたくなに動力付きの乗り物を拒むからなぁ」
「さっきから黙って聞いてりゃ、好き放題いいやがって! 今日という今日はゆるさねぇからな――」
ゴゴゴゴゴ……
雲が割れ、巨大戦艦〈ファトルキング〉が登場!
操縦席の窓が開いて(ハンドル式)、グリーン・ベジタボーが顔を出す。
「みんな~!」
【ナレーター】
戦い続けるデブレンジャーに訪れた、つかの間の休息。
だが、宇宙人の侵略は待ってくれない!
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
正義の脂肪を燃やすのだ!
〈つづく〉
【次回予告】
きゃぴっ! 甘いものしか食べたくない、てか食べないピンクで~す♥
アタシ、甘い物ならなんでも大好きなんだけど、しいてゆうなら洋菓子系が好きかも~。
でも、あんま量は食べれないんだ。
ふつ~の女の子の十倍とかしか食べれない。
それで、食べたものは全部エネルギーになるってゆう、特異体質。
だからトイレ行かなくてもいいの!
いいでしょ? すごいでしょ? ほめてほめて!
は? 次回の予告?
……ダルいからテキトーにやっといて。
じゃっ、おつかれ~♥
【ナレーター】
……箱根で英気を養っていたデブレンジャーの前に、饅頭将軍が立ちはだかる!
気をつけろ、デブレンジャー!
蒸したての饅頭は、意外と熱いぞ!
次回、『美味、饅頭将軍!』
お楽しみに!